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未完小説 「光が暴力になり得ることを僕はあまり理解していませんでした」
-プロローグ-
僕の兄は写真を撮ることが好きでした。
逆を言えば、写真を撮ることしか出来ませんでした。自作の暗室に籠り、光を当ててはいけないフィルムをとても大切にしていました。
兄が家から出られなくなったきっかけを僕は知らずじまいだったけど、彼にとってあのフィルムだけが外と自分を繋ぐ唯一の架け橋だったのだと思います。
兄は部屋の窓から少しだけカーテンを開け、外の写真を撮っていました。兄にとって暗室が唯一の安らぎだったのだと思います。ただ幼かった僕は暗室が兄と社会を隔てていると感じたし、何でもいいから光が必要だと思いました。その暗闇から兄を引き摺り出したかったのです。
それが兄に向けての最大の暴力となることを僕は想像できないくらい幼稚で馬鹿な人間でした。