見出し画像

終末と愛の旅行記~THE ALFEE アルバム『ARCADIA』 感想~

はじめに

2023年9月9日、20代半ばの秋。
意を決して、THE ALFEEのアルバム、『ARCADIA』を聴いた。
1990年10月17日リリースであるというこのアルバムの存在は、実はもう少し以前から知っていた。
それでもこの日までアルバムを通しで聴くことができていなかったのは、あまりにも「絶対に好き」という予感が強かったからだ。
まずアルバムジャケットがバベルの塔。さらには、「ARCADIA」というタイトル。それに加えてWikipediaのこんな記述。

1990年発売当時のCDの帯には「エスニックハード」と記載されたが、ハードロック調かつ民族音楽的な色彩の楽曲で構成されている。

Wikipedia - ARCADIA (THE ALFEEのアルバム)
https://ja.wikipedia.org/wiki/ARCADIA_(THE_ALFEE%E3%81%AE%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%90%E3%83%A0)

でもってコンセプトアルバムであるという噂。

自分語りに割いている時間はないので詳細は省くものの、これは絶対に好きだ……

ご覧の通り、見事に心奪われた。
あまりにも感銘を受けたので、いてもたってもいられずに、自分が感じたまま、体験したままに『ARCADIA』を初めて聴いたときの記憶と感動を残しておきたいと思った次第。
というわけで、ここからはアルバム収録曲を1つずつ取り上げて感じたことを書いていくことにする。
個人的な感じ方、解釈が度を越していてもはや二次創作に片足突っ込んでいるのではと言われかねないようなものになっていますが、一応感想です。ご容赦ください。

【注意!!】
・ネタバレ注意!

まだ『ARCADIA』を通して聴いていない方がもしこれを読んでいるならば、是非、アルバムを通して聴いたあと、あるいは少なくとも聴きながらこれを読んでください(各種サブスクでも聴けるはず)。
初見の衝撃は絶対にご自身で体験した方が良い!!!!
というか、聴いたことないと説明不足でなんのことやらかもです。
・無知注意!
音楽、THE ALFEE、このアルバムが出た当時の世相や背景、ところどころもチーフにされている聖書についてなどなど、基本的に無知です。
知ったような口をきいている箇所についても基本適当にしゃべってます。
・私的感想注意!
個人の感じ方、感想の話しか出てきません。曲の解釈の話もしますが、あくまで自分の感じたものを書き殴っているだけで、考察という程のものではありません。
行く先々での光景と思い出を書き連ねた個人の旅行記のようなものだと思ってください。

※なお本文中では一部公式HPに記載の歌詞を引用しておりますが、
①引用部分を書式やカギ括弧等で明確に他と区別する
②引用部分の出典を明示する
③量、および内容の面で、あくまでも本文を主体とし引用部分が従属するような文章とする
上記を徹底することで著作権を侵害することのないよう努めております。
なんたって著作者のファンなのです。そこはちゃんとしておきたい。

その他お気づきの際にはどうか優しくご指摘をお願いします。


『ARCADIA』感想

Arcadia

表題曲を1曲目に持ってくるの、ずるい。
そもそも、本腰を入れてこのアルバムに向き合わなければならないと思いきることが出来たのは、この曲単品と出逢ってしまったからだった。なにしろ強烈すぎる。
シャッフル再生やらおすすめやらで、1曲1曲の単品に簡単に触れられてしまうファストな現代。それは便利でもありもったいなくもあるけれど、今回の場合は良い機会をもらったと思う。

この曲を最初に聴いた時の衝撃は忘れられない。
荒涼とした大地、砂をまきあげ吹きすさぶ風を思わせる冒頭。どこかファンタジックなメロディに物語の世界に誘われ……と、思ったところで鳴り響く雷のようなドラム。劇的なイントロ。
そこに現れる桜井さんの真っ直ぐな、どこか超然とした歌声。

静寂の大地を彷徨う
地平線が赤く燃えてる

THE ALFEE 「Arcadia」
https://www.alfee.com/disco/album/song.asp?SID=303&CID=25

この歌詞がすごい。
桜井さんの歌声と、「静寂」「赤く燃えてる」この2つのフレーズによって、Arcadiaという曲の情景が完全に頭の中に立ち上がってくる。
荒涼とした大地。生命の息吹は感じられないのに、争いと苦しみは風と共に吹きすさぶ、そんな風景。

というか、ここまでドコドコ激しいイントロやっといて、1フレーズ目が「静寂」ってどういうこと。あんまりにもセンスが良すぎてぶったまげた(急に語彙力を失う)。

そして、ここで登場する「彷徨う」という言葉もとても印象的だった。
まず、さまよっているところからこのアルバムは始まるらしい。この話は後で散々するので覚えておいてください。

で、サビ。

Oh 国境を越えろ 自由を求めて
争いも憎しみもない聖地 Arcadia

THE ALFEE 「Arcadia」
https://www.alfee.com/disco/album/song.asp?SID=303&CID=25

この部分もすごい。
それまでの桜井さんの歌声は超然としていて、ストーリーテラーのようでもある。それがTHE ALFEE3人の迫力ある歌声へと遷移することによって、今度は「争いも憎しみもない聖地Arcadia」への渇望がダイレクトに伝わってくる。THE ALFEEは3人とも歌えるのがすごいというのは自他ともに認めるところだが、まさにその強みが表現力の幅広さとして生きている。

そして続く間奏では、なにかを破壊するような暴力的な音がギターと隣り合わせで聞こえてくる。
中盤の歌詞も相まって、荒れ果て枯れた大地とそこで繰り広げられる人々の過ち、争いを想起し、思わず目を塞ぎたくなる。そんな時。

夜空に光る流れ星は
嘆く大空の涙なのか

THE ALFEE 「Arcadia」
https://www.alfee.com/disco/album/song.asp?SID=303&CID=25

そこに突如として現れるTHE ALFEEのキラキラ光るようなコーラス。
荒れ果てた大地に立ち、ふと顔を上げると夜空には光る星。
争い、過ちを繰り返す人々を見下ろす夜空は、当然のように美しく、悲しい。
歌詞だけでなく、メロディの展開からもそんな感覚に陥る。
この、メロディやコーラスの響き、詞に導かれて否応なしに情景が浮かんで共感させられるという体験が、『ARCADIA』では幾度となくあった。
この表現力、演出力は本当にすごい。
先にあげた歌詞の箇所なんて、急に視界がしんとした夜空に染まったように感じた。

そして終盤に続く、「Can't you see Arcadia」のリフレイン。

ここでふと「Arcadia」という言葉について思いをめぐらせた。
アルカディアは、言わずもがな理想郷の代名詞。理想郷ということは、すなわち、ユートピア的なものとも捉えられると思う。
諸説あるが、ユートピアという言葉の父たる作家トマス・モアは、ユートピアをeu topos(良い場所)とou topos(ない場所)2つの意味を併せ持つ造語として生み出したのだと昔本で読んだ(さっき見たらWikipediaにも書いてあった)。
つまり、ユートピアはその語源からして、「どこにも存在しない理想郷」であることを前提とする。
そんな夢幻のようなものを探し求め、荒れた大地で「国境を越えろ 自由を求めて」と歌うArcadiaは、どこかにあるはずの根源的な自由、理想郷を求める我々(というか私)の心をゆさぶる。
一方で、繰り返し歌われる「Can’t you see Arcadia」の歌詞からは、その理想郷が蜃気楼のように遠くおぼろげであることも感じられる。そのままならなさと切迫感にどうしようもない気持ちになる。辿り着きたいけど、手が届かない。だけど今いるここはどうしようもなく苦しい世界だから、すべてをかなぐり捨てて走り出し、Arcadiaを追い求めたい。すでに感情移入してちょっと泣きそう。
まずい、この曲単体を聴いただけでも名曲すぎるほど名曲で書きたいことが書ききれない。

さらに、この曲を『ARCADIA』というアルバムの1曲目として全体の中で位置づけてみると、聖書の出エジプト記を思わせる、安息の地を求める放浪の旅、その始まりの情景を描いているようにも思われる。 
ここから、『ARCADIA』の旅はいったいどこへ向かうのだろうか。
期待に胸が膨らみ、既に名盤の予感が心をうつ1曲目だ。

