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「未経験歓迎全額日払い即日入店可」の世界の接客のプロ達について
「未経験歓迎 全額日払い即日入店可」
…決して呪文ではなく、これはナイトワークの求人の売り文句である。
私は元々スナックのフロアレディの母のもとに生まれ、20数年間育てられた。
自分自身も生きるためにナイトワークで食いつないだ時期もある。
そして、地元に入ってからは何故か母の働く店の女の子が足りないという理由だけで、まさかの親子でスナック勤務をしていた経験もある。
よく覚えていないが、精神が不安定のときに「自分を商品として客観視できるのでは」という淡い期待でキャバクラ(お触り一切なし)に勤めたこともある。
時世的にも店の色的にも一見さんへの観光客売りが強くなっていたこともあり、入って数ヶ月で店舗のナンバーワンを取って満足したのでそのまま辞めた。
私の周りには昼の仕事と同じくらいナイトワーカーがいて、そこで仲良くなった子らもたくさんいる。
ガールズバー、キャバクラ、スナックなどの飲食関連の夜のお店は、端正な顔立ちのお姉さんがドレスを着ていて、一度足を踏み入れたら最後、財布のお金をすべて吸われるというイメージを持たれている方もいるかもしれない。
はたまた、近年はSNSによる発信も活発になり、さもナイトワーカーの女性らが「極上の接客をするコミュニケーションのプロ」に見えるような演出も増えた。
ただ、その実、在籍している女の子の大半のコの質は、基本的には相席ラウンジやクラブのVIPとほぼ変わらない。
当然である。どんな高級な店内で、服装で着飾っていても、所詮は「未経験歓迎 全額日払い 即日入店可」の甘い条件につられただけの女の子たちの集まりなのである。
したがって、特に会話が上手くない子も多いし、接客レベルも正直言えばそこら辺の人と変わらない質であることも往々にしてある。
ごくたまに有名になるような極上の接客を提供するプロに見える女の子たちはほんの一握り。
逆に質が高い仕事ができる希有な存在だからこそ、テレビにも出られるしファッションショーにも出られるのだ。
夜のお店に行き慣れていない男性がよく言う「夜の店に行っても全然楽しくない」は、私から言わせれば楽しみ方を知らないだけである。
そもそもなぜ夜のお店は、他の「相席」系の店舗よりも高額なのか。
在籍する女の子そのものに価値があるのではなく、常に主導権をお客様側が無条件で握れることに価値がある。
「相席」系にいる女の子は、良くも悪くもありのままで席に座って、お酒も自分の好きなペースで飲む。好きな時に好きなご飯を食べ、好きな人とは連絡先を交換する。
彼女たちはとにかく傍若無人でコントロール出来ない。
残念ながら初対面から奇跡的にその波長が合うことはほぼ無い。大概主導権は女性側にある。
その点、ナイトワークでは、女の子たちはお金を稼ぐという動機のもとであれば、いくらでもお客様の好みの女の子像に合わせて演じてくれる。
つまり、自分のためだけのドラマを、目の前で上映してくれているようなものだ。
自分だけのドラマの女優をキャスティングし、自分の好きな台本で上映できる権利がお客様にあることこそが、ナイトワークにおける対価であり楽しみ方だ。
月9みたいな歯の浮いたセリフも、「この中で誰がタイプ?」みたいなしょうもない合コンごっこも、将来の夢のために頑張っている姿も、時間と常識の範囲内であれば演じてくれる。
私個人に言わせれば、別にえらくもないし、かといって虐げられるほどの職業でも無い「普通に食い扶持を繋ぐための、エンターテイメント性の高い接客業」以上でも以下でもない。
一般の人が思っているよりも彼女らは、目の前の酒を少しだけ美味しくしてくれるドラマを見せてくれるだけの演者である、という事実も存在することを頭の片隅に入れておいていただけると嬉しい。
最後に、私は人生の上で立ち行かなくなった時にナイトワークを色々経験したが、基本的にはお昼の仕事と変わらないくらい楽しい事ばかりだった。
社会人として営業になってからは、取引先と一緒にスナックやキャバクラに足を運ぶこともある。
よく、世間の女性の方が、恋人に対して付き合いで夜のお店に行くことに対して怒っているのを観測する。
性行為を執拗に求めているとか、お金を破滅ほど使い込んでいるとか実害があれば論外だが、ある程度は仕方がないと受け入れる感性もあって良いのでは無いかと思う。
とどのつまり、たいていは所詮ただのエンタメなのだから。