第17回「そいつ」2024年2月❶
週一で、同じ映画を見る。ただそれだけ。
観る映画は「遊星からの物体X」、つまり「THE THING」です。
ルール
毎週1回「遊星からの物体X」をみる
毎週1回みて、気づいたことを書く
木曜または金曜の通勤時間で見る
ネタバレとかは気にせず書く
基本は通勤中のiPhone se(3G)。
イヤホンはAppleの有線イヤホン。
ということだったが、最近はもう気にせず休みの日に家で見ることも増えてきた。
第17回目 2024/2/7(水)
前回からの道のり
(前回の記録からわたし自身の変化)
1/28(月)〜1/29(火)
友人から借りた本を読む。
今村夏子「木になった亜沙」
津村記久子「君は永遠にそいつらより若い」
きみ若に関しては、自分自身の嫌いな部分で落ち込む気持ちになったが、2回読み返して面白い部分に冷静に向き合えた。一回でなんでも分かったつもりはよくないと感じる。
自分が簡単に楽しめないものでも、貸してくれた人がどう楽しんだだろうか?というところを考えれば2度読みも苦しくない。いつも以上に冷静に入り込めるし、自分にはない価値観がグネグネと体の中で伸び縮みしてる感じがしたり、貸してくれた相手の面白がりポイントを考えてより楽しめる。
1/30(火)〜2/2(金)
心を無にして働く。最近はsteve gunnばかり聴いてしまっていたので、jake xerxes fussellという人を聴いて好きになる。
2/3(土)
「哀れなるものたち」を観る。音や小道具、衣装、エマストーンの動きどれも面白い。ただし、140分は疲れたし、フェミニズムの映画として賛成する部分と、うーんと思うところと。
2/4(日)
「ビフォアサンライズ」をみに行く。
素晴らしい映画だった。バレンタイン上映だったが、おじさん1人で鑑賞。
「そしてそこにはいなくなったし、どこにも居続けている」というのは、ジョンカペでもよくみる。これはハロウィンと同じ気持ちの持ってかれかた。俺は泣いてしまう。
2/5(月)〜2/6(火)
辻井喬「暗夜遍歴」を読み終わる。
自身の母をモデルにして、波瀾万丈な一生を振り返り、同時に著者自身の両親への複雑なコンプレックスを振り返ろうとしてる。
物語構成は、歌人である母が残した短歌を軸に進む。登場人物の心情は三人称で語られるが、登場人物は目の前の出来事に誘発され、すぐ過去を振り返りだす。同じ人物が同じ出来事を省みた時に考えが変わってきてるのも面白い。「老い」も一つのテーマなので。
それぞれの思い出話があれこれと浮かんでは消えていくことくらいが、物語の推進力になっているため、何か行動を起こそうとする人物よりも、その都度思い出している人間の方が厚く語られる。この作品が壮絶な過去への反省と鎮魂だからだと思う。
チャック・ラッセルの「ブロブ/宇宙からの不明物体」をみる。電話ボックスのシーンが秀逸と思う。怖がらせ方もうまいが、50sモンスターパニック風の演出が憎い。
不定形というのはカラブツとも近いが、カラブツは定形になれるところが強い。不定形というのは何にでも形を変えられるけど、何にもなれないということでもある気がする。
2/7(水)
なんか悲しい会話や対応が多くて毎日通勤が嫌になる。帰宅すると春巻きを作ってくれてて、嬉しくて泣ける。
サボっていたことを反省して遊星からの物体Xを見る。
今週のテーマ選定
先月末テスト期間あたりから、やる気が落ちてきてしまった。そのせいで読書に逃げてしまった、反省。
テーマを絞ってみるのがいいな、と思うものの、あまりテーマが絞りきれない。
気になる点を三つくらい書いてみようかなと仮テーマを出してみる。
❶誰が誰を説得し、それは成功したか
❷目につく小道具
❸対立関係の逆転
それぞれをメモしていき、書き終わると、❸が良さそうだなと思う。
しかし、本来❷は早めにやっておくべきだったことに気づいた。
雑学記事みたいになると嫌なので書きたくなかったけど、いままで平然と「モンティ・ホール」と書いていたが説明は必要だったはず。❸は次回とかに。
ということで、モノの回。
取り上げるモノの絞り込み
小道具というとキリがないので、「物体Xのストーリー上は不用なモノ」に絞りたい。つまり本作におけるストーリーでその機能を活用されたわけではないが、記号的に使われてるものという意味で、個人的に印象的なものに絞った。
たとえば、最初に目につくのはマクレディがやっているチェスゲーム。
「CHESS WIZARD」と名付けられた、音声付きチェス専用PC。緑色の光がカートラッセルの顔にかかる。
マクレディの部屋にだけあり、なぜかヘリ操縦士に特権的に与えられてる割に、マクレディは弱いし短気。それにしてもこんなチェスゲーム売られてたんだろうか。