Masquerade Love

これまた「Arcadia」に引き続き、単体では聴いたことのある曲だった。
ただし『ARCADIA』の中で聴くまでは、高見沢さんお得意のちょっと妖しげなオトナ系壮大ラブソング、聖書のモチーフを添えて……というイメージが強かった。
もちろん当然のことながら、そのような1曲としても成立しすぎるほどに成立している。高見沢さんの書く壮大なラブソングは本当に世界、宇宙規模の壮大さを持っているから好きだ。

The End of World その時に
もしも願い叶うなら

THE ALFEE 「Masquerade Love」
https://www.alfee.com/disco/album/song.asp?SID=304&CID=25

シンプルにこの部分のリズム感もたまらない。
冒頭の英単語のリズムが上手くメロディにハマっていて気持ちがいい。

風は吹く 花は散る 時は流れる
すべて滅びる運命なら

THE ALFEE 「Masquerade Love」
https://www.alfee.com/disco/album/song.asp?SID=304&CID=25

ここも狂おしいほどに好き。
高見沢さんの詞に吹いている風の描写がそもそも大好き。さらに、なんとなく平家物語の冒頭を思わせる歌詞の諸行無常の感覚も好き。好きが止まらない。
あとなにより、ガン!と前に出てくるアコギ、「運命なら」のとこのリズム、たっっまんねーー!!!かっけーすぎる、疾走感すさまじい。
失礼ついテンションが上がってきました(聴きながら書いてるもので)。

高見沢さんの甘く激しく破滅的な歌い方の好きなところがめいっぱい詰まっているところも好きだ。「アダムとイヴ」の「と」とか、「落ちて行く」の「て」とか。私は高見沢さんのタ行が好きなのかもしれないと気づいた。
左右に振られるギターソロも好き、ちょっとざりざりした感じのアコギも好き、好きは尽きない。これやっぱりライブでも聴きたい……

とにかくこれまた単体でも好きすぎる1曲。
さらに、アルバム全体の中に配置して「Arcadia」からの流れで聴いてみると、アルバム『ARCADIA』世界の広がり、展開と、駆け出していくような勢いのあるリズムの心地良さが改めて感じられる。
「Arcadia」を出エジプト的な放浪の始まりの地点=「起」とするなら、
「Masquerade Love」は何かを求めて夢中で走っているような「承」だ。
冒頭のリズムや異国情緒溢れるギターのメロディにも『ARCADIA』の一曲としての一貫性がある。
そうかこういう曲だったんだ、と既知の楽曲の新たな一面を見た気がした。

What Is My Love, The End of The World
What Is Your Love, The End of The World…

THE ALFEE 「Masquerade Love」
https://www.alfee.com/disco/album/song.asp?SID=304&CID=25

曲終盤のこのリフレインも、『ARCADIA』というアルバムの方向性、テーマを定めている気がする。
このリフレインや歌詞全体から強く感じられるテーマの1つは、「Arcadia」から引き継いだ「終末」の感覚。
そして、なんといってもLove、「愛」だ。
世界の終わり・絶望的な状況と、そんな世界を生きる我々にとっての愛の意味。その問いかけ。
早くも2曲目にして、そんなテーマが何となく見えてくる。
ちなみにこの2つ目のテーマは、THE ALFEEの世界(高見沢詞の世界?)の鍵の1つなのかなとも思う。「祈り」の歌詞(※1)を思い出したりして。
(とは言っても楽曲が多種多様すぎて、あくまでも鍵の「1つ」としか言えない。でも、その芯にあるものは共通している気がする)

Rainbow in The Rain

イントロ冒頭を聴いた安直な人間こと私「なんかジャングルに来た」
その数秒後の私「全人類が好きなブレイク!!!」

「Arcadia」、「Masquerade Love」ときて、ここで急にめちゃくちゃ視界が開けてびっくりした。広い空の青、膨らむ緑の香り。
冒頭2曲はどちらかというと乾いた世界のイメージだったけど、ここで急に曲の雰囲気が湿気をはらんで、水や植物が豊かに息づく世界を連想した。
音楽に全く詳しくなくて、何がその効果を生み出しているのかがわからないのが悔しい。求ム有識者の方……!

と、緑豊かな世界にわくわくしていたら、歌いだしでちょっとアンニュイな桜井さんの歌声が聞こえてきて混乱した。うわ雨降ってきた!!タイトルに振り回されているかもしれないけどついそう感じてしまう表現力。
その雰囲気の変わりようと来たら、イントロからずっと聞こえているベースの音色(大好き)まで異なる感情をまとっているように感じてしまうほど。

あとここの桜井さんの声、なんだかいつもよりさらに透明ですごい。多分音がちょっと高めのところだから?なんですかね……?(繰り返しになりますが当方音楽の素養も音感もゼロ)
もちろん桜井さんの声だと判別はできる。
だけどすごく概念的に中心寄りというか(高見沢さんにも坂崎さんにもちょっと似て聞こえる部分があるから?)、より真理に近いような歌声に聞こえる。なぜか菩薩像は中性的な見た目をしている、というのを思い出した。
とにかく、透明でどこか捉えどころがなくて、でも真実で、少し悲しくて……なんでこんな歌い方ができるんだ、すごすぎる桜井賢。なんて情感に酔っていたらサビが訪れてもう待って待って待って情報量が多い。
えっなんか、サビに入った途端、熱帯雨林の木々の切れ間から見上げた、澄んだ空を見ているような気持ちになりませんでした!?私はなりました。
1曲でこんなに劇的なことあります?
Rainbow in The Rainというタイトルにたがわず、不思議な二面性を持っていて、どこか爽快感がある。
この不思議な感覚と、最初の印象が東南アジア方面の生い茂る緑だったことが原因か、個人的には澁澤龍彥の『高丘親王航海記』(※2)で、主人公たちがさまよう色鮮やかな南洋の国々がイメージとして浮かんできた(この小説が天竺を探す話ということもあって、前のところで菩薩のイメージが出てきたのかも)。

と、ここまでメロディの印象が強すぎてそこから受けたイメージだけで話を展開してしまった。
いかんいかんと思い歌詞をよく読んだ。
めちゃくちゃ恋愛の話してた。
マジで!?!?あんっっっっな壮大なメロディにのせて!?
いや、THE ALFEEの壮大なラブソングが本当に壮大なのは知っていたけど(さっきも書いたし)、ここまでとは……
おいおい、ちょっと待ってくれ天才だよ……

愛は流星の夜に儚くきらめいて
銀色の涙に 輝く虹のよう
片想いのこの胸に
Rainbow in The Rain…

 THE ALFEE 「Rainbow in The Rain」
https://www.alfee.com/disco/album/song.asp?SID=305&CID=25

おいおい、やっぱり本当にどう考えても天才だよ、今更ですが……
片想いという、いわば一方的な愛を儚く流れる星に見立てた上、その星をさらに虹のようだと表現してますか……もしかして……
あまりのことにかなり言葉を失った。
愛を、それも自分の心にだけきらめくの一方向の愛を、こんなに美しく表現できるなんて。もしかしたらほんとうの愛というものは、自分の心にそれが存在すること、愛することができる対象がいるというだけで、既に美しいものなのかもしれない。
私はTHE ALFEEに、愛というものの可能性と美しさを何度も教わっている気がする。
もしかしたら非現実的、理想を描きすぎ、ファンタジック、ロマンチックすぎ、なのかもしれない。
でも、その分愛の純粋さを信じる気持ちを強く感じる。
そう、純粋さ。
壮大なメロディも相まって、原初の愛のような純粋さがここにはある。

さて、楽曲単体に舌鼓ならぬ耳鼓を打ったところで、アルバム『ARCADIA』全体の中でのこの楽曲の印象にも注目しておきたい。
砂けぶる「Arcadia」で安息の地、理想郷を求める放浪者となった人々。
「承」たる「Masquerade Love」では、愛についての問いかけを胸に抱きながら放浪が展開していくような感覚がある。
そして、まずたどり着いたのは緑豊かな大自然の広がる世界だった。
その世界はこれまで見てきた景色とは全く異なるもので、とても美しい。
けれどそこはおそらく目的としていた理想郷ではないことは、心のどこかでわかっているうような気がしてしまう。
一方向の愛を独り抱き涙することは、もしかしたら星のように美しいかもしれない。「命尽きても再びあなたにめぐり逢いたい」と思えるような愛に出会うことは美しいかもしれない。
随所で光るコーラスは夢のように美しくて、決して暗い雰囲気に支配されているわけではない。
けれど、そこにあるのは求めてきた安息、幸福ではない。

