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8分で読める!3600文字のまとめ:内田和成氏の著書「リーダーの戦い方 最強の経営者は「自分解」で勝負する」
内田和成氏の著書「リーダーの戦い方 最強の経営者は「自分解」で勝負する」を読み、その中で展開されているリーダーシップについて、具体的な事例や固有名詞を交えながら考察していきたいと思います。
戦時と平時のリーダーシップ
内田氏は、不確実性の高い現代のビジネス環境を「戦時」に例え、そこで求められるリーダーシップについて論じています。
「戦時」のリーダーには、先見性、意思決定力、実行力が不可欠であり、自らの型を作り上げることが重要だと指摘しています。
具体的な事例として、ファーストリテイリングの柳井正氏、ソフトバンクの孫正義氏、楽天の三木谷浩史氏などが挙げられています。
彼らに共通しているのは、強いビジョンを持ち、素早い意思決定と実行力、組織を導く高いコミュニケーション能力です。柳井氏は「世界No.1のアパレル製造小売業になる」というビジョンを掲げ、グローバル展開を推し進めてきました。
孫氏は「情報革命で人々を幸せに」という理念の下、次々と新しい事業に挑戦し続けています。
三木谷氏は「楽天経済圏」というコンセプトを打ち出し、EC事業を中心に多角的な事業展開を行っています。
平時のリーダーについては、「現在の変化が激しい時代において、平時のリーダーは、リーダーとは言わずに、現状を維持改善するマネジャーだろう」とも、私への講義で述べました。
虎と靴紐
また、内田氏は「虎と靴紐の寓話」を用いて、リーダーに求められる3つの要素として、「人より早く気づく」「意思決定」「行動」を挙げています。
「虎と靴紐の寓話」は、リーダーに求められる3つの要素を説明するために内田氏が用いた例え話です。
ある日、ジャングルを歩いていた男性が、突然目の前に虎が現れたのを目撃します。虎は男性に向かって猛スピードで突進してきました。男性は必死で逃げ出しますが、虎との距離はどんどん縮まっていきます。絶体絶命のピンチに陥った時、男性は靴紐が解けていることに気づきます。
この時、男性には3つの選択肢があります。
このまま走り続ける
立ち止まって靴紐を結ぶ
靴を脱ぎ捨てて裸足で逃げる
内田氏はこの寓話を用いて、リーダーには次の3つの要素が必要不可欠だと説いています。
人より早く気づく(先見性):危機的状況を他者より早く察知する
意思決定(決断力):限られた時間の中で最善の選択を下す
行動(実行力):迅速かつ果断に行動に移す
虎が迫ってくる緊迫した状況の中で、男性は瞬時に状況を判断し、最善の行動を取らなければなりません。
これは、不確実性の高い経営環境の中でリーダーが置かれる状況に似ています。変化の兆しを素早く読み取り、果断な意思決定を下し、迅速に行動する。
そうした先見性、決断力、実行力こそが、リーダーに求められる資質だというのが内田氏の主張なのです。
この寓話は、リーダーシップの本質を端的に表現した、示唆に富む例え話だと言えるでしょう。
アップルの故スティーブ・ジョブズ氏は、スマートフォン市場の将来性を早くから見抜き、iPhoneを開発しました。
任天堂の宮本茂氏は、ゲーム業界の常識を覆すWiiを発売し、大ヒットを生み出しました。
彼らは、時代の変化を先取りし、果断な意思決定と行動力で新たな市場を切り拓いたのです。
「ゴッドファーザー」と「チャンピオン」
さらに、内田氏は「ゴッドファーザー」と「チャンピオン」という2つのリーダータイプを提示しています。
「ゴッドファーザー」は経営者として組織を後見する存在であり、「チャンピオン」は創造者・提唱者として変革を推進する存在です。
どちらも重要です。
ホンダの本田宗一郎氏は「ゴッドファーザー」として、技術者の松下幸之助氏は「チャンピオン」として、それぞれの役割を果たしました。
イノベーションを起こすには、この2つのタイプが両輪となって機能することが重要だと内田氏は指摘しています。
リーダーシップとは「生き様」そのものであり「結果が全て」
内田氏はまた、リーダーシップとは結局のところ「生き様」そのものであり、「結果が全て」であると述べています。
リーダーたる者、学び続け、挑戦を続けることが大切であり、運やツキも大事にしつつ、
単なる運を天に任せるギャンブラーではなく、
幸運を手繰り寄せる努力を惜しまない勝負師となることを目指すべきだと説いています。
内田氏の著書から浮かび上がってくるのは、変化の時代を勝ち抜くリーダー像です。
