クアダール①



クアダールには夢の中で出会った。クアダールは悪魔だ。いや、自称悪魔だ。現実でも会えると言っていたけれど、夢の中でしか会ったことはない。夢の中、小学校の屋上で月を眺めていた。中学生になって9ヶ月も経っているのに、なぜ小学校の屋上にいたのかはわからない。

夢とは、覚醒時の記憶、つまり現実での活動を整理している、とテレビか何かで見たことがある。その日は、「隣の中学の女子学生が自殺した」という話を母から聞いた。近所に住んでいた女の子だったが、僕は全く面識がなかった。同じ小学校だったらしいが、学年は2つ上で、委員会やクラブでも同じになった記憶はない。そんな人がいたことすら知らない。近所の自宅マンションから飛び降りたらしい。
そんな話を聞いて、正直なんとも思わなかったし、何かしら思っていたのだとしても、それは言語にも意識にもなる前に流れていった。


その日以降、クアダールは偶に夢に出てくるようになった。


初めてあった夢での会話はこうだ。

「飛び降りないのですか?」
とクアダールが言うから
「飛び降りないよ」
と返した。そしたら
「なぜでしょう?」
と言うから
「理由がないから」
と返した。その後
「飛び降りない理由もないでしょう?」
と言われて、少し考えて僕は飛び降りた。
そのまま地面に激突すると思って衝撃に身構えた。地面にぶつかることはなく直前に目を覚ました。地面に衝突する瞬間はものすごく焦って、目が覚めたらイヤな汗をかいていた。夢だったのかと少し落ち着いて、別に何も気にしなかった。変な夢だなと思っただけだった。

その日は学校に遅刻した。






ニュースで流れているのは、いじめの話。西の方の学校でいじめが原因で自殺したけれど、オトナの都合で揉み消されたらしい。

その日の夢にもクアダールは出てきた。夢の中、僕は「何者か」に追われていた。クアダールとの会話はこうだ。

「ここはもう行き止まりです」
とクアダールが言う。どこかの地下室にいた。僕は返事をしない。何かを言う余裕もなかった。

「それでは始めましょうか」
と言いながら何か薬のようなものを渡された。
「これは何?」
と尋ねたら
「それを飲めば生まれ変われます、それを飲んで逃げましょう」
と言われた。不満に思った僕は
「何に生まれ変われば逃げ切れるの?」
と尋ねた。そしたらクアダールは少し怒って
「目的は逃げ切ることではなく、今この場を逃げることです」と言われた。「何者か」がすぐそこまで来ていて、どうしようもなく薬のようなものを飲んだ。すると体の自由がなくなって、意識はあるのにそのまま後ろに倒れていった。目が見えているのに首は動かない。瞼を動かすことさえできない。何もできない。そのまま硬いコンクリートの地面に背中から倒れていった。体に激痛が走った。生きている。横たわった肉体に僕の意識は取り残されている。「何者か」が部屋に入ってきた。何かを言っている。言語すらよくわからない。そのままスーッと意識が遠退く、視界が暗くなった。何も見えないし聞こえない。体にある痛みの感覚は残っていた。直感的にヤバイと感じた。僕が飲んだアレはなんなんだ。そう思って焦り、起きなくちゃと思った。

それと同時に夢から醒めた。僕は目が覚めているのに、体を動かすことができなかった。所謂、金縛りにあっていた。生まれて初めての経験だった。何もできずにボーっと天井を眺めていると、体の痛みが引いてきて自由に動かせるようになった。

その日も学校に遅刻した。

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