
「自分の口から食べる」という大きな楽しみ
【嚥下障害に早く気付きましょう。】
世界に誇れる日本食はもちろんのこと、国を問わない多国籍や無国籍料理がある。全てに於いて日本という国には、美味しい料理がたくさんありますよね。海外から帰国する度に、やっぱり日本で食べる料理が一番だ!と身にしみて思うのです。
人間の三大欲求のひとつ「食欲」が最大に満たされるには、単に空腹感がなくなればよいのではない。自分の口に食べ物を運び、しっかり飲み込めてこそ達成されることです。
戦後の日本で始まった給食制度の下、給食時間を過ごす児童たちは、みんな笑顔を見せている。喜んでいます。そんな当時の様子を写した写真を見たことがありますよね。
食事を摂るということは、うれしくて仕方ないのです。内戦下で支援を受けて食べ物を頬張っているこどもたちも、ほんの一瞬でも顔をほころばせている。何処となく安心したまなざしを見て取れます。
お陰様で私の親や親戚は、毎日箸やスプーンを使って、自分の口から食事を摂ることができています。
なので、誕生日や敬老の日などのプレゼントは、もっぱら食べたり飲んだりする食品です。なぜなら、結局人間は “食べる” ということが、生きていて一番の楽しみなのだと思っているからです。
話しは変わりますが、私は今までに一度だけ入院したことがあります。
頭頸部に外傷を負い、入院中の数日間は口から食べ物を取れませんでした。入院食が出されたのですが、一向に箸が進まなかった。健常人からすれば、味気ないものというイメージが強い献立でした。入院食を調理してくれた方々には失礼ですが、実際にその通りでした。
だけど自分の口から食べないと力が出ないと思い、出された入院食をしっかり平らげるようにした。
すると、からだの内から力が湧いてきて、身の周りのことをせっせとこなせるようになったのです。見る見る元気になったのをはっきりと憶えています。
誰もがいつまでも「食事を楽しむ」「食べ物を噛んで飲み込める」という食生活でありたい。
自分の口からしっかり飲み込んで食道に送るという動作、『摂食嚥下』を維持し続けたいものです。
そもそも摂食嚥下は複雑で巧みなステップで構成されています。
認知期;目の前にある食べ物を認識する。
➡「おッと。」捕食;口に食べ物を入れる。
➡「パクッと。」準備期;あご,歯,舌を使って食塊を形成する。
➡「モグモグッと。」口腔期;食塊をのどの奥に送る。
➡「ウッと。」咽頭期;嚥下反射で気道が塞がって、食道に食塊が送り込まれる。
➡「ゴックンと。」食道期;飲み込まれた食塊が、食道壁の運動によって胃に送られる。
➡「スーッと。」
各段階で何らかの不具合が起きると「摂食嚥下障害」になってしまいます。今回は摂食嚥下で最も重要な咽頭期についてお話ししたいと思います。「咽頭期」に問題があるかないかは、単純にいえば「しっかりゴックンできるか?できないか?」です。
咽頭期の障害が疑われる症状は・・・、
飲み込む際にむせる。
咳が出たり、痰が絡みやすい。
食後に声が擦れてしまう。
食べこぼしがある 等
その原因も色々あります。
他の病気(脳卒中など)そのものの影響
他の病気の治療法(化学療法など)や服用している薬の影響(副作用)
加齢に伴う機能の低下 等
自分自身、なかなか摂食嚥下障害の早期発見が難しいように思えるのです。
なぜなら、「むせる」という反射が起きない不顕性誤嚥や無症候性誤嚥があると言われているからです。
そこでご家庭でも行える「反復唾液嚥下テスト RSST(Repetitive Saliva Swallowing Testing)」を試してみるのは如何でしょうか?
このテストは30秒間につばを何回飲み込めるかを測るというものです。のど仏とあごの下(舌骨部分)に指を当ててみると、「ゴックン」と飲み込む際に上に移動したあとに元の位置に戻るのを確認できます。この上下動が30秒間で3回以上できれば正常です。
このテストを行うと、分泌される唾液の量が少ない「ドライマウス」の評価にもなります。そうすると食塊を作る「準備期」に問題がありそうだと分かるかも知れませんね。
厚生労働省の2006年までの調査で死因の第4位だった肺炎は、遅くても2011年からは第3位になりました。そして肺炎で入院している患者さんの内、誤嚥性肺炎の占める割合は、50歳代から増え始めて80歳代では80%を超えています。(Teramoto S,Fukuchi Y,Sasaki H,et al JAGS 56,577-579 2008)
誤嚥性肺炎の原因にもなる摂食嚥下障害。毎年お正月を迎えると、お餅を食べる機会が増え、のどに詰まらせる事故が報道されます。ご高齢の方々は、お餅に限らず無理することなく、十分気を付けて下さいね。
【参考】 藤島 一郎著 嚥下障害のことがよくわかる本