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愛着に問題のある人はどうやって自分のこころを守っているか?|防衛機制の視点から

【質問】愛着障害や愛着不全と関係性の高い防衛機制ってありますか? また防衛機制には未熟なものと成熟したものがある、と前に読んだ気がするのですが、 回復が進むと使う防衛機制が変化してくるのでしょうか?

https://peing.net/ja/q/296c5b98-37e5-48fc-b6d6-0232d9740ad6

【お返事】防衛機制は、精神分析の用語でフロイトが提唱したものです。フロイトの娘、アンナ・フロイトによってその理論は完成し、時を経てだんだんと拡大していきました。防衛機制とは、受け入れがたい状況や危険な状況に直面したとき、それによる不安を軽減しようと、無意識的な行動に出ることです。「こころの服」にも例えられます。ある「服」を着ることで、そのように振る舞って困難を打開(無視)しようとするのです。



4つのレベルがあって、1.精神病的防衛→2.未熟な防衛→3.神経症的防衛→4.成熟した防衛 となります。防衛機制は成熟したものならどんどん使っていいんですね。

成熟した防衛には、マインドフルネスや感情のコントロールも入ります。精神的な疾患から回復すると、成熟した防衛機制を使うようになります。

細かくみていくと、愛着障害や愛着不全の人々が使いやすい防衛はありますね。否認、転換、投影とか。でも彼らに特化した防衛ではありません。他の人でも、それらを使います。というか、愛着はあらゆる人にとって生命線のようなものなので、愛着の視点でみると、【防衛機制のすべては愛着の視点から考えられる】といってもよさそうです。それでも、愛着障害の人が使いそう、愛着不全の人が使いそうな防衛機制も区分けできそうです。

今回は、防衛機制を愛着の視点でみてみましょう。ここでは便宜的に愛着障害はA、愛着不全はBと表記します。各防衛機制の説明の多くはwikiからの改訂です。分かりやすく説明し直しました。AかBかの判断は、高間の臨床経験上のものです。

※この記事は、Twitterの質問箱に来た質問を深掘りして回答したものです。

以下の防衛機制は、Vaillantの4分類によるものです。レベル1→レベル3と、軽くなっていきます。レベル1は病的な防衛とされています。またレベル4は健康的な防衛で、ほとんどの人が使っている防衛です。

■レベル1:精神病的防衛

自己愛的な防衛とも言われています。

転換(Conversion) - 抑圧された葛藤が、麻痺や感覚の喪失となって表現されること。手足が痺れたり、失立失歩(脱力し立ったり歩けなくなる)、声が出なくなる(失声)、視野が狭くなる、嚥下困難、不食や嘔吐などの症状が出ることも。

A:× まれにある
B:○ 結構ある

否認(Denial)- 不安を生み出す出来事から目をそらし、認めないこと。「抑圧」はその出来事を無意識的に追い払うもの。「否認」は出来事自体が存在しないかのような言動をとる。抑圧よりも無意識度が高い。

A:○ 幸せを全否定する
B:○ 幸せを部分的に否定する

歪曲(Distortion)- こころの内面のニーズを満たすよう、外部の現実を捻じ曲げて思い込むこと。例えば、虐待を受けてきたのに、親は悪くないと思い込む。

A:○ 親に対しての絶対的なファンタジーに支配されている
B:○ 対人関係全般に歪曲がある

分裂(Splitting) - 相手や自分に対しての「良いイメージ」や「悪いイメージ」を別々に隔離すること。「良い」部分が「悪い」部分によって破壊されるという被害的で未熟な不安があるため、両者を分裂させ、分けることで良い部分を守ろうとする。抑圧が「臭いものにフタをする」のに対し、分裂は、臭いものと臭くないものを分けて、それぞれ別の箱に入れてしまう。分裂させた自分の悪い部分は、しばしば相手の中に「投影」されることもある。

A:○ 親へのファンタジーを良いイメージとしてしっかりと隔離している
B:○

躁的防衛(Manic defense) - 自分の大切な人を失ったり、傷つけたりしてしまったと感じた時に不安や抑うつが生じるが、それらの不快な感情を意識しなくするために、一時的に躁状態になること。

A:× 躁的にはなりづらい
B:○

まとめると、

・愛着障害は、否認、歪曲、分裂などの防衛機制を使いやすい。
・愛着不全は、転換、否認、歪曲、分裂、躁的防衛などの防衛機制を使いやすい。
・愛着不全のほうが、未熟な自我ゆえに崩れやすく、精神病的な防衛を取りやすいといえる。

■レベル2:未熟な防衛

行動化(Acting out)- 抑圧された葛藤が問題行動として現れること。具体的には性的逸脱行動、自傷行為、自殺企図、暴言、暴力、過食、拒食、浪費、万引き、薬物依存、アルコール依存など。