これは調べまくった、調べまくったがこんなゲームはなかった。
自分の調査力の無さ、敗北宣言をあげ海外のカラブツFANDOMサイトにいくと、どうやら当時のAppleⅡにプログラムを入れたものらしい。
(こういう知識はwikiやらオーディオコメンタリ聞けば出てきそうだから、ぼくが記事に書く必要ないんだよなと思います…)
緑の光が印象的だが、ほんとうにこんな緑色が画面から出るかというと、これもフィクションかなと思う。作中は青い光が差し込むことが多いため、珍しい色とも思う。
マクレディは知性のゲームに人間以外のモノに容易に負けてしまう。しかも、勝てると見込んだ闘いで、あっけなく足元を掬われる。なんというマヌケさ。
知性で勝てないなら強行手段だと、PCに酒をぶち込んで壊す。ご存知のとおりPCは火を起こし、物体Xに知性で負け爆発でぶち壊すというラストを想起させる。
そして作中の唯一の女性。この作品は12人のアメリカ兵、ノルウェー隊員数名で構成されるが、全員男である。
山火事防止ベア
ノルウェー隊がヘリに乗って犬を追いかけ回していると、アメリカ基地に近づくにつれてガソリン缶が現れる。もはやいうまでもなく、作品を通してつきまとう「火」の記号。この基地は最後には火に包まれる。
実はこのあともう一つ、火を語る記号がある。アメリカ基地の看板の下に隠れたクマだ。
最近「コカインベア」でみて知ったのだけど、アメリカで有名な山火事防止についての啓蒙キャラクターらしい。
「スモーキー・ベア」というクマ。
イノセントな目で、筋肉隆々なクマがこちらをみている…という、かなり中毒性高いキャラなので、よかったら調べてみて欲しいです。(私は携帯の待ち受けにしてます)。
アンクルサムを皮肉って山火事を未然防止できるのはONLYYOUと指差してくるポスターなども有名。
こういう日本だとピンとこない文化を知れるとキモオタ心が騒いでしまう。
ちなみに本作では「USE YOUR ASH TRAYS」と書いてあるので、灰皿つかえ!とのことらしい。
ここから燃える気マンマン。ガソリン缶、スモーキーベア、チェスウィザード爆破まで火薬を想起させるコンビネーションが続く。
ヤギではなく
パーマーとチャイルズが2人でみているテレビ番組。パーマーは、もう結末を知ってるからよ、と番組を変えてしまう。
これもアメリカで有名なクイズ番組「Let's make a deal」。
モンティ・ホールが司会のクイズ番組。挑戦者の前にはドアが3つ。
1つは豪華賞品(賞金か新車だったと思う)、残り2つはハズレ…ということでヤギが待ってる。
実は数学の世界でこの番組は大論争を起こしてる。モンティ・ホール問題、という。
一度挑戦者がドアAを選んだ場合、司会者のモンティ・ホールが「Aを見る前に…Bはハズレでした。さてAのままにしますか?Cのままにしますか?」と質問される。
さて、この状態で当たる確率は2分の1と考えていいか?正解は3分の2となる。らしい。
これは私がここで文字に起こすより、wiki見ながら、図に起こしてみてくださった方がいい。図に書けば、あーっ…そうかも…くらいに納得するけど、人には説明できない
ただし、モンティ・ホール問題は1990年に雑誌に投稿されたので、本作の時点では全く関係ない。
というか、重要なのはドアの向こうにハズレが待っていて、挑戦者は正しい選択をしないといけないという点。
本作の人間のツラをかぶった物体Xを探し出すというテーマをほのめかしている。
パーマーはもう結末なんか知ってるよ…とビデオテープを変えてしまうが、彼はこのあとハズレを引いて捕食されてしまう。
置きっぱなしのゲーム機
娯楽室をよくみるとゲーム機が2台置いてあるのに気づく。
1つは「Asteroids Deluxe」。
アメリカのゲームと言ったらATARI社、ATARIの1981年に出たアーケードゲーム。
襲来する隕石郡(アステロイド)とUFOを撃ち落とすシューティングゲーム。
特徴としては自機を360℃回転して戦うこと。結構操作しにくそう。
だれも触れないゲームなので、取り上げられるシーンは少ない。UFOを見たマクレディをみんなで問い詰めるシーンで、チャイルズの後ろに設置してある。UFOなんてしょうもない話を信じるか!とキレるチャイルズの後ろでちゃっかりUFOのゲームが置いてある。普段からゲーム機で目にしてるけれど、所詮はゲームの世界。こんな緊急事態にUFOの話をするなんてふざけてる、と言われても仕方がない。だけどほら、本当なんです。
もう一台のゲーム機は、ピンボール「HEAT WAVE」。何度か画面には出てくるが、一番目立つシーンは、マクレディが火炎放射器を付けられないシーン。