Wow Wow… 涙が止まらない
Wow Wow…悲しみ止まらない

 THE ALFEE 「Rainbow in The Rain」
https://www.alfee.com/disco/album/song.asp?SID=305&CID=25

多分ここで辿り着いている場所は、幸せになれるその地では、きっとない。
美しく雄大なメロディの向こうに遠く聞こえる、高見沢さんのシャウトが何かを訴えているような。
どこかにまだ、見つけられていない理想郷があって、ここにとどまっていることはできないような。

Eurasian Rhapsody

これまた単体では聴いたことのあった曲、そして、ここにきて坂崎さんリードボーカル曲!
坂崎さんが歌うことで出る風合いって本当に唯一無二だと思う。その風合いと「Eurasian Rhapsody」の雰囲気があまりにも噛み合っていてすごい。
誰が歌うか、誰から誰に歌い継ぐかで多様な演出が可能なのがTHE ALFEEの強みのひとつなんだと再認識させられる。
しかも、冒頭から比較的透明感のある声で歌っているのに、サビの「心の中に」「甦れ」などのソロパートではちょっと錆びた感じの歌声になっている、これがたまらない流石芸達者・坂崎幸之助。
あとAメロとかで左耳にずっと聞こえているギター?の音もすごいんですが、これはいったいなにがどうなって……?(繰り返す音楽の素養ゼロ人間)

大陸の果て絹の道を越えて
祈りは万里の時を駆け抜ける

THE ALFEE「Eurasian Rhapsody」
https://www.alfee.com/disco/album/song.asp?SID=306&CID=25

あとこのパートのハモ大好き!
それと、坂崎さんの「だから!」に胸を撃ち抜かれてしばらく帰ってこられませんでした。大好きです。大好きです。大好きです。

さてさて、言うまでもなく、Asia、Eurasiaがキーワードのこの曲。
個人的にはここまで曲の流れとともにどこか現実離れした、伝承のような世界を旅している気分だったので、唐突に自分の今いる世界に引き戻されたような気分になった。
これまでの流れを引き継ぐように壮大でファンタジックな歌詞も含まれはするものの、やはりAsia、Eurasiaという固有名詞の威力は大きい。
否応なしに己の足元に目をやることになるし、Asianとしての自分のアイデンティティについて思いを巡らせざるを得ない。それは、「Just Like America」で感じたもの(※2)にも通ずる。

Get Back To The Asian Spirit 心の中に
Get Back To The Asian Spirit 蘇れ
君のAsian Mind

THE ALFEE「Eurasian Rhapsody」
https://www.alfee.com/disco/album/song.asp?SID=306&CID=25

現代日本に生きる私たちが、Asian Mindをはっきりと意識する機会は正直言ってさほど多くないと思う(昨今は少し増えてきたかもしれないが)。
このアルバムが出た当時もやっぱりそうだったのかな、どうだろう(生まれてないので肌感覚がわからないという言い訳)。
歴史の流れの中で、欧米に憧れる気持ちはどんどん育まれる一方、アイデンティティにおけるAsiaの割合はかなり少なくなっている。多分よくものを知ってる人がどっかでそう書いてたような気がする(適当)。
歌詞でも「Get Back To The Asian Spirit」のフレーズが繰り返される。
ただ「The Asian Spirit」が歌われるのではなく、「Get Back to〜」=「~を取り戻せ」なのが特に印象的だ。取り戻すべき「The Asian Spirit」とは一体なんなのか、否応なく考えさせられる。
ただ、少し危うさを感じるのも事実だ。日本にルーツを持ち、生まれ育った人間としてアジア侵略の歴史を思えば、両手放しでAsianとしてのアイデンティティに回帰せよと言っていいのか、自分のアイデンティティをAsianまで拡大することはかつての過ちに対して不実を働くことにならないかという葛藤も抱かざるを得ない。
と思っていたら、

Get Back To The Asian Spirit 情熱の時代を
Get Back To The Asian Spirit 取り戻すために
歴史の重さを胸に

あやまちの過去を忘れない様に
希望への未来を創りあげる為に
だから…

THE ALFEE「Eurasian Rhapsody」
https://www.alfee.com/disco/album/song.asp?SID=306&CID=25

私が考える程度のことはちゃんと念頭に置かれていました!!そらそうだ流石!
この部分の歌詞がなかったら、もしかしたら少しもやもやしたままで、「大好きな曲」とまでは言えなかったかもしれない。だけどちゃんと「あやまちの過去を忘れない様に」という慎重さも見せてくれた。ありがとう大好きです信頼(勝手に読み取って勝手に言ってるだけですが)。

社会で、一市民として生きる上で、健全に(ナショナリズムに染まらず、かつどこかの文化の猿真似や腰巾着でない形で)自分のアイデンティティを確立することは不可欠だと思うのだけど、そのひとつの方向性を探るような、そんなことに思いを馳せられる楽曲だと、個人的にはそう思った。
ただ、自分がまだ捉えきれていない部分もあるような気がしていて、今後聴くたびに深みを増すのだろうなという予感もする。

あともう一度言いますけど「だから!!」やばいです坂崎さん。

Count Down 1999

さて、どこかの伝承世界の旅から「Eurasian Rhapsody」で、現代を生きる私たちのあり方に視線が誘導され、しばし黙考する。されどもアルバム『ARCADIA』の旅は続いていく。
この次にはなんの曲がくるのか……?

そこで聴こえてくるあのメロディ。
マジか。マジかよ。
ここで、このタイミングで聴く「Count Down 1999」はあまりにも重く、あまりにも衝撃的すぎる。

この曲も聴いたことがあった、どころか、直前の春ツアー(2023年風の時代・春)で生で浴びたばかりの曲。
初めて音源で聴いたときは、こんなイントロがあるのかと心底衝撃を受けた。みなさんそうですよね!?
ちょっと寂しげなギターの音色が響いてきて、続くパートは壮大かつどこか悲劇的にも聴こえて、しんみり油断してたら急にダカダカダカダカダカダカダカ!!!!(ドラム)ですもん。びっくりした。ライブで聴いてもびっっくりした。
そして、高見沢さんの声が高くて大喜びしちゃった。サビ前までずっとハモが入ってるのも好きだし、間奏のスピード感もぶち上がるしかなくて好き。
あと、みんな大好き間奏の坂崎さんの見せ場。痺れるなんてもんじゃありませんよねほんとに……かっこよすぎて困る。

さて、ひとしきり曲のかっこよさに大盛り上がりしたところで、ちょっと落ち着いて歌詞にも目を移したいと思う。
歌詞も踏まえて改めて聴いてみると、ひしひしと感じられるのは、前にもアルバムの印象として挙げた「終末」の香り。
終末、その象徴たる1999年、予言された滅びの香りが実感を伴って迫ってくる。
この曲は単なる予言への漠然とした恐怖にとどまらず、もっと肌身に迫る危機感をはらんでいると思う。
歌詞にあるフレーズ、「滅亡へのPrologue」を生きている感覚は今を生きる私もひしひしと感じているものだ。現在の世界、国内情勢を見れば無理もない。
この曲を2022年オーラス、2023年春ツアー、そして2023年の武道館で演ったのもしっくりきてしまうような昨今の世の中。
この曲の歌詞には印象的な言葉が多くて、どこをとってもすべてがそんな現代の私に突き刺さる。
元々、ものすごく好き、というか、私にとって大事な曲だったけれど、アルバムの流れの中で聴いてその想いが増した。

正直、世の中は坂道を転がり落ちるように悪い方へ悪い方へ進んでいる気がして、今ある自由が近い未来失われてしまうのではないかという恐怖もある。
目を塞いで諦めて閉じこもりたくなるような毎日。
そんなとき、

守り抜きたい Only Freedom
愛という名の Democracy
失意の中で掴み取るのさ
涙を流すその前に Yellow Sister
Yellow Sister・・・

THE ALFEE 「Count Down 1999」
https://www.alfee.com/disco/album/song.asp?SID=307&CID=25

こう言ってくれる存在の、なんと支えになることか。

だから Can You See The Nation
この国が見えるかい
諦めないで未来と
目の前の '99, '99, X Day

THE ALFEE 「Count Down 1999」
https://www.alfee.com/disco/album/song.asp?SID=307&CID=25

こう歌ってくれる存在に、なんと救われることか。
破滅的な状況でも、決してペシミズムやシニシズムに染まることなく、理想を、未来を諦めないでと歌ってくれることが本当に私の勇気になっている。失意や諦念に浸るのではなく、歯を食いしばって前を見据えようと思わせてくれる。
ままならなさや苦しさを歌ってもいるのに、全体の印象としてはものすごくまっすぐで力強い。これぞTHE ALFEE、という感じもする。THE ALFEEはいつも諦めることに背を向ける勇気をくれる。大好きだ!

