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山田尚子監督の次回作に期待する

"女の子が好きな相手に告白する"

彼女の人生で最も劇的な瞬間に映画が終わり、私は飛び跳ねるように興奮した。これほど鋭利な切れ味で終わる映画がこの世にいくつある、何度も独り言でそう言った気がする。

次の作品では、聞きたくないことを言われたときに傘を使って相手を遮る、という一つの動作によって映画全体のテーマを描写してしまった。言葉のない映像表現に痺れ、ここまで圧巻の演出をやってのける監督は何者なのか、そのときから私は京都アニメーションの山田尚子監督を"今必ず追うべき映画監督"の一覧に加えた。

過去二作で天井まで上がりきった期待値を、天井を突き破って超えてしまった"リズと青い鳥"。今後作られるであろう全ての百合作品が参照する新たなクラシックになる。言葉によるやりとりは必要最低限で、揺れ動く彼女たちの心情が微妙な仕草によって積み重ねられていく本作。ここで言う微妙な仕草とは、具体的に言えば"強がりをしているときに出てしまう癖"や、"本当の想いを誤魔化そうとする足先のモゾモゾ"などだ。そもそも二人の女の子の微妙に変化する心理描写のみが映画のほとんどを占めているという構成、よく考えなくとも怖すぎる企画だと思うのだが、これを説得力ある形で描写するためにアニメーターがどれほど繊細な仕事をしているか、監督はどうやってこれらをコントロールしているのか。驚きの仕事だと思う。

この世界には"リズと青い鳥"を観た人間と、これから"リズと青い鳥"を観る人間の二通りが今日も生活を続けている。だからこそ我々は"リズと青い鳥"のラストシーンを注意深くみていかなければならない。ラストの切れ味こそ山田尚子の真骨頂だ、鋭利に磨かれたその映画的切先を観よ。いつもは希美の後ろをついて歩くだけだったみぞれ。しかし映画が終わるまでの約一秒で関係性が劇的に変化する瞬間を切り取ってみせた。その歴史的一瞬を観よ。

次に監督はどんな作品を作ってくれるのだろう。私は京都アニメーション、そして山田尚子監督が作る次回作にいつも期待していたし、その気持ちは今も変わらない。

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