A:× 治療初期には行動化する例もまれではない。20代までの若い愛着障害の人にみられることもある。
B:○ かなり行動化する

途絶(Blocking) - 意識障害がある訳ではないのに、感情を意識に上がらないように思考や行動の流れが突然停止し、行動や会話が中断する。ただし、しばらくしたら元に戻る。

A:○ 解離のひとつとしてあり得る
B:○ 身体化のひとつとしてあり得る

病気不安症(Illness Anxiety Disorder)- 深刻な病気にかかっていると過度に思い込み、心配する状態。森田神経質はここに該当する。

A:× あまりない
B:○ かなりある

取り入れ(摂取, Introjection)- 投影と逆で、他者の中にある感情や価値観を自分のもののように感じたり、受け入れたりすること。特に他者の好ましい部分を取り入れることが多い。
学童期の発達過程においては良心の形成に役立つ。しかし度が過ぎると主体性のなさに繋がったり、他人の業績を自分のことと思い込んで満足する(自我拡大)、自他の区別がつきにくい(自己分化していない)人間となる。「相手にあやかる」行動だが自立を阻害する原因になることもある。

A:× 他人に徹底的に合わせるので、取り入れているようにみえる。しかし実態は取り入れとはいえない。
B:○

シゾイド幻想(Schizoid Fantasy)- 葛藤を感じないようにするため、妄想へと退行すること。自分がその国の王になったような気分である。

A:× 程度がひどいとあり得る
B:○ 程度がひどいとあり得る

理想化 - 相手に対して複雑な感情があるとき、それらを自分の中で統合できないとき、相手を善と悪に分裂させて、善か悪かのいずれかとして認識すること。
相手を良いものとしてとらえる原始的理想化(primitive idealization)、あるいは相手を悪いものとしてとらえる脱価値化(devaluation)が起こる。
子どもは、人間は良い面も悪い面もあることを学んでいる最中なので、理想化が起きても問題はない。成人も理想化するが、それが問題になることはない。問題となる理想化は、未熟な理想を繰り返すこと。
例えば、自分の恋人は完璧であると思い込んだり、宗教の指導者は間違いは犯さずに、指導者を悪者にするくらいなら死を選ぶといった理想化は、問題である。

A:× 親へのファンタジーの原始的理想化はあり得る
B:○

受動的攻撃行動- サボタージュなどの受動的な攻撃。

A:× これも自己主張の一つと考えると、これができるようになると治療が進んでいる
B:○ ひんぱんに使う

投影性同一視(Projective identification) - 自分の嫌な部分を他人に押し付けて、自分が完璧であろうとすること。相手を利用して、自分を良い人だと思いこむ行動。
例えば、恋人に「時間にルーズでだらしない!」と非難する場合、自分も実際時間を守れずだらしなかったりすること。例えば、自分が相手を嫌いという気持ちを受け入れることができないため、相手が自分を嫌っていると思い込むこと。例えば、有名人の不倫報道は自分とは全く関係ないのに非難すること。

A:○ まれにあり得る
B:○ ひんぱんに使う

投影(Projection) - 自分の中にある受け入れがたい不快な感情を、相手が持っていると思うこと。例えば、実際は、自分が相手を憎んでいるのに、「相手を憎んでいる」とは意識できずに、相手が自分を憎んでいて攻撃してくるのではないかと恐れること。例えば、自分が性的な欲望を感じている異性に対し、相手が自分に情欲を感じていると思い、「誘惑されている」と感じること。

A:× 自分の感情は理解している(理解はしているが、感情として感じていない。客観的に感情を見ている)
B:○ ひんぱんに使う

退行(Regression)- 耐え難い事態に直面したとき、現在の自分より幼い時期の発達段階に戻ること。

A:× あまり使わない
B:○ ひんぱんに使う

身体化(Somatization) - 抑圧された葛藤が、様々な身体症状となって表れること。心気症ともいう。病気不安症とも同類。

A:× 大ストレスがかかると身体化することもある
B:○ ひんぱんに使う

希望的観測

A:× 希望はもたない
B:○ ひんぱんに使う

まとめると、

・愛着障害は、途絶、投影性同一視などの防衛機制を使うこともあるかも。
・愛着不全は、行動化、途絶、病気不安症、取り入れ、シゾイド幻想、理想化、受動的攻撃行動、投影性同一視、投影、退行、身体化、希望的観測などの防衛機制を使いやすい。
・未熟な防衛は、愛着不全の人が多く使う傾向があります。なぜなら「愛着不全は思春期心性である」からです。