そして、アルバムのテーマとして感じたもうひとつの要素、「愛」。

守り抜きたい Only Freedom
愛という名の Democracy
失意の中で掴み取るのさ
涙を流すその前に Yellow Sister
Yellow Sister・・・

THE ALFEE 「Count Down 1999」
https://www.alfee.com/disco/album/song.asp?SID=307&CID=25

ここではそれが「愛という名の Democracy」として語られる。
この歌詞すごくないですか。めちゃくちゃ好きです。
ここで今更ながら、一応Democracy=民主主義についてもきちんと捉え直してみる。例えばインターネットで手軽に調べられる範囲でも以下のような記述が見つかる。
まずは東京都教育委員会の資料。

基本的人権を尊重する今日の自由民主主義(リベラル・デモクラシー)と呼ばれる近代民主主義の潮流が出来上がっていったのです。

民主主義学習用リーフレット「民主主義って何だろう?」:東京都教育委員会 P.2
https://www.kyoiku.metro.tokyo.lg.jp/school/content/files/democracy_education/leaflet.pdf

あるいは、アメリカ国務省作成の出版物には下のような記述がある(アメリカの公式情報サイトに記載のある日本語訳版を引用)。

民主主義とは、人間の自由を守る一連の原則と慣行である。つまり、自由を制度化したものと言ってもいい。

民主主義の原則 – 概要:民主主義とは何か
https://americancenterjapan.com/aboutusa/translations/3077/

 ふむふむ、(実情はどうあれ)民主主義って原則的にはそう捉えられるわけだよね、納得。
これらの前提を踏まえて問題の「愛という名の Democracy」というフレーズに戻っていきたい。
直前に「守り抜きたい Only Freedom」という歌詞があることを見ても、このフレーズもやはり引用した文章と同様に、人々の自由の尊重を念頭に置いて捉えた方がよさそう。
で。ここではそれを「愛」と呼んでるわけです!
この等式、私大好き。
愛は人の自由を尊重することとつながっているという感覚。これめちゃくちゃ本質かもしれない。 
「自由、平等、博愛」というスローガンで並置されていることには見慣れていたし、たしかに感覚的には納得しやすい。
だけど、私はそういう風にちゃんと愛を捉えて言語化したこと、今まであったかなと考え込んでしまった。本当にTHE ALFEEは私の愛の先生です。
ちなみに「愛という名の Democracy」というフレーズは今後のためにもちゃんと覚えておいてほしいです(伏線)。

いやーしかし、このアルバムをここまで聴いて、むしろこれをリアルタイムで受け取っていなくてよかったかもしれないと思った。

いや、本当に……
無闇な信仰は解決策にはならないと思うので。よかった(大マジ)。

少し話は逸れて個人的な思想の話になるんですが(ずっとそうでは)、私はフィクション、物語は現実社会と切っても切り離せない関係にあると思っていて。
アルバム『ARCADIA』はそういった自分の想いにも非常にぴったりハマる気がした。
物語性の強い「Arcadia」と、今ここにいる私、現実世界に対する切迫感がより強い「Count Down 1999」。
ここに至るまでに通ってきた曲それぞれで語られる情景は異なるし、「現実」との距離感も様々だけど、「Arcadia」でうたわれた「理想郷」の希求、放浪の感覚、それから「終末感」、そして「愛」の問題は、「Count Down 1999」に至るまで共通している。
 すべての曲のためにアルバムがあって、アルバムのためにすべての曲があるような。すごいよ『ARCADIA』。 

追記:だらだらこのnoteを書いているうちにあっという間に時間が過ぎ、そうこうしているうちに新しいアルバム『THE ALFEE/SINGLE CONNECTION & AGR - Metal & Acoustic -』の中で再録してくれましたね……
オリジナルのイントロはまさに世紀末、崩れ行く世界を崖の上から呆然と見ているときのような、神によってもたらされる滅亡を前にした傍観者たる人々の嘆きのような荘厳さがあって好き。再録バージョンはどちらかというと、自分がその中でがむしゃらに走っているような感じがしてこれまた好き。
でもやっぱり、アルバム『ARCADIA』に入れるならオリジナルバージョンなんだろうな。好き。

流砂のように

 陽が沈み、砂漠に夜がやってくる。
砂漠の夜は凍えるように冷たく、静かだ。
そんな情景が浮かんでくる。
イントロのギターの音色が穏やかで、どこか寂しい。
そこに現れる高見沢さんの滔々とした、どこか孤独な歌声がたまらない。
この序盤のどこか表情をなくしたような歌い方から、

流れる砂の様 行きて行きたい
命果てるとも魂は永遠に

THE ALFEE 「流砂のように」
https://www.alfee.com/disco/album/song.asp?SID=308&CID=25

最後の絞り出すような、切実な情感を含んだ歌声へと展開していくのが好きだなあと思う。
アルバム全体で見ると、「Eurasian Rhapsody」「Count Down 1999」でぐっと盛り上がり、同時に歌詞の具体性も上がったところにこの曲が来て、今度は抽象的かつファンタジックな色が強まるような印象を受ける。このバランスがとても好き。
ただ、ファンタジックであるというのは「真に迫っていない」ということでは決してないと思う。
抽象の、物語の中にこそ見える真実ってある。そんなことに思いを馳せる。 
そして天から降り注ぐようなコーラスがあまりにも美しくて。
優しいギターの音色がまたどこか悲しい。
あーーもう、あまりにも情景が浮かびすぎるので一旦その話しますね。

砂漠に膝をつきうずくまる独りの男。
手に触れる砂は冷たく、そして涙とともに流れて落ちていく。
砂を運んでいく風に髪をさらわれ、天を仰ぐと呑み込まれそうなオーロラ。

 カメラは呆然と世界を見つめる男を上からとらえるカットになり、だんだん引いて、男は広大な砂漠の、自然の中にある……

みたいな映像浮かんできません!??
砂漠なのにオーロラかよって感じですが、そんな現実離れした神秘を思わせる3人の歌声。
オーロラでなきゃ迦陵頻伽の歌声(まだちょっと『高丘親王航海記』を引きずってる)。
終盤のメロディは、人類がどうしても手放すことの出来ない悲しみを、魔法のような世界の真実が包み込んでくれるみたい。『ARCADIA』の旅になぞらえても、どうもこの「流砂のように」で一旦途方に暮れて諦めかけてる感じしません?
さまよい、いろんな場所を旅してきて、時には理想郷めいたところも見つけたけど、どこにも安住できなくて、結局砂漠に戻ってきて、己の身体の小ささに涙し、世界の大きさにどこか安堵しながら力尽きるみたいな。
涙は流れ続ける、砂は流れ続ける、そして世界はずっとそこにある、みたいな。この曲の情景がすごく好きです。
ここで一区切り着く感じもありつつ、最後のコーラスは「別の世界」への広がりを感じさせるような気がして、アルバム中盤たる6曲目として秀逸過ぎるな……ほんとになんなんだこのアルバムは。

FUNKY DOG !

