機能不全家族の2つのタイプ|纏綿(てんめん)家族と遊離家族
他人との境界があいまいな人々は、もともとの家族関係がそういう関係を作っているうことが多いです。
家族理論では、次のような定義があります。家族間の境界は、世代間境界といって、親子間の境界=バウンダリーを意味します。
家族間の境界が曖昧な場合は、「纏綿(てんめん)家族」(難しい漢字ですね笑)といい、家族の中で親子が密着している状態です。バウンダリーがありません。
また境界が硬直した場合(遠く離れている場合)は、「遊離(ゆうり)家族」といい、家族の仲が非常にドライな、交流の少ない無味乾燥な状態です。
上の2つは違う状態に見えますが、そうではありません。親も子もどちらも、思春期心性が支配する力学が働いている家族像です。機能不全家族です。
健全な家族は、纏綿(てんめん)家族でも遊離(ゆうり)家族でもない状態です。適度なつながりをもって、しかし過干渉はしない状態ですね。
どうしてこういう家族像が出来上がってしまうのかは、それは親が子どもに対して条件付きの愛情をちらつかせてきたからです。
子どもはつねに見捨てられないように不安な表情を浮かべて大きくなります。すると、自分を認めてほしいという気持ちに常に支配されるようになり、他人に対してバウンダリーを越えて接近してきます。
見え方によってはスネて、接近しない場合もありますが、ルーツは同じです。スネている状態というのは内心は接近したい気満々ですから。
これらの人々にはカウンセリングが必須です。しかし生半可なスキルでは対応できません。長年、親子間の愛着問題に取り組んだカウンセラーを見つけることでしょう。
※今回の記事はラジオでも視聴できます。テキストを見ながらどうぞ▼
※この記事は、Twitterの質問箱に来た質問を深掘りして回答したものです。
■纏綿家族も遊離家族もルーツは同じ
繰り返しますが、纏綿(てんめん)家族」も「遊離(ゆうり)家族」もルーツは同じです。機能不全家族のことで、タイプが違うだけです。
纏綿家族はベタベタ過干渉
遊離家族は気にかけずに放置
出方は違いますが、バウンダリーが変なのは同じですね。こういうふうに、見え方は違うけれど、内実は同じで、「子どもに興味が薄い」のです。
過干渉って、子どもに興味がありそうに思いますが、興味があるのは親「自身」についてです。自分のために、子どもに興味を持っているように見えるだけです。(無意識に)自分の満足や不安解消を優先しているために、子どもにアレコレ干渉してくるのですね。
ただ、この2つの状態を行き来する(変化する)のは、あまり見たことはありません。過干渉はずっと過干渉で、放置はずっと放置です。
これは家族という文化は変わらないということなのでしょうか。よく分かりませんが、家族の重力はそれほどまでに強いのでしょう。自分を、機能不全家族の引力圏から引きはがしていくことは、至難のわざです。ですからカウンセリングの時間も長くかかるのです。
これと似た例で愛着障害の出方の違いがありますね。反応性と脱抑制です。こちらも両者を行ったり来たりはしませんが、ルーツは同じで愛着障害です。
質問者さんの例についていえば、纏綿家族は、親も子どもも巻き込み合っていますから、暴力で言うことをきかせているわけではありません。親も子どもも意図せずにべたべたしています。ですから思春期になっても、相変わらずべたべたしています。親も子も、そのことに気づいていません。
■放任と社会的ネグレクトの関係は?
放任(や放置)と社会的ネグレクトは、なかなか混同されやすいですが、全然違うものなんですね。
子どもの主体性を尊重している放任は、適切な愛着関係が存在しています。
子どもに興味が薄い放任や放置は、親の都合が優先されており、愛着関係は存在しているが、それが不完全な状態です。
社会的(情緒的)ネグレクトは、愛着が存在していません。
質問者さんの「社会的信用に関して認めてほしくて、個人的には嫌われてもいい」というのは、かなり成熟した方なのではないでしょうか。自立している感じがあります。
バウンダリーを越えてくる人は、社会的なものよりも個人的なものを強く求め、絶対に嫌われたくないと思っています。見捨てないで、と思っています。
「綱引きよりも遠慮、最小限の頼り・頼られ」というのも、少し距離があるように見えますが、適切な愛着関係がベースにあるように感じます。
愛着不全と愛着障害の差については、専門家領域になります。詳細は、愛着についての研修をがっちり受けて、実際に現場で体験しつつこれらの差を体感できる知識を身に付けてください。
この方からは、続きの質問箱があって、自分は愛着不全の中で育ったという本音をいただきました。本音を語っていただき恐縮です。
なかなか質問箱は突っ込んだ話は書きにくいですね。匿名ですがSNSですから拡散されてしまう恐怖もあります。
ですから、あまり個人的なことはそこそこで、というさじ加減がいいのでしょう。難しいですが、自分のことについての直球の質問よりも、半分他人みたいな質問がいいのかもしれません。
直球でもいいという人は、私も直球で回答しますが、そのへんは質問されるほうで調節してくださいね。
■家族力動を見るには3世代ジェノグラムが必要
ここまでの詳しい質問になると、情報が足りないので、よく分かりません。家族内の力学(関係性)は物理的な力と同じで、同じ力が、家族の構成員全体に働いていますので、ひとりだけ違う力学で動くとは考えにくいですね。
