SaaSの比較サイト「ボクシル」のマーケ責任者が語る、日本のSaaSの未来予測|スマートキャンプ株式会社 佐々木皇太さん
こんにちは、慶應義塾大学商学部4年の堀口と岡田です。今回は、SaaSの比較サイト「BOXIL(ボクシル)」を運営する、スマートキャンプ株式会社の佐々木皇太(ささきこうた)さんにインタビューを行いました!佐々木さんの就職活動の話や、スマートキャンプのミッションや事業に関して、またSaaSの今後の予測など多岐にわたる内容をインタビューしたので、ぜひご覧ください!
2016年に早稲田大学法学部卒。同年、新卒でアドテクノロジーのベンチャーに入社し、2年間SaaSの新規事業の立ち上げを経験。2018年スマートキャンプ株式会社に入社し、SaaSの比較サイト「ボクシル」のマーケティング責任者を務める。
SaaSとともに自分の成長を求めベンチャーでの挑戦
ーーまずは簡単な自己紹介と新卒時の就職活動のお話をお願いします!
スマートキャンプ株式会社で、SaaS比較サイト「BOXIL(ボクシル)」のマーケティング責任者をやっている佐々木と申します。
新卒では、アドテクノロジーのベンチャー企業に入社して、2年弱SaaSの新規事業の立ち上げを行いました。「仕事に対してやりがいを求められる環境」という前提があった上で、その会社に新卒で入社した理由は、大きく二つあります。
一つ目は、伸びているベンチャーで上場を目指していたからです。成長率が高い企業が選出される、「デロイト トウシュ トーマツ リミテッド 日本テクノロジー Fast 50」という有限責任監査法人トーマツが発表する賞に、2年連続でトップランキングになっていたんですよね。会社が上場を目指して成長している分、成果を残せば新卒の若手でも打席に立つ機会がありそうだなと思いました。
二つ目は、新卒から新規事業の立ち上げに参画できたからです。内定した段階で、これからSaaSの新規事業を立ち上げるという話がありました。当時の上司から「佐々木くん根性ありそうだから、立ち上げに参画して、全部やってきてよ。」というお話をいただき、1年目から事業の立ち上げに参画するチャンスは、なかなかないだろうなと思い、この会社でチャレンジしようと決めました。
ーースマートキャンプに転職された理由を教えてください。
自分の経験を活かせる会社で新たなチャレンジをしたいと考えたからです。2年弱、新卒で入った会社で新規事業の立ち上げをやって、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセス、展示会のマーケティング、Facebookの広告運用などを一通り経験しました。また、当時のSaaS事業の領域は、マーケターが使うMAツール※1でした。
なので、自分が持っているマーケやSaaSの知見やノウハウを活かせる企業がいいなと思っていたんですよね。それを一番活かせるのが、スマートキャンプでした。スマートキャンプは、BtoBtoBの事業で、かつ扱う領域がSaaSでした。事業成長のためにはマーケティングが不可欠だったのですが、当時マーケの組織がなかったんです。最新のSaaSを活用して事業自体を伸ばすって部分と、ボクシルがSaaSの比較サイトなので、そもそもSaaSに詳しいという部分があって、今までやってきたことを一番活かせる環境だなと思っていました。
また、その当時、組織内の全体の仕組みづくりをできるキャリアを歩みたいという思いがあったので、他のベンチャー企業にPM(プロダクトマネージャー)での内定をもらっていたものの、自分がやってきたことを一番活かすことができるのはスマートキャンプだなと思い入社を決めました。面白そうだなだと思って入社したら、実際、今の仕事はめちゃめちゃ面白いし、やりがいがあります。
※1 MA
マーケティングオートメーションの略。マーケティングオートメーション(Marketing Automation/MA)は、マーケティングや営業などの現場におけるルーティンワーク、特に手間と費用がかかってしまう業務を自動化し、効率を高めるための仕組みやソフトウェアのことです。
引用:営業ラボ
「組織の規模や人数に比例せずとも、大きな事業を成せる」ことを証明するために
ーースマートキャンプさんは、「Small Company, Big Business」というビジョンや、「テクノロジーで社会の非効率を無くす」というミッションを掲げていらっしゃると思います。ここに込められた想いを教えてください。
そしたら、ビジョンとミッションの話をする前に、「スマートキャンプ」という社名の由来の話をしましょう。野営でやるキャンプっていろいろな人が集まってