【散文】Honey on me
遠のいていく無骨なその手に、無意識に自分の指を絡めて、きつく結んだ。
当然、その手の主は予想外の行動に目を見張ったがそれも一瞬で、私より幾分か体温が高い指をしっかりと重ねてくれた。どうしてこんなにも、この人はやさしくて、あまいのだろうか。
先ほど食べたパンケーキが頭をよぎる。あつくてふんわりとしたケーキ。かけられていたシロップは、舌の上でしっかりとした甘みと多幸感をもたらした。ほんの、ひとかけらなのに。それが喉を通り過ぎたあとも蕩けた味覚はすぐには戻らず、口にした紅茶すら琥珀色に染めてしまうほどだった。
喩えるなら、きみはこの蜜。
とろりとろりと音もなく、この肌に染み込んで、すでにきみは私のなかにある。なんて感情を伝える術はなく、空の呼吸を繰り返す唇。それに言葉を吹き込むように、或いは獰猛な肉食獣が獲物を捕食するかのように、きみのおおきな口が私を覆う。
知らなかった、きみは甘いだけじゃないんだね。