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記憶の記録4

時間制限30分。

山に少し入った区域に、整備された遊歩道があった。とはいってもほとんどが歩きやすい獣道という感じだった。小さい橋が掛けられたり階段が少しあったりはしたが、初めてそこを歩いた時はわくわくした。
顔を真上に向けないと天辺が見えない背の高い木々、その隙間から柔らかく視界を照らす陽光、ひんやりとした湿気を含んだ澄んだ空気、どこからか聞こえてくる鳥たちの声、踏みしめる土や小石やふわふわの土、爽やかな風。
気持ちいいと思った。

あそこはダメ、危ないから公園で遊びなさい、なんて言われていたであろう制限の多い生活から、村内のすべてが遊び場になった。近道だからと他人の家を突っ切ろうが、道路でサッカーをしようが、叱られなかった。車もかなり少なかったが、村の中心を通る国道だけは気をつけろと言われていた気がする。
当時すでに高齢化が進んでいたから、子供たちは特に大事にされたのだろうと思う。甘やかすわけではないけれど、伸び伸びとした生活を見守っていたように感じた。

村内唯一の商店が家の近くにあった。現在の小さいコンビニくらいの規模で、週に1~2回くらいだろか、店主は山を下りて仕入れに行き、買い物に出られない高齢者宅を移動販売で回っていた。生鮮品、日持ちする食品、漫画雑誌や日用品など、ひと通り揃っていたように思う。
比較的若い世帯は自分たちで買い出しに行っていた。我が家はよく青梅のショッピングモールに行っていた気がする。もうすっかり”懐かしいもの”になってしまったシングルCDの自動販売機があり、目いっぱい強請ってSPEEDというグループのCDを買ってもらったのをうっすら覚えている。片道2時間。大きなクーラーボックスをワゴン車のうしろに載せて通った。

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