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起業教育は本当に効果があるのか?— 3,775人の卒業生を追跡した研究から見えるもの

私の課題意識:起業家教育は可能なのか

結論、可能であると、以下で言及する論文が示しています。論文の原文はこちらからダウンロードできます。

どのような教育が起業家を増やすのか

起業家精神を育む教育は、学生たちのキャリアに長期的な影響を与えるのでしょうか?

Babson Collegeの研究チームが、1985年から2009年に卒業した3,775人の卒業生を対象に、大規模な調査を行いました。

研究の背景と目的

過去の研究では、起業教育の効果に関する方法論的な問題が指摘されてきました。特に、起業志向の高い学生が自主的に起業コースを選択することで、結果にバイアスが生じる可能性があります。本研究では、このような自己選択バイアスを考慮し、起業教育が学生の起業意欲や実際の起業行動にどのような影響を与えるのかを明らかにすることを目指しました。

主要な起業選択科目の具体的な内容

Babson Collegeでは、起業プロセス全体を網羅する複数の主要な起業選択科目が提供されています。以下は、論文で記載されているコースと同等と考えられる現在のコースです。

  1. EPS3501: Entrepreneurship and Opportunity(起業と機会)
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    1. このコースでは、起業の基本概念から新規ビジネスの立ち上げまでを学びます。学生はビジネスアイデアの評価、市場分析、ビジネスモデルの構築方法を習得します。

  2. EPS4520: Financing and Valuing Entrepreneurial Ventures(起業ベンチャーの資金調達と評価)
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    1. このコースでは、起業に必要な資金調達の戦略や方法を学びます。エンジェル投資家やベンチャーキャピタルとの交渉、財務計画の策定など、財務面での実践的なスキルを身につけます。

  3. EPS4515: Managing Growing Businesses(成長企業の経営)
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    1. このコースでは、ビジネスの成長段階で直面する課題や戦略を学びます。組織運営、人材管理、事業拡大、リスクマネジメントなど、成長企業の経営者として必要な知識を深めます。

これらのコースは、起業家精神を育成するための包括的なカリキュラムとして設計されています。詳細はBabson Collegeの公式ウェブサイトで確認できます。

自己選択バイアスと対照群の設定について

研究では、以下の方法で自己選択バイアスを最小限に抑えています。

  • 統制変数の設定: 入学前の起業志向や起業経験、親の起業家経験などを統制変数として組み込みました。

  • コントロールグループの設定: 起業コースを履修していない学生(全体の約37%)を対照群として設定し、比較分析を行いました。

これにより、起業コースの履修が起業意欲や行動に与える純粋な影響を測定しました。

主な発見

  1. 複数の起業コースの履修効果
    入学前の起業志向を考慮しても、2つ以上の起業選択科目を履修した学生は、卒業時だけでなく長期的にも起業意欲が高まり、実際に起業家になる可能性が高いことが明らかになりました。

  2. ビジネスプラン作成の影響
    学生時代にビジネスプランを作成したことも、起業意欲と卒業直後の起業行動に有意な影響を持つことが確認されました。ただし、その効果は複数の起業コースを履修することに比べてやや弱いものでした。

研究の意義

この研究は、自己選択バイアスや対照群の欠如といった過去の研究が抱える問題を克服し、起業教育の効果をより正確に評価しています。大規模なサンプルと長期間のデータを用いて、起業教育が持つ持続的な影響を明らかにしました。

教育者や政策立案者への示唆

研究結果は、起業教育が学生のキャリア形成において重要な役割を果たすことを示しています。教育プログラムの設計者や政策立案者は、学生の多様な背景や入学時の起業志向を考慮しつつ、より効果的な起業教育のカリキュラム開発や支援策を検討する必要があります。

まとめ

起業教育は、学生の起業意欲を喚起し、実際の起業行動につなげる力を持っています。本研究は、自己選択バイアスを考慮した上でも、複数の起業コースを履修することが有意な効果を持つことを示しました。これからの教育現場では、包括的でバイアスを最小限に抑えたアプローチが求められるでしょう。

注意:縦断研究と横断研究について

このバブソン大学の研究は、他の起業教育に関わる横断研究と異なり、長期間にわたる縦断研究であることが特徴的です。牧野先生のこちらの書類に上記のバブソン大学の縦断研究の偉大さが言及されています。

1. 縦断研究(Longitudinal Study)

縦断研究では、同じ対象者や集団を長期間にわたって複数回追跡してデータを収集します。つまり、時間の経過に伴う変化や発展を観察するために、同じ個体を複数の時点で調査します。

  • 特徴:

    • 長期間にわたるデータ収集(数ヶ月~数十年)

    • 同じ対象者を複数回測定

    • 時間の経過による変化や傾向、因果関係を検討可能

    • 例: 子供の成長過程を10年間追跡する調査、ある薬の長期的な効果を観察する臨床試験

  • メリット:

    • 時間を通じて因果関係や変化を直接確認できる

    • 個人差や集団内の変化を詳細に分析可能

  • デメリット:

    • 時間とコストがかかる

    • 長期間にわたるため、対象者の脱落リスクがある

2. 横断研究(Cross-Sectional Study)

横断研究では、ある時点において異なる個体や集団からデータを一度だけ収集します。時間の経過による変化を観察するのではなく、その時点での状態や相関を調べることが目的です。

  • 特徴:

    • 1回のデータ収集

    • 異なる対象者のグループを同時に調査

    • 時間的変化ではなく、特定の時点での状態を把握

  • メリット:

    • 短期間で実施可能で、コストが比較的低い

    • 調査対象者の脱落リスクが少ない

  • デメリット:

    • 時間的変化や因果関係の検証が難しい

    • 一時点のスナップショットのため、長期的な影響を把握できない

まとめ

  • 縦断研究は、同じ対象者を長期間にわたって追跡し、時間的な変化や因果関係を調べる研究方法です。

  • 横断研究は、ある時点で異なる対象者やグループのデータを一度だけ収集し、相関関係や状態を調査します。

それぞれの方法は研究の目的によって使い分けられます。時間的変化を把握したい場合は縦断研究が適し、迅速に現状を把握したい場合は横断研究が適しています。

—この記事は、Babson Collegeの研究「DOES AN ENTREPRENEURSHIP EDUCATION HAVE LASTING VALUE?」を元にまとめました。

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