先見性、意思決定力、実行力を兼ね備え、ビジョンを描き、組織を巻き込んでいく。そして、何より自らの生き様でリーダーシップを体現する。
そうした資質を備えたリーダーが、不確実性の高い現代のビジネス環境を乗り越えていくのです。
内田氏の思想は、現代のリーダーたちに多くの示唆を与えてくれる、まさに羅針盤と言えるでしょう。
「チャーム」と「徳」
私が、内田氏から受けたリーダーシップの講義では、先見性、意思決定力、実行力といったリーダーに不可欠な資質に加えて、「チャーム」と「徳」の重要性についても言及されていました。
「チャーム」とは
人を引きつける魅力、人望のことです。
内田氏は、リーダーには部下や周囲の人々を惹きつける魅力が必要不可欠だと説いています。
単に能力や実績だけでなく、人間的な魅力によって人々の心を掴み、組織を導いていく力が求められるのです。
具体的な例として、内田氏は松下幸之助氏を挙げています。松下氏は、卓越した経営手腕だけでなく、豊かな人間性と慈愛に満ちた人柄で知られていました。
部下や取引先から深く信頼され、慕われる存在だったのです。
また、ソニーの盛田昭夫氏も、鋭い洞察力と行動力に加えて、人を引きつける魅力を兼ね備えていました。
彼の情熱とビジョンは多くの人々を惹きつけ、ソニーの発展を支えたと言えるでしょう。
内田氏は、講義の中で、このように言っていました。
「チャームは、天性の才能です。チャーミングさを鍛えることは難しいです。チャーミングさを鍛えるのは、ほぼ無理なので、チャーミングさが無いリーダーは、徳を積みなさい」
「徳」とは
人格的な優れた資質、道徳的な力のことを指します。
内田氏は、リーダーには高い倫理観と道徳心が必要であると説いています。ビジネスにおいては利益追求が重要ですが、それ以上に大切なのは、正しいことを正しいとする価値判断の基準だと内田氏は指摘します。
この点について、内田氏は稲盛和夫氏を例に挙げています。
稲盛氏は「敬天愛人」という経営理念を掲げ、利他の心を大切にしながらグローバルな事業を展開してきました。倫理観とCSR(企業の社会的責任)を重視し、社会への貢献を常に意識してきたのです。
彼の生き様そのものがリーダーシップと言えるでしょう。
また、日本電産の永守重信氏も、「人間性の経営」を標榜し、社員の幸福と社会への貢献を重視してきました。
利益だけでなく、社員と社会に対する責任を果たすことこそが、真のリーダーの条件だと永守氏は考えているのです。
「charm」と「character」
内田氏はさらに、「charm」と「character」の違いについても言及しています。「charm」が表面的な魅力であるのに対し、「character」は内面から発せられる人格的な力だと説明しています。
リーダーには、「charm」だけでなく「character」が求められる。外見や口先の魅力ではなく、内面から滲み出る誠実さ、真摯さ、人間性こそが、人々を動かす真の力になるのです。
この点で、内田氏はホンダの本田宗一郎氏を引き合いに出しています。本田氏は、技術者としての優れた能力だけでなく、不屈の精神力と倫理観を兼ね備えた人物でした。
「三つの喜び」(買う喜び、売る喜び、創る喜び)という理念を掲げ、社会への貢献を重視したのです。
本田氏の「character」は、社員や取引先の心を打ち、ホンダの発展を支える原動力となりました。
真のリーダーシップとは人間性から発せられる
内田氏の思想からは、真のリーダーシップとは単なる能力や手腕ではなく、人間性そのものから発せられるものだというメッセージが読み取れます。
先見性、意思決定力、実行力といった資質に加えて、人を引きつける「チャーム」と高い倫理観である「徳」を兼ね備えることこそが、不確実な時代を勝ち抜くリーダーの条件なのです。
内田氏が提示するリーダー像は、まさに現代のビジネスリーダーに求められる理想像と言えるでしょう。
能力だけでなく人間性を磨き、「charm」と「character」を兼ね備える。
そうしたリーダーが組織を導き、社会に貢献していく。
内田氏の思想は、これからのリーダーたちに大きな指針を与えてくれるに違いありません。
時代が大きく変化する中で、リーダーシップのあり方も問い直されています。
内田氏の著書は、そうした問いに対する1つの答えを提示してくれる、まさに現代のリーダーたちに贈る羅針盤と言えるでしょう。
先人たちの生き様に学びながら、自らの「チャーム」と「徳」を磨いていく。
そうした努力を積み重ねることこそが、真のリーダーへの道なのかもしれません。