■レベル3:神経症的防衛

このレベル3の多くの防衛が、防衛機制としては有名ですね。フロイトが提唱したものが入っています。なぜなら、フロイトの精神分析は神経症患者が対象だったので、納得できます。この神経症的な防衛は、多くの人が使う(少し病的な)ものです。愛着障害、愛着不全の関係なしに使う防衛といえそうです。神経症的というところで成熟少し手前の人々も該当しそうですが、愛着不全の人も、精神的に調子のいいときは、使うでしょう。愛着障害の人は、こういう防衛も形式上(かなり意識して)使うように思います。

統制(Controlling) - 出来事や他人を、過度に管理・統制しようとする。

A:× 統制型の愛着スタイルの場合は、あり得る
B:○ ひんぱんに使う

置き換え(Displacement) - 欲求を、本来のものとは別の対象に置き換えることで安心する。

A:○
B:○

解離(Dissociation) - 苦悩を避けるために、自分のパーソナリティの一部を、一時的に変更すること。記憶を消して逃げる(遁走)など。
注意:解離が神経症的かというと異論が噴出するでしょう。確かに離人的なものは神経症圏でしょうが、遁走くらいになると精神病的な色彩が強くなります。このVaillantの区分も、臨床的にみるとさまざまな問題点を含んでいそうです。

A:○ 頻繁に使う。軽いものから重篤なものまで広くある。遁走はかなり重篤なもの。
B:× たまにあり得る

外在化(Externalization) - 苦悩は自分の中にあると苦しいので、自分の外側の問題にすり替える。

A:×
B:○ 他人のせいにする

知性化(Intellectualization) - 感情や痛みを、難解な専門用語を使って延々と語ることで感じないようにする。観念化し、情緒から切り離す。

A:○
B:○

隔離(Isolation) - 思考と感情、または感情と行動が切り離されていること。本音と建前。おかしな行動だと自分では気づいているが、その行動が止められない。強迫性障害と関わっていると考えられている。

A:○
B:○

合理化(Rationalization) - 満たされなかった欲求に対して、理論化して考えることにより自分を納得させること。イソップ寓話の「すっぱい葡萄」が有名。葡萄を取ろうとしたとき、上の方になっていて手が届かない葡萄を、「届かない位置にあるのはすっぱい葡萄」だと口実をつける。

A:○
B:○

反動形成(Reaction formation) - 受け入れがたい衝動が抑圧され、無意識的なものとなり、意識や行動レベルでは正反対のものに置き換わること。本心と裏腹なことを言ったり、その思いと正反対の行動をとる。例えば、憎んでいるのに愛していると思い込んだり、愛他心の背後に実は利己心があったり等。

A:○
B:○

抑圧(Repression) - 実現困難な欲求や苦痛な体験などを無意識の中に封じ込めて忘れようとすること。その内容には観念、感情、思考、空想、記憶が含まれる。フロイトはこの「抑圧」が最も基本的な防衛機制と考えた。特に心的外傷体験(トラウマ体験)や、性的な欲求などの倫理的に禁止された欲求が抑圧されると考えられている。

A:○
B:○

打ち消し(Undoing) - 罪悪感や恥の感情を呼び起こす行為をした後で、それを打ち消すような類似の、またはそれとは逆の、行動を取ること。分離と共に用いられることが多い。

A:○
B:○

逃避(Withdrawal)

A:○
B:○

まとめると、

・愛着障害も愛着不全の人も、神経症的な防衛は使う。

■レベル4:成熟した防衛

アクセプタンス(受容)

愛他主義(Altruism)- たとえ自分が不利益を被っても、他人に代わって建設的な助けをする。

先取り(Anticipation)- 将来の苦痛を予想する。

禁欲主義(Asceticism)

勇気(Courage)

感情の自己コントロール

感情的レジリエンス

許し(Forgiveness)

感謝(Gratitude)

謙虚(Humility)

ユーモア

同一視(Identification) - 自分にない名声や権威を持っている人に、自分を近づけることによって、自分を高めようとすること。他者の状況などを自分のことのように思い、感じ、考えて行動すること。弟子入りをして、技術やスキルの習得するときに使われる。

慈悲

マインドフルネス

節制(Moderation)

忍耐(Patience)

尊敬(Respect)

昇華(Sublimation) - 反社会的な欲求や感情を、社会に還元できるような文化的な価値ある行動へと置き換えること。例えば、性的欲求を、詩や小説に表現することなど。

抑制(Suppression) - 意識的な衝動を、意識的に延期する。

寛容(Tolerance)

■まとめ

・愛着障害の人は「神経症的」防衛機制、愛着不全の人は「未熟な」防衛機制を使っている。

・「精神病的」防衛機制は、愛着障害も愛着不全の人も病態が重くなると使う。特に愛着不全の人は、未熟な自我ゆえに崩れやすく、精神病的な防衛姿勢を取りやすいと思われる。

・病的な防衛機制を成熟した防衛機制に変えていくことが望ましい。

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