能力がある人が、長く働けるわけではない
退職の理由って、ほんとさまざまです。私の働いていた会社でも、いろんな事情で退職する人を見送りました。
退職理由って、表向きはだいたい“新しいことにチャレンジしたいから”というものです。これなら本人は前向きな姿勢で去ることができ(プライドもあるかもしれません。)、送り出す側も激励を込めて送り出せる、両者にとって円満にことが進むわけです。
でも、実情は全く異なります。退職者の本音を聞く機会が何度かありましたが、長時間労働に嫌気がさしたり、体育会的な上下関係に辟易したりと、実際はネガティブな要因がほとんどです。
それなりの倍率の採用選考を通過してきた人材なので、能力的についていけないから退職するというケースはこれまでほとんど聞いたことがありません。それよりも、労働時間だとか、働き方だとか、“業務遂行の前提条件”でのミスマッチが圧倒的に多い。
これって、労使双方にとって、かなりもったいない。なぜなら、働き方の条件が合わないってだけで、能力的に優秀な社員でも退職という誰も望まない状況になってしまうから。
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長時間労働とか、転勤させ放題だとかいう典型的な日本企業において、ずっと働き続けられる人の条件って、能力ではなくて、
・家族を犠牲にしてでも、仕事に時間を捧げる会社への忠誠心
・単身赴任や家事・育児を一手に引き受けることに理解のある配偶者
(社内結婚で、その会社の内情が理解できているなど)
退職する人たちをみると、こんなことが条件になっていると感じます。
一方で、たとえ能力が低くても、会社への忠誠心(いかなる長時間労働・転勤命令にも耐える覚悟)さえあれば、多くの日本企業は能力に応じた部署転換を検討してくれます(良心的なのか?)。
個々人の考え方がますます多様化する時代に、こんな条件をもった人だけが働き続けられるのは、お互いにとってデメリットでしかありません。
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働く側の本音でいえば、下記のようなニーズに沿った働き方が許容されると、より幸せな仕事生活が送れるし、優秀な人が退職するという事態も防げるでしょう。
[独身期]
仕事を覚えて、早く成長したいので、残業は問題ない
ただ、プライベートも充実させたいので、上司との酒の付き合いや、休日のゴルフなどのイベントの参加は勘弁してほしい
[子育て期]
子育てに専念したいため、(男女問わず)短時間勤務や残業なしの勤務形態にしてほしい
当然、夜の飲み会も控えたい
[子ども進学期]
子どもの学費を稼ぎたいので、残業も厭わない
[子ども独立期]
夜間・休日の大学院で新しいことを学びたいので、週4日勤務など、仕事のペースを落としていきたい
こんな働く人それぞれの働き方やそれに伴う報酬体系を、毎年度末の上司との面談で確認し、翌年度の働き方に反映させていくというやり方もありではないでしょうか。
そしてポイントは、業務量から社員の働き方(労働時間)が決められるのではなく、“社員の希望する働き方(総労働時間)を先に規定して、それに沿う形で業務量を決定する(工夫して調整する)こと”です。
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日本の農業における面積あたりの生産性は、世界に比べて突出して高いといいます。なぜなら、国土が狭い分、その中でいかに多くの農作物をつくるかという試行錯誤をしてきたから。国土が狭いという制約があったからこそ、はじめて人は工夫することができた。
企業における社員の働き方も同じで、一人一人が希望する働き方という制約を前提に、組織の運営方針を決める。そこで初めて、条件におさめるために、いらない業務を止めるとか、効率化するといった工夫を真剣に考えるようになる。
なので、高度プロフェッショナルとか裁量労働制とかいうような、“企業が労働者の労働時間に制限がある”ということを意識しづらい制度については、宗一郎は反対です。
正社員の時間は無尽蔵に使えるという企業の意識から変える必要があるんじゃないかと思います。
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