未完小説
ep.1
通知表にはいつも必ず、もう少し周りの人に興味関心を持ち、積極性を持ちましょうと書かれていた。そのことを大人になった今でも忘れていないのは、それは当時の先生が僕をよく見抜いていたという訳ではなくて、まるでトンチンカンな指摘だったから嫌でも記憶に残っている、ただそれだけだった。
僕は無害な人間ではないし、いつもにこやかに挨拶は出来ない。けれど、家族や少しの友人、それらの人には幸せになってほしいと無条件に思っていた。
それを冷淡だと言う先生がいるのなら、きっとその通りなんだろう。
けど少し思ったんだ。僕は僕の好きな人にあったかい所で眠ってほしいと思う。美味しいものを食べて、天気の良い休日には友人と談笑する。それが僕にとっての幸せだけど、彼らみんながそうなのだろうかと時々考える。
僕の想像は、あくまで想像を過ぎなくて、その範疇を出ることはない。そして、ときにその善意や好意が僕の好きな誰かにとって刃物になる可能性だって十二分にあるわけだ。多様性なんて都合の良い言葉で括られてしまったものだ。
だから僕はただ黙って干渉せず、自分の身の回りを整える。毎日シャワーを浴びる。シャツにはアイロンをかけて、毎朝新聞を一部とる。聞こえるか聞こえないかくらいの挨拶を隣人とすれ違ったときには交わし、そして良いことがあった日はステーキを食べる。
それが僕の正しくて健康的な生活だ。
そう言ったら、チョークで粉ぽくなった手を俺のつむじにのせたあの人は笑ってくれないかな。