ええええええええーーーー!???(初見の包み隠さぬリアクション)

えっここで!?ここから!??「FUNKY DOG !」!?
THE ALFEEの曲やアルバムを聴いていて、「いや天才か!?」と叫んでしまう瞬間って数多あると思うんですけど、その中でもかなりの大ボリュームで声が出た瞬間でした。
誰が「流砂のように」から「FUNKY DOG !」へ展開すると予想できる……??
てか「FUNKY DOG !」ってこんなエスニックな始まり方だっけ?!全然意識してなかったけどそういやそうだな!?(これまで曲単体で聴いてた人)
えーーーーなになにこれまで世界観は聖書で言う出エジプトだったけど急に転生するじゃん!???急にNYじゃん???あれですよね、イエローキャブとか走ってる感じ。ちょっと前の映画でよく見る都会の光景。

はぁーびっくりした。
ひとしきり驚き終わってよく聴くと、この曲で歌われている、現代の若者の空っぽで、孤独で、何かになりたいこの感じも、アルバムのテーマに何となく通じてるんだなとわかる気もしてきて。

抱きしめたくなるほどの
未来が欲しいのさ

THE ALFEE 「FUNKY DOG !」
https://www.alfee.com/disco/album/song.asp?SID=309&CID=25

わかる……(自称若者大共感)
この、希望の未来や夢を欲しているけど、どこか途方に暮れているような感じ、ノリはすごくいいのに、歌詞や坂崎さんの歌い方はどこか乾いて/渇いているような感じ(こういう歌い方の坂崎さんも本当に大好き)。
最初はびっくりしたけど、聴けば聴くほど『ARCADIA』に入っていることに納得できる。彷徨の旅路の次なる通過地点は都会の砂漠。

坂崎さんハンドマイク曲として名高いこの曲、当然顔見知りではあったわけですが、アルバムの中で聴くと全然違う一面を見せてくれて、これぞアルバムの醍醐味ですね。

ともあれ、先ほどは「転生」という言い方をしたけれど、これまでどこかファンタジックで非現実的、あるいは壮大・劇的だった『ARCADIA』というアルバムは、ここで曲の雰囲気がかなり「等身大」に寄ってくる。
この曲で『ARCADIA』の旅路が明確に起承転結の「転」を迎えているような。
そしてこれ以降のアルバムの流れを知ってから聴くと、この等身大の楽曲は『ARCADIA』という作品のメッセージを自分の身で受け止めるための準備体操のような気もしてくる。

My Best Friend

名曲。本当に名曲。
序盤からの美しいコーラスやメロディはもちろんのこと、初めて聞いた時からとにかく歌詞にハッとさせられる。

子羊のままじゃ 君は生き残れない
時には牙をむいて咬みついてみろよ

THE ALFEE 「My Best Friend」
https://www.alfee.com/disco/album/song.asp?SID=310&CID=25

当たり前の平和に甘え過ぎてはいけない
時にはこの国の現実を知れよ

THE ALFEE 「My Best Friend」
https://www.alfee.com/disco/album/song.asp?SID=310&CID=25

「Count Down 1999」や「Eurasian Rhapsody」もいろいろと考えさせられる楽曲だけど、間に「FUNKY DOG !」が挟まれていて、アルバムの受け止め方がより身近、具体的になっているときにこの曲を受け止めると、あまりにも自分の生きている世界、社会に重ねられてしまってつらい。平和というもののもろさを特に感じる昨今ならなおさら。
「時にはこの国の現実を知れよ」という歌詞のところなんか、共感で振り上げる拳が止まらなくて。
そして、共感させられるからこそ、希望であり勇気をもたらしてくれる。

Wo Wo My Best Friend
プライドを忘れてはいけない
愛という名のIdeology
時代と戦う為に

THE ALFEE 「My Best Friend」
https://www.alfee.com/disco/album/song.asp?SID=310&CID=25

「Count Down 1999」ではDemocracyと並べられていた愛、それが今度はイデオロギーとして語られる(伏線回収)。
「愛という名のIdeology」、THE ALFEEの楽曲世界の芯、信条、指針を端的に表していると感じる、とても好きな表現だ。
世界の見方、世界への対峙のしかたの中に、かならず大きく「愛」が横たわっている。これがすごく大切なポイントなんだなと心底思う。

この曲、最初は高見沢さんボーカル曲だったそうですね。
アルバムでは桜井さんがメインボーカルで、終盤の盛り上がるサビの繰り返し部分で高見沢さんがメインになる。この切り替えも大好きで。
桜井さんのまっすぐで力強い歌声で「逃げ出さないで」と歌われて勇気をもらい、高見沢さんの感情があふれるような歌い方に鼓舞される。

丘に昇った星座は高くても
僕らの未来は輝いていた Tonight

THE ALFEE 「My Best Friend」
https://www.alfee.com/disco/album/song.asp?SID=310&CID=25

このフレーズ、最初と終盤で歌詞が「未来は輝いていた」→「未来は輝いている」と微妙に変わっているのも良い。
この繰り返しの歌詞の中でほんのわずかな時制の違いを使うことで未来への希望が、今でも確かに存在すると思わせてくれるから。大好き。
あとここの下ハモの坂崎さんの声が、本当に、好き。かっこよすぎ。

そしてタイトル。
この曲に「My Best Friend」という曲名がついていることもすごくうれしくて。
どうしようもなく憤らざるをえない、酷いことがたくさんあって絶望してしまいそうな世の中だけど、それに相対する自分は、「We Are The One.」の歌詞の通り、独りじゃないと思えて。一緒に時代に抗ってくれると(勝手ながら)思えて。
サビや最後の「Oh My Best Friend」のリフレインは「みんなで歌っている」感じがしてすごく心強い。
「Count Down 1999」のパートでも同じようなことを書いたけれど、一貫してあきらめず、未来を信じて踏ん張ろうと思わせてくれるところが本当に救いになっている。
2023年秋ツアーでこの曲をセトリに入れてくれたことには感謝してもしきれない。福岡サンパレスの1番後ろの席で私は拳を振り上げながら大泣きしました。

アルバムとしては、もうこのあたりアクセル全開で突き進んでますよね。「FUNKY DOG !」で、『ARCADIA』が抽象的なファンタジーの世界にとどまらないことを実感させ、その証左のようにここで現実を生きる私たちに向けてメッセージを畳みかけてくる。
これが私が『ARCADIA』に感銘を受けた大きな要因な気がしています。

それから、曲の最後に入っているニュース?みたいな音声、これなんて言っているのだろう……
浅学ゆえまったく見当もつきません。助けてください有識者の諸先輩方。

Shadow of Kingdom

この曲のベース大好き。
少し調べたら、ファミコンゲームのタイアップ曲だったんですね。
Wikipediaを斜め読みした程度ですが、どうやらSFもののRPGかな……?
ここでは歌詞の抽象性やファンタジックな調子が少し戻ってきていているものだから、道理で、と納得したり。
「ペルセウス」「アンドロメダ」「愛の亡命者」などなど、ロマンチックでファンタジックな歌詞が並ぶ、まさに高見沢節炸裂。
そもそも曲名の「Shadow of Kingdom」の時点で相当ファンタジック。
でも、それでいて語りかけている内容の芯はやっぱりぶれない。
夢に背を向けても、自分の心の中に状況を打破する力は眠っている。
この、ファンタジックな力強さ、夢見るタフガイ感にめちゃくちゃ高見沢詞を感じる。大好き。

と、何度も言うように一見ものすごくファンタジックな歌詞だけど、よくよく聴くと、実は歌っている内容は抽象的かつ比喩が多いだけでこれまでと共通していると思っていて。
特に以下の部分。

愛の亡命者 彷徨いながら
真夜中駆け抜けたどり着きたい
The Shadow of Kingdom・・・

THE ALFEE 「Shadow of Kingdom」
https://www.alfee.com/disco/album/song.asp?SID=311&CID=25

このnoteの冒頭でも書いたけれど、この「彷徨う」という感覚が『ARCADIA』に共通しているというのが個人的なこのアルバムの捉え方。
1曲目の「Arcadia」におけるアルカディア、理想郷。アルバムの中で幾度も形を変えて出てくるこの「何か素晴らしい、ここではないどこかの、目指すべきもの」。
少し舞台や表現が現実寄りの「FUNKY DOG !」や「My Best Friend」では「未来」「理想」と語られるその理想郷が、ここでは「The Shadow of Kingdom」として現れている。
さて、The Shadow of Kingdomってなんなんだろう。
Shadow Kingdom(=影の王国)、ならまだわかりやすい気もしたけれど、ofが入ってる。直訳すると、王国の影?(英弱……)
うーん。
この「Shadow」を光に照らされてできる「影」とすると、どうもちょっとダークなイメージになってしまうけれど、歌詞では「真夜中」という闇を駆け抜けて辿り着きたい場所として、The Shadow of Kingdomを描いている。
これが最初はどうも不思議だった。
少し考えて、今では「Shadow」を「面影」の意味で捉えて、王国の名残、幻影、と解釈するのが個人的にしっくり来ている。
もちろん、歌詞では「太陽」「光」「輝き」⇔「暗闇」「真夜中」、「暗闇」に導かれる「孤独」などのように、明らかに意識的に光(ポジティブ)と影(ネガティブ)の対比が表現されている。だから、Shadowという単語にもそのイメージが重ねられているのは疑うべくもないと思う。
でも同時に、「影」という通常ダークなイメージが付与される単語を使って、「王国の名残」=あの遠い理想の面影、を匂わせている、みたいな解釈ができたとしたら、めちゃくちゃ楽しくないですか?歌詞では「The」という定冠詞もついていることだし。
英語わからんなりにごちゃごちゃ言ってますが、アルバム『ARCADIA』をどうしても理想郷を求める彷徨の旅路と捉えてしまう私によるこじつけです。これも解釈のひとつということで、いろいろ間違っていてもどうかお目こぼしを。