子どもに脳機能の問題がある場合は、その子は違う力学で動くのは想像できますが、こころの状態はすべて同じ力が家族の各構成員に加わっているとみていいでしょう。
ですからひとりだけ違うというのは、違うように見えているだけなのか、その子自身の器質(脳機能)的な問題がある場合と考えられます。
こういう場合を見立てていくには、家族全体のジェノグラムが必要になってきます。家族3世代くらいのジェノグラムを見渡すと、その家族がどのようなシステムを作っているのかが、よく見えてきます。
つまり、その風景が、纏綿なのか遊離なのか、はたまた虐待なのか、あるいは普通だったのか、などが見えてきます。ジェノグラムというのは、本当にカウンセリングの羅針盤なんです。何はともあれジェノグラムです。
カウンセラーの方ならそうやって、相談者の家族の風景(力学)を深めていかれてください。そうすると謎は解けてくるでしょう。家族百景ー百の家族があれば、百の評価があります。
しかし、ジェノグラム上には、あるタイプの家族として、その家族のシステムが見えてきます。カウンセラーはそのシステムのことに想いをはせつつ、カウンセリングを進めましょう。
纏綿家族とか遊離家族というのは、それ自体を取り上げるのではなく、「機能不全家族」つまり愛着不全の家族のタイプ別にすぎないと考えるとスッキリするのではないでしょうか。少し概観した視点で見る、ということですね。
■纏綿家族と愛着理論
明確にすると、①纏綿家族で育つと子どもは愛着は育たないのか?②ウンセリングで母親が境界知能と言われた、という質問と事前情報になります。
◇愛着障害と境界知能
まず②から考えます。母親が境界知能なら子どもは愛着障害になる可能性があります。全員がそうなるというわけではありません。周囲の環境が良ければ、子どもは愛着障害を越えて育っていく可能性も高いです。
また境界知能をどう見立てていくかも重要になります。以前は IQ70~IQ85までを境界知能と(簡単に)考えていましたが、DSM-5から適応行動を評価する形になりました。
IQによる見立ては、使いやすいので相変わらず使われています。福祉の現場は特にそうだと思いますが、心理の現場は適応行動の評価へシフトし始めています。この意味は、例えIQ70であっても知的障害ではない、という診断もあり得るということです。
その影響もあって、WISC/WAIS知能検査だけでなく、vineland-ii 適応行動尺度が用いられることも増えていると聞きます。近々、私もこの研修を受ける予定です。
一般の方は適応行動の評価などは難しいので考えなくていいですが、心理職の方は、今後、知能検査だけでは理解しがたい場面に遭遇するかもしれません。そのときは vineland-ii のことを少し思い出してください。
カウンセリングという行為は、実際にIQを測定しているわけではありませんが、各人の行動をお聴きしてそこからIQを推定するということをやっているので、vineland-ii 的な評価といえるかもしれません。その意味でも、vineland-ii の質問事項がどのような評価基準で構成されているのかを知ることは、自身の見立てを精緻化させるためには必要なことかもしれません。
◇愛着障害と纏綿家族
次に①を考えます。纏綿家族の定義を振り返ると、家族の構成員(全員)が1つの塊のように融合して、1つのシステムを作り上げている状態でした。このため、各々(夫婦、親子、兄弟)の境界が曖昧となって、各々が自立していない状態になります。
纏綿(てんめん)家族や遊離家族とは家族システム論での用語であって、それが直接、愛着理論に結びつくわけではありません。
纏綿家族や遊離家族という用語は、「機能不全家族」に対して用いられる場合が多いのです。機能不全という視点でみると、まず「愛着不全」の家族イメージが浮かびます。そして次には、愛着障害の家族イメージも見えてきます。
そんなふうに捉えていただけるといいかと思います。家族システム論と愛着理論はイコールではありませんが、愛着障害も見え方(捉え方)が変わると、纏綿家族や遊離家族のようにも見えてくるわけです。
こうやって立体的に見ることで、ご自身がどのように育ってきたかが、より実感を伴って分かってくるでしょう。色々分かってくるということは、混乱する要因にはなりますが、その混乱(実感)も気づきへ向かうための通過点、通らなければならない道なのでしょう。
■まとめ
家族間の世代間境界によって、纏綿(てんめん)家族と遊離家族がある。前者は融合、後者はドライな家族。通常は適度な関係性がよい。
纏綿(てんめん)家族と遊離家族は、ルーツは同じで、機能不全家族のこと。
放任と社会的ネグレクトは違うもの。放任は、適切な関係か愛着不全。社会的ネグレクトは愛着障害。
家族関係を見て行くには、三世代くらいのジェノグラムがあるとよい。
纏綿家族や遊離家族で育つと、子どもは愛着不全になる。
◇ラジオおやすみカフェ:今宵のメニューは…雨の5月に My Fair Lady
・The rain in Spain
・On the Street Where You Live
■他の助けを求めるのもいいでしょう
もし、あなたが家族に対して生きづらさを感じている場合は、臨床心理士などの心理の専門家にアドバイスを求めるとよいでしょう。いまのカウンセラーがいまいちなら別のカウンセラーを探しましょう。あなたにとって良いカウンセラーはあなたの一生の財産になります。あなたのカウンセリングがうまくいきますように。
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