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【配達員絵師の日記】 1月 第3週
1月12日(日)
午前中は絵の仕事の仕上げ。とりあえず二枚分終わらせる。
夕方から夕食を挟んで夜にかけては、庄助といっしょにプラモに筆塗りをする。庄助には前に作成したズゴックをあげる(サフは昼間に拭いておいた)。わたしは引き続きガンキャノンを塗る。
清水圭氏の本を参考にしながら書いてある通りに塗るわたしに対して、庄助は思うがままに好きな色をガシガシと塗りたくる。筆の流れも無茶苦茶で、ムラもすごいし、ところどころ気泡もあるし、塗っていないところもある。が、これがなかなかいい味を出しているようにわたしには見えた。水性ホビーカラーの妙なのか、それとも気持ちの赴くままに筆を動かした彼の衝動の成せる業かはわからないが、このくらい思い切りよく筆を動かしたいものだ。
1月13日(月)
庄助を後ろに乗せて自転車で宮原のイエローサブマリンまで繰り出す。
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これが戦利品。ハセガワの『VF-1バトロイドバルキリー』と『メカトロウィーゴ』。マクロスは今テレビシリーズを少しづつみている。『メカトロウィーゴ』は完全に見た目の可愛らしさに惹かれた。実は先週イエローサブマリンに行ったときも同じ理由で小脇には抱えたのだが、結局入口の棚に戻して買わなかったのだ。でも今日行って見たら在庫が残り一つとなっていたので買うことにした。
あとは塗料を数点と、庄助にはバンダイスピリッツのポケプラから『メタグロス』とこども用のニッパーを買ってあげた。
帰りに上尾らあめん本店に寄って昼飯。美味かった。
庄助は家に帰るなりすぐにプラモ制作。あっという間に組み上げてしまった。出来もなかなかいい感じ。庄助も大満足だった。ニッパーはいらないぐらい簡単にランナーからパーツを切り離せて、こどもがストレスフリーでプラモを楽しく一気に組み上げられるように設計されたキットだった。
1月14日(火)
連休明けはいつも一日をどう乗り切っていたか忘れる。濃密なルーティーンをやり過ごす日々。
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本をみながらの筆塗りをとりあえず終える。水性ホビーカラーのおかげでなんとなく形にはなっている気がする。それなりに時間と手間をかけただけあって、こんな出来だけど愛着は湧く。このあとはチッピングとウェザリング。
完成した絵をデータ化して依頼人に送る。とても気に入ってくれたようでほっと胸を撫で下ろす。あとは梱包して郵便局に出すだけだが、今日はここまで。
1月15日(水)
疲労が溜まっている中でも調子がいい日。コンテナを持って階段を駆け上がる足取りも軽快。
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先日買ったメタグロスのプラモ。こいつを庄助は水性ホビーカラーのモンザレッドで真っ赤に塗りたくったわけだが、昨晩になって「やっぱ塗らなきゃよかった、、、」と後悔していた。なんだかかわいそうな気がしてきたので後学のためにも塗装を落としてみることに。
調べてみるとマジックリンで落ちるそうなので、家にあったバスマジックリンを試してみる。水桶にお湯を張って分解したパーツを放り込み、10回くらい吹きつけた。それが昨晩の話。
様子をみながら結局24時間は浸けていた。塗装はほとんど落ちたが、それでも残っている部分はヤスリで落とすことにした。パーツの隅っこのとことか、どうしても落ちないところはあったが、庄助は気にしていないようだったのでよかった。
1月16日(木)
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キマダラカメムシがいなくなった。
黒くてでかいカメムシ。親指の爪よりも少し大きい。
やつはゴミ集積所の裏のドア枠のところでじっとしていた。先月からいるから一月以上そこでじっとしていたことになる。
そのドアを抜けてすぐの階段を登った先に弁当を配達している。毎日通るからいやでもやつが視界に入った。
最初はあまり気にしなかったが、一週間ぐらい経つと、だんだんとやつのことが気になってきた。やつは腹が減らないのだろうか? それともおれには見えない何かを食っているのだろうか? ていうか、死んでる?
やつを指先でこづいてみたこともある。やつは緩慢な動きで少しだけ頭をもたげただけでまた動かなくなった。一応まだ生きているみたいだ。
年末年始の休みを終えてもまだやつがそこにいたときは驚いた。あいさつがわりにこづいてみた。やつは前みたいにゆっくりとした動作で頭をもたげた。おれはだんだんとやつがいつまでいるか見届ける気になってきた。
「冬眠してんじゃね?」妻が言った。
「かもしれんな。あそこは荒川が近くにあるからいつも冷たい風が吹いているんだ」
妻がスマホでカメムシが冬眠するかどうか調べ始めた。
妻が内容を教えてくれたがおれは曖昧に相槌を打つだけで聞き流した。なんとなく知りたくなかった。
おれは仕事をして、やつはドア枠でじっとしている日々が続いた。
そんで今日、やつはいなくなった。