光と共に見えた新たなロード
やっと見えてきた。自分が求めていた方向性が。終わりの見えない真っ暗な空間にふらふらと彷徨っていた俺にようやく1本の力強い光が現れた。
ちょうど1年前、何か違和感を覚えた。それを抱いた瞬間はそれほど大きなものではなかったけど、その違和感は日増しに大きくなっていった。
「俺はこのまま研究の道を生涯歩み続けることが自分にとってベストの選択なのか」
いや、そもそも
「俺は一体何者なのか」
この問いにきちんとした答えを出したかったので、休学をして海外にプチ移住する(ジョージアに行く)ことで、自分と向き合おうとした。全く知らない世界や文化は自分の価値観を広げるだけじゃなく、自分を見つめるには最適の環境だと思ったからである。
ところが、例のパンデミックがその機会を延期させてしまい、この計画は完全に白紙になってしまった。
これが、俺には相当ショックでありとあらゆる活動に対してやる気を消沈させてしまう。旅好きの人にはわかると思うけど、入念に計画していた旅が自由にできないことによる精神的苦痛は思いのほか大きい。
ただただ暗い海を眺めて気を紛らすこと以外何もできなかった。
それ以降、「なにもしない」生活をすることにした(無為に過ごす)。本当に言葉通りで仕事をするわけでも学業をするわけでもなく、ダラダラと好きな時間に起きて、好きな時間に寝る、食べたい時に食べるそんな生活。いわゆる廃人生活が数ヶ月続いた。
不思議なことに、こういう生活をしていると最初はなにもしないのが心地よく思えるが、1ヶ月も過ぎると自然と「何かやりたく」なってくる。毎日働いている親や弟、妹の姿を見て背徳感のようなものは一切抱かなかったけど、何もしなさすぎると次第に1日に満足できなくなっていた。
さすがに何かをしたいと思うようになり、そこで始めたのが自重トレと読書だった。読書はただ本を読むことのおもしろさを体感したから好きで習慣化していたけど、筋トレはちょっとした好奇心からだった。それは、
「肉体と精神は密接に結びついていて、肉体だけが健康とか精神だけが健康ってことはない。精神を強くするには肉体の鍛錬は必要不可欠である」
こんな感じのことを文学作品で聞いたことがあった。文字では理解できても、実際にはどうなのか。肉体を鍛えることで精神が豊かになり、その結果物事がいい方向に進むことなんてあるのだろうか。自分の進路再考になにかきっかけを与えてくれるのだろうか。そんな疑問を明らかにするために筋トレを始めた。
はじめはただただしんどいだけで精神的な満足は全く感じられない。むしろ、これを続けることを考えただけで嫌気が差した。それでも毎日何かを変えていった。回数や負荷、筋トレ前後の食事など...
そうこう続けているうちに、少しずつ心に変化が生じてきた。なぜかわからないけど、身体中にエネルギーが湧いているのが実感でき、トレーニング後に何かをする時が一番集中できた。とはいってもタスクや義務はなかったからひたすら本を読むことや自分は何者かを考えていただけやけど...
これによって、少しずつ「肉体を鍛えれば精神も変化してくる」ことを実感し始め、さらに肉体の鍛錬に励んだ。
今度はただ鍛えるだけじゃなくて、朝に短時間で心拍数を上げるハードなトレーニング(HIIT)や1日8時間の間に食事を済ませ残りは完全に絶食することで脂肪を燃焼させたり(リーン・ゲインズ)、飲み物を水だけにして、身体と精神の変化を試してみた。
すると、こっちの方が明らかに変化が激しかった。身体はみるみる締まり、初めて腹筋に割れ目が見えた。表情も前より豊かになり、ポジティブ思考が加速した。
(飲み物を水だけの習慣にすると、日々食べる食事が一段とおいしく感じるので、今でも続けているし、他のものを飲む理由を見出せなくなった。)
目に見えて自分が少しずつ変わっているのがわかる。そう思うと同時に、「近いうちになにかが起こりそう」な気配を感じた。幸いその気配は見事に的中した。
7月中旬頃、Twitterに1通のDMが届いた。フォロワーの少ない自分のアカウントにDMが来ることなんてまずなかったから驚いた。内容は「旅をしながら生計を立てる方法、旅と共にできる仕事」に関するイベントの告知だった。
「おお、まさにこれや!旅をしながら仕事ができるをずっと探してたんや。これは是非とも参加しよう」と思い当日を待った。
実際に参加してみて、その中で言われた一言が全身に衝撃を走らせた。
「わらじは何足履いてもいい。一つに固執する必要はない」
それに続いて、
「月100万円を稼ぐ、と言われると最初はすごくハードルが高いように思われるけど、10万円の仕事を10種類できたらそれでも100万稼げるよね。だから1つの職で100万って考える必要はないよね」
「自分は月100万以上は稼がないようにしている。例え大きな仕事が入ってプラス50万入ることが約束されていたとしても。自分の「人生でやりたいことリスト」を実現させるには月に100万あればいいから。お金を稼ぐことに時間を取られて、やりたいことができなかったらなんのために稼いでいるのかわからなくなるからね」
イベント終了後、もう一度自分を振り返ってみた。すると、俺は今まで漠然とある程度のお金があればいいなと思っていたけど、お金と時間を天秤にかけて考えたことはなかった。
また、自分の好きなところを旅し続けるにはオンラインで仕事ができるようなスキルを自分で身に付けたら実現できるな、ということもようやく実感できた。
「春に行けなかったジョージアに行って好きなだけ住むにはこれしかない」と思い、オンラインで完結できるスキルを身につけてやる、と大海原に向かって決心した。
そしてつい最近、それまでは拒否反応を示すくらいに避けていたプログラミングを新たに勉強することにした。始める前は本当に俺ができるのか、どこかで必ず一回挫折してそのままやめてしまうやろうなと思っていた。
しかし、実際にやり始めてみると、それまでの偏見が嘘のように覆された。外国語の勉強ととても似ているから飲み込みが早く、それほど難しいと感じない。初めてフランス語を勉強し始めた頃の自分の姿が無意識のうちに蘇ってきた。
こんな感じで、今は1日の大半をプログラミングに当てており、ジョージアのフリーランスビザを取得して移住するという直近の一番やりたいことを叶えるために、毎日楽しく勉強している。
本当に一瞬の出来事だった。イベントに参加してからたくさんの草鞋を履くことを決め、プログラミングを勉強し始めるまで。
もうこれでうまくいかなかったら、もう俺はこの先ずっと親のすねをかじって生きていくことになるだろう。
これこそ俺の真の第2の人生の始まりである。
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