ゲーム自体はかなりシンプルでボールを上部のヒットターゲットに当てると、機体左の温度計が上がっていく。温度計がマックスまで行くと、excellentの文字が浮かぶ。
アツイヨ!って感じのゲームらしい。
ここは、マクレディの火炎放射器がつかずにボッボッっと試すのが面白おかしいシーン。ゲージをマックスにしないと熱波(炎)は出ませんよ〜とでも言いたいのか、散々仲間をやられた後に、マクレディは火炎放射器のツマミを回せばいいことに気づく。いいギャグ…という程度で、僕は捉えています。
先頭に立つヤツは馬鹿を見る
冒頭のノルウェー人がヘリでやってきた際に、ギャリーが窓から外を眺めている。他の仲間たちはヘリの音を聞いて、外に駆け出した。
このときに壁にポスターが貼られているのをお気づきでしょうか。正直、早くてほとんど見えない。
このポスターはもう一度登場する。
それはマクレディとノウルズが、マクレディ小屋に向かい、40分も経った頃。チャイルズが窓からマクレディ小屋を眺めている時だ。窓のすぐ真横に貼られたポスターはいわゆる「ファーストペンギン」のポスター。
ペンギンの社会にはリーダーが存在せず、「最初に動いたやつに従う」という習性がある。海の中には魚が待ってるが、どんな脅威が待ってるからわからない。だからペンギンの社会では、最初の1羽が率先して動いて安全を確認したあとに、他のペンギンたちが後に続いていく。そうして群れはその危険を回避できる。
もちろん真っ先に飛び込んだペンギンは仲間に安全を示すことができるし、だれよりも確実に餌にありつけるわけだが。
本作では、あきらかに初めに動き出した人間は馬鹿を見ている。
ギャリーだけが基地に残った時もそうだった。何も考えずに音にさそわれてふらふら集まった仲間は、危険にさらされ、足に銃弾まで喰らわされた。
チャイルズが窓から眺めていた時もそうだった。マクレディはさっさと基地に帰ればよかったのに、自分の小屋を確かめになど行ったから雪嵐のなか仲間に見捨てられ九死に一生の仕打ちを受ける。
マクレディが本作の最後でつぶやくとおり、何もせず、その変化を見ているしかない時がある。先頭のペンギンは得することもあるかもしれないが、けっきょくはリスクだらけだ。
先頭の人間は振り返ったら誰もいない、なんてリスクを頭に入れとかないと。
お嬢さん、検査はお済みですか?
この映画の山場と言っていい、血液テストの後ろに貼られたポスター「They aren’t labeled,Chum」。
ずっと娯楽室に貼ってあったのだけど、この血液テストでかなり目立つ扱われ方をする。
一体、theyは、なんのlabelがついていないのか…というと、ポスターの女性が持つ紙面の「Vd」が答えを示す。つまり、性感染症の防止のポスターで、実際に1930〜40年代で使われてたらしい。
ちゃんと性感染症の検査をした相手と性交渉をしましょう、という趣旨のポスターであるため、「検査済の女性」というラベルを指している。ポスターの女性の化粧の濃さからも想像できるが、娼婦やら淫婦をイメージしていると思う。
女性にラベル付けという価値観は気持ち悪いが、まずは映画内の記号として見ると、
「人間」ってラベルは本当についてるか?確かめる血液テストのシーンと意味が重なってくる。
本当にそうか?と疑うなら真向かいの壁も見て欲しい。カウチに縛られた容疑者側の壁には、無数のセクシーな女性たちの写真が貼られてる。
一方で、ラベルが付いてるか?と疑う壁、反対側にはセクシーな女性たちの壁。まさに、一方的に疑いをかける人間と、疑いをかけられる人間との対立構造を部屋全体で表している。
それにしても、危険な異星人=淫らな女性を見つけて追い払う男性の映画、という構造に狭めて見てしまって、ジョンカペを女性蔑視監督と捉えるのは違うとは思う。
彼の作品は基本的に、傲慢なアメリカ人男女が何も知り得ることないままで揶揄されることが多い。男女問わず、人間は傲慢で非理性的だとすら思わせる。
また、本作においては、マクレディを最初に知性でノックアウトするのは女性の声のチェスマシーンだった。作品を見直すと、チェスゲーム、異星人のほうが男たちよりずっと理性的で賢く描かれてる。
なんにせよ、この男女観を壊し、再構築したのが「遊星からの物体Xファーストコンタクト」。比較して見直すのもありかもと思い始めてる。
来週に向けて
次回は早めに書く。
音無し鑑賞
光のことをもっと考える
顔、その視線
マップ使いながら視聴
カメラの位置
BGMの特定
別の言語の字幕/吹替
そろそろ原作読む
物語に駆けつけるキャラ
そろそろオーディオコメンタリ分析
運ぶ人
立場の逆転
無理だったら普通に楽しむ。
好きな映画のいいところは、普通に楽しめることだと思う。
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