と、だいぶ脱線したけれど、とにかく、「The Shadow of Kingdom」は前の2曲とはまた雰囲気が異なるものの、やっぱり非常に『ARCADIA』らしい1曲だと思った、という話がしたかったわけです。
こうやって、ときには楽曲を現実に否応なしに重ねながら、あるいは想像の世界へ羽ばたきながら、それらの曲やそれを受け止める自分の情動が一体となって1つの方向へ進んでいく。
アルバムのどこにいてもこの感覚を強く感じられるのが、コンセプトアルバムとしての『ARCADIA』の完成度の高さなのだろうと、素人ながら思ったりもする。

風は大空の広さを知らない
誰も愛の深さを知らない

THE ALFEE 「Shadow of Kingdom」
https://www.alfee.com/disco/album/song.asp?SID=311&CID=25

いやマジここ天才過ぎる。
「ペルセウスの~」「アンドロメダの~」の部分もそうだけど、一気に視界が開けるような曲の展開が気持ち良すぎる。
またこの「広さを知らない」の桜井さんの「ら」が好き。
歌詞も好き。大空の広さを知らない、愛の深さを知らない、と否定形で歌っているけど、だからこそまだ見ぬ可能性の面影に想いを馳せることができるような。

で。
……やっぱり我慢できないのでここまで言ってなかったこと言ってもいいですか。

いや、めちゃくちゃフラッシュのテーマじゃないですか!?QUEENじゃん!!!(初見の包み隠さぬ感想その2)
そんなんありかよ!!ってちょっと笑っちゃいました。
個人的にはここまで「FUNKY DOG !」からの「My Best Friend」で拳を振り上げたり考え込んだり涙したりで感情の乱高下がすごかったので、ちょっとそのお茶目なオマージュに心がほぐれてよかった。
そのほかにも、ピシューーって星が流れるような、それこそゲームみたいな音とか、ドゴーンって宇宙船が大破してそうな音とか(宇宙空間は無音か)、最後なんかまさに昔のアニメ的表現で宇宙船がピュインピュインピュインとワープしていくように聞こえちゃう。この音から受けるイメージがかなり強いもんだから耳が楽しくて、ちょっとほっとしつつ、ノリつつ。
さっきはこねくり回しながら書いたけど、端的に言えばどこかへ向けた冒険の気持ちを思い出すようなこの曲。
一方で、アルバムも終盤に差し掛かるこのタイミングでこんなとこまで旅してて大丈夫なのか?ちゃんとどこかへたどり着けるのか……?という一抹の不安も。もはや時を超えて近未来まで旅してる感覚。
思えば遠くへ来たもんだ。

Mind Revolution

と思ってたら、一気に『ARCADIA』らしい雰囲気に立ち返るもんだからこのアルバムは怖い。

Once Upon A Time 遥かな時代
僕等はここに来た
光の羅針盤 時間より速く
幾千もの星座を越えて

THE ALFEE 「Mind Revolution」
https://www.alfee.com/disco/album/song.asp?SID=312&CID=25

「Arcadia」で荒涼たる地を後にして、緑むせ返る熱帯雨林や流砂のなか、都会の雑踏、果ては未来まで、『ARCADIA』というアルバムで、長く長く場所と時をまたにかけて旅をしてきて。そしてようやくここまでたどり着いたような気持ちでいたものだから、これまでの道のりを俯瞰し包括し抱きしめるみたいなこの歌詞が冒頭に来て、初めて聴いたとき本当にびっくりしてしまった。

遠い昔 出逢った事があるよね
そんな記憶を思い出したのさ
すべての Memories
君のImagination

THE ALFEE 「Mind Revolution」
https://www.alfee.com/disco/album/song.asp?SID=312&CID=25

もう完全にここでこれまでに聴いてきた曲と、それぞれからイメージした風景が走馬灯のように頭をよぎってる。
そうなの、旅をしてきたのよここまで長いこと。大変だったね、いろんなことがあったね、それを共有できているんだね……ってもう、なんか勝手に泣けてきてしまって。
ここまでの曲がどれも素晴らしくて、それぞれが世界を描いていて、だからこそ思い返したときの感慨もひとしおで。
曲の中で思い描いてきた夜空、星、オーロラ……そんな美しい風景が、思い出として自分の中に輝いているのを感じる。
また、これが坂崎さんメインボーカルなのが巧みすぎる。
上で引用した歌詞を坂崎さんの優しい声で歌われた日には、夢の中で出会った懐かしいあの人、みたいな気持ちになってしまう。勝手に寄り添われてる気持ちになってしまって、『ARCADIA』の旅路のそばにずっとTHE ALFEEがいたんだな……って改めて実感してしまう。
ついでに恋にも落ちてしまう。

もう気分はかなりクライマックス、旅を振り返って涙涙。
ただし、それでは終わらないのが『ARCADIA』。

夢は消えてゆく
君が気づかぬうちに
愛は消えてゆく
君が気づかぬうちに
全てを失くした時 昨日に傷ついて
未来を諦めた時 全ては殺那の中
失われてゆく日々 立ち尽くす現実

THE ALFEE 「Mind Revolution」
https://www.alfee.com/disco/album/song.asp?SID=312&CID=25

ゆったりと、壮大な曲調で歌われる、愛、夢の喪失。傷跡、現実、過ち。
私たちの旅してきた世界は決して美しいばかりのものではなかった。
そのことを、やっぱりここで思い出す。
世界は美しいけれど、そんな世界でも人々は悩み、苦しみ、争い、過ちを犯す。
これから一体どこへ行けばよいのか、わからず現実の中で立ち尽くす。
これまで、『ARCADIA』はそのタイトル通り「アルカディア」=「理想郷」を探す放浪の旅路だ、というようなことを度々書いたけれど、ここに来てその歩みが行き場を失って止まっているような気がする。
結局、そんな理想のような場所なんてどこにもないのかもしれない。「Shadow of Kingdom」でShadowを「名残」、「幻影」と捉えたように、それは近づけば蜃気楼のように消えてしまう夢幻なのかもしれない。
そんな予感と哀しみが、優しいメロディと歌声にのせられ、これまでの旅路の想い出とともに胸に染み入ってきて、身体から力が抜けた。
これまで必死に、どこかに理想郷があるはずと求め走ってきたけど、もしかしたらそうじゃないのかもしれない、そんな感覚。

争う事ではなく 壊す為でもない
ただ生きてきた証しの Revolution
幾つもの過ちを繰り返し
人は自分をControl出来なくなるのさ

THE ALFEE 「Mind Revolution」
https://www.alfee.com/disco/album/song.asp?SID=312&CID=25

「争う事ではなく 壊す為でもない ただ生きてきた証しの Revolution」
とても素敵な歌詞だ。
争いたいわけじゃない、壊したいわけじゃない。
この部分を聴いて、そうか、と思った。
過ちを繰り返し、それから逃れるようにどこにあるかもわからない理想郷ばかりを求めてはてきたけど、そうじゃなくて、私たちの望むものは、ただただ、自分たちが自分たちとして生きていくことなのかもしれない。
最終盤、THE ALFEEの真骨頂とも言うべきコーラスと共に歌われる歌詞。
ここでさらにその想いは強くなった。

La La La La La La 夢を追いかけていたい
La La La La La La 愛を信じていたい
La La La La La La 君を抱きしめていたい
La La La La La La 君を見つめていたい
La La La Take Me Home La La La La La La La
La La La Take Me Home 宇宙(うみ)へ帰りたい

THE ALFEE 「Mind Revolution」
https://www.alfee.com/disco/album/song.asp?SID=312&CID=25

遠く故郷を離れて「どこか」を求めてさまよいたいわけじゃない。
夢を追いかけ、愛を信じて、大切な人とともに、自分が大切に思える場所、Homeと呼びたい場所で生きていきたいだけなのかもしれない。
そんな気づき。

とにかく、この曲は、コンセプトアルバム終盤も終盤にふさわしい、「まとめ」であり、かつ「方向転換」の曲な気がしている。
そんなことを考えながらふと改めて見ると、「Mind Revolution」というタイトルがあまりにもぴったりに思えてくる。

この曲で改めて旅路を振り返り、自分自身を見つめ直す。そして方向転換をして、自分が本当に求めていたものにようやくまなざしを向ける。それは多分旅路の果てに見つかるものではなくて、本当の私がいた、あの懐かしい場所で探すべきものだったのかもしれない。
そんな心持ちに、「宇宙(うみ)」へ帰りたいという切望が祈りのように木霊する。

On The Border

「Mind Revolution」の、まさに宇宙を思わせるような壮大な雰囲気と、THE ALFEEの真骨頂たる神秘的なまでのコーラス、そして暗転。
その雰囲気の帳を取り去るように鳴り響く「On The Border」のイントロは、まさに明転のような効果をもたらしていると思う。
さまざまに旅をして、行くあてを見失ない、そもそも求めていたものは捨ててきたあの場所で探すべきだったのかもしれないと思い瞼を閉じる。
そして再び目を開くと、そこには夢から醒めたような乾いた青い空と、「私たちの生きている現実の世界」が広がっている。
そんな情景が浮かんだ。

明転という言葉を使わずに言えば、「On The Border」という曲のイントロ部分は、私に青空を想起させる。
その青空は澄み渡っていて、嫌になるくらい明るい。白昼の光景。
少し視線を移すと、陽の光が克明に現実世界の形を照らしだしている。
歌詞もあいまって、そんな風に思える。

Soldier Boy 何のために
戦い続けるのだろう
Dear Jesus Christ
答えてくれ!
どれだけ血を流せば終わるのか

THE ALFEE 「On The Border」
https://www.alfee.com/disco/album/song.asp?SID=313&CID=25

この冒頭部分を初めて聴いたときの気持ちはいつまで経っても忘れられない。
目をそらしたくてもそらせない、突きつけられる現実に苦しくなる。
高見沢さんのボーカルのあまりに切実な色。
その後ろではアコースティックギターの音色のみが奏でられる。
壮大なイントロとの落差のなか、目をそらしたくてもそらせない、この世界の不幸がつきつけられる。
音楽というのは、こんな表現を可能にするのかと心底感じ入った。

すみません、少し嘘をつきました。
一番最初に聴いたときは、そんなに冷静ではいられなかった。
そのあまりの苦しさ、切実さに感情移入して、涙がこぼれてしまって。
訳も分からず、とにかく苦しくて、つらくて、私があまりにも無力なこの世界がしんどくて。
そんな気持ちを包み込んでくれるような、サビの雄大なメロディと祈りの言葉にもっと泣けてしまって。

「祈り」。
まさにそれがこの曲から私に響いてきたものだった。
時に戦うような、時に叫ぶようなギターソロからも、「Dear Jesus Crist」のシャウトからも。
曲の冒頭で展開される苦しい情景に対して、後半から終盤にかけては、ずっとずっと祈りの声を張り上げているように聞こえる。
ラストにかけてのサビのリフレイン。「Glorious, halleluiah」。アウトロ。ずっと。
こういう、切羽詰まった「祈り」を歌う高見沢俊彦には出色のものがある(ときっと皆さんも思っているはず)。
そしてTHE ALFEEの代名詞たるコーラスが、その祈りに膨らみを持たせる。
その表現力も相まって、涙を流しながら呆然としてしまった(※4)。

私は幸運にも、今、生命が脅かされるような状況に暴力的に追い込まれる立場にはない。
けれども、日々生きる中で、情報に触れる中で、そのような立場にある人々が幾人もいることに、そして私は安穏と日々を過ごしながらそんな世界を構成する一員となっていることに、どうしようもなく苦しくなることがある。
思えば私はアルバム『ARCADIA』にそんな自分の気持ちをずっと重ねて聴いてきた。
こんな世界から抜け出して、どこかにある理想の、幸福の、自由の地へたどり着きたい。そんな気持ちでどこか夢を見るように旅をしてきた。
「Mind Revolution」、そして「On The Border」は、そんな私の手を引いて目を覆うような現実に連れ戻して、それでも祈るのだ、乗り越えろと語りかけてくる。
歌詞にいわく、「愛の名のもとに」。「自由の旗を掲げ」て。
ここに私は、『ARCADIA』という作品の実直さを見たような気がする。
ファンタジーや理想を語るだけではない、この世界の苦しみも描き込む。これが私が『ARCADIA』というアルバムに心底惚れ込んだ一因であると思う。
この旅の果ての、THE ALFEEらしい、誠実で真っ直ぐで力強い祈りに心が震えた。
この世界で、すべてを解決する答えは未だ見つからないけれど。

Glorious Victory, My Resistance
アジアの風に吹かれて
Glorious Victory, My Resistance
乗り越えろ! 心のBorder Line

THE ALFEE 「On The Border」
https://www.alfee.com/disco/album/song.asp?SID=313&CID=25

その先にきっと未来があるはずだ、乗り越えろと語りかけられて、奮い立たせられて、歯を食いしばってうつむいていた顔を上げ、拳を握りしめた。

そして、
響き渡るドラムロール。

FLOWER REVOLUTION (Slash Mix)


「To be a Rock Flower Revolution !!」

まさか、こんな、こんなことってあるの。
ほんのわずかな勇気を胸に顔を上げると、花、花、花。
そんな光景を本当に幻視した。

「Flower Revolution」。THE ALFEE新参者の私も知ってる大大大名曲、ライブで盛り上がる鉄板曲。歌詞もメロディも端から端まで大好き、知ってた。

だけど、『ARCADIA』の中で、最後にこのドラムロールが聴こえてくる、この感動は知らなかった。
ここまで『ARCADIA』を聴いてくる中で名盤だと思う瞬間は数多あったけど、この曲のイントロを聴いた瞬間、まさに雷に打たれたような衝撃を受けた。
信じて、勇気を振り絞って一歩踏み出したら、そこには求めていた世界が広がっていた。そんな気持ちを、アルバムのなかで体験させられるとは思っていなかった。涙は止まらないし、だけど希望に心うたれて笑顔になってしまうしで、もう大変。

「FLOWER REVOLUTION」は、『ARCADIA』に先立つこと9か月ほど前にシングル曲としてリリースされているらしい(ググった)。ということは、リリース当時にアルバム『ARCADIA』を聴いた人達も、この曲のことは知っている状態で、そしておそらくみんな当時から「FLOWER REVOLUTION」という曲がかなり好きだったろうと思う(好きにならない方が難しいような曲だもの)。
つまり、これ狙ってやってますね……?
聴いたらみんな嬉しくなってしまう、喜びに満ちた曲をここに持ってくる。
やばい、天才過ぎる。最高すぎる。
こんなアルバムの構成のしかたがあるのか。
私が音楽に滅法疎いせいかもしれないが、1枚のアルバムを聴いてこんな景色を見て、こんなに感情を揺さぶられたのは初めてで、本当に感銘を受けた。

また、「FLOWER REVOLUTION」という曲の持つ広がりがとてもいい。
「On The Border」を聴いて奥歯をかみしめていた時の私はひとりだった。
だけど、「FLOWER REVOLUTION」は違う。
みんなで花を掲げているような、拳を突き上げているような、豊かな力強さと心強さがある。
「On the Border」が旅の終わり、エンディングなら、「FLOWER REVOLUTION」はエンドロールだ。

Starting Over Flower Revolution
奇跡は起こる Flower Generation
世界は変わる 哀しみへの Warning

THE ALFEE 「FLOWER REVOLUTION (Slash Mix)」
https://www.alfee.com/disco/album/song.asp?SID=314&CID=25

「On the Border」で感じたやりきれなさ、悲痛な願い、その中で抱いたひとかけらの希望、そして祈り。そういったものが、全部まとめて抱きしめられて、「奇跡は起こる」「世界は変わる」と歌い上げられる。祈りが確信になり、世界を変える優しい力になる。元々聴いたことのある曲だからその素晴らしさもよく知っていると思っていたけれど、アルバム『ARCADIA』の文脈をまとった「FLOWER REVOLUTION」にはそれにとどまらないものがあるように感じられて、あえてシングル曲をアルバムに組み込む意味を心底実感した。

薔薇の花束を
敷きつめた道を
君と手を取り合って
走り出すのさ

THE ALFEE 「FLOWER REVOLUTION (Slash Mix)」
https://www.alfee.com/disco/album/song.asp?SID=314&CID=25

「FLOWER REVOLUTION」で印象的なこの歌詞も、アルバム『ARCADIA』を通して聴く中で印象がさらに深まった。
「薔薇の花束を敷きつめた道」。想像するだにロマンチックな景色。
美しい花の代表格である薔薇を敷きつめたその道は、桜井さんの艶やかで真っ直ぐな歌声も相まって、美しく明るい雰囲気をまとっている。それはきっと辿り着きたい未来、奇跡に続いていく輝かしい道なのだろうと、きっと誰もが思う箇所だと思う。
それがなぜだか『ARCADIA』を聴いたあとは、その道をただ美しいだけのものとしては捉えられなくなっていた。「On The Border」で味わった無力感と祈りのせいかもしれない。
文字通り、美しい薔薇には棘がある。そんな花を敷き詰めた道は美しく見える反面厳しくて、そこをゆくことは苦難を伴うのではないかとふと思った。
だけど、ここではそれを「君と手を取り合って走り出すのさ」と歌う。
「君」と一緒なら、あなたと一緒ならその厳しさを乗り越えて奇跡を起こすことができる、という響きに聞こえる。
少なくとも私たちはひとりぼっちではなくて、手を取り合って進んでいける、という連帯の心強さ。
これまで考えてもみなかった意味合いが自分の中にあらわれてきて本当に驚いたし、これこそアルバムを通して聴く意味なのだとも感じた。

そもそも、私はご多分にもれず「FLOWER REVOLUTION」が大好きだ。
パートごとに3人が歌い継ぎ、それぞれ異なる歌声の魅力が存分に味わえるスイッチボーカル。歌詞もメロディも全編にわたって好きで好きでたまらない。

Baby, Talk to me
語り合いたい
世の中のこと 政治のこと
この星の平和への話も

THE ALFEE 「FLOWER REVOLUTION」
https://www.alfee.com/disco/album/song.asp?SID=314&CID=25

この歌詞にも、何度心を慰められ、勇気づけられたかわからない。

同時に、ただただ明るいだけではなく、含みのある楽曲であるとも思っている。そして、それが「FLOWER REVOLUTION」をさらに特別に感じる理由になっていると思う。

例えば、イントロ頭をはじめ、随所に挿入されている、ヒュ--------ドーーーーン!!!!という音。
ずっと、爆弾が落ちるような音だと思っていた。
先ほど引用した「薔薇の~」のパートに入っているザッザッザッという音は兵隊の行進の足音を想起させるし、そもそも冒頭のスネアドラムの音はマーチっぽい(注:音楽の素養ゼロの人間が適当なことを言っています)。
とにかく、平和を願う、明るく花が咲きほこる情景を思い起こさせる曲なのに、争いを彷彿とさせる要素がふんだんに、かつ明らかに意識的に盛り込まれているように感じる。
楽曲の主題や歌詞と相反するモチーフを使って表現されているように聞こえるこの曲が、だからこそ全体としてとても好きだ。
人を傷つけるためにつくられたものやそこから発生してきたものすべて、争いなんて、戦争なんて、音楽にして平和と希望を歌ってやるぞ!という感じ。
勝手に聞き取って勝手に解釈しているだけですが、そう考えるとこの曲ってむちゃくちゃ、むちゃくちゃかっこいい。
ただ祈るだけに留まらず、歌によって実際に世の中の争いを解体しようと積極的に試みているような。

『ARCADIA』に収録されているバージョンだと、さらにその積極的、挑戦的なニュアンスが滲んでいる気がする。ちょっと無骨で、より砂っぽくザラついた感じがするというか。
その質感が、シングルバージョンと比較してより現実に肉薄するような雰囲気を醸し出していると思う。
そして何より、ラストの「Get up!!!!」のシャウトと炸裂音。
それまで、性懲りもなくどこか夢見がちに明るい未来を思い描いて陶然としていた私は、ここで頭を殴られたような衝撃を受けた。
それはまさに、目を覚ませ、さあ生きろ、この苦しく行く宛てのない世界を変えてみせろと発破をかけられたようだった。

夢に浸ったままでは終われない。ARCADIAにはたどり着けない。
でも、私はここで、この世界を諦めずに、人々と手を繋いで生きていくことが出来る。前を向いて、目を見開いて。
『ARCADIA』を聴き終わった後、目の前には私の生きている現実の世界が広がっていた。
どうしようも苦しくて醜くて、けれども美しいはずと信じ願っているこの世界が。

おわりに

私が旅した『ARCADIA』の風景を、ただ残しておきたくて、このnoteを書き始めた。
このアルバムはきっと当時の社会情勢からも強い影響を受けているだろうと推察するのだけど、その当時を知らない私が今聴いても深く感じ入り、思わずあれこれと思いを巡らせてしまう、数々の曲の魅力とメッセージの普遍性。
単に聴くだけでもうっとりしてしまう美麗で時にハードな楽曲の数々。多彩なアレンジにコーラス。すべてが合わさって『ARCADIA』の世界を驚くほど明瞭に想像させる。

とはいえ想像しすぎて思いのほか長くなってしまったこと、ところどころ楽曲が大切すぎて筆が進まなくなってしまったことなどが重なり、気づけば初めて『ARCADIA』を聴いてから1年近くが経過していた。
その間に世の中ではいろんなことが起きていて、無知な私がこんなことを知ったような顔で書いていること自体にある種の傲慢さを覚えることもあった。
だけどどうしてもこれを書きあげたかった。音楽のアルバムを1枚聴くだけで、こんなに長く果てしない旅をして、いろんなことを考える、そんな経験は人生でそうそう味わえるものではないと思ったから。そして、そこで考えたことや想像した景色を忘れずに生きていきたいと思ったから。
こんな体験をさせてくれるTHE ALFEEというバンドに出会えるなんて、私の人生はなんて恵まれているんだろうか。

THE ALFEEは2024年8月25日にデビュー50周年を迎える。
きっと、彼らがどこかで活動をやめてしまっていたら、私がこの素晴らしいアルバムに巡り合うことは一生なかっただろう。
THE ALFEEと、彼らをとりまく世界に心から感謝している。そんな世界が「FLOWER REVOLUTION」が想起させるようなものであることを心底願ってやまない。
『ARCADIA』での旅を胸に、私はこれからもこの世界を歩いていく。

最後に、ここまで長い文章を読み、ともに旅をしてくださったあなたにも両手いっぱいの愛を。
あなたに、みんなに、たくさんの幸せが訪れますように。

2024.08.24 イツカ



(註)
※1 「この世の終末に 愛を燈せるか 夢を繋げられる 力はあるか」 THE ALFEE「祈り」
※2 文筆家で、様々かつ、多分にマニアックな西洋文化(球体関節人形など代表的に語られることが多い)を日本に紹介したことで知られる澁澤龍彦(彦の字は正しくは立の縦棒部分が交差する旧字)最後の小説作品。実在の人物「高丘親王」が天竺を目指して旅をした史実をベースにした、幻想的な海洋冒険譚。……というにはあまりにつかみどころがなく、天竺には全然辿り着かない、終わりもあるようでないような小説だが、筆者は結構好き。
※3 「ブルージーンに白いTシャツ着た 黒い瞳の BOYS & GIRLS YOU'RE JUST LIKE A YOUNG AMERICAN これから何処へ行くのか」  THE ALFEE 「Just Like America」
※4 余談だが、なぜか筆者が『ARCADIA』を聴いていたのは渋谷のニトリだった。近く控えた引っ越しのため家具を見定めに行った折、ふと聴き始めてしまったというわけだ。当然、途中から『ARCADIA』の世界に引きずり込まれてしまい、目的はほとんど果たせなかった、どころか、涙を流しながらニトリのベッドフロアをふらつく不審者となり果てた。すみませんほんと。


いいなと思ったら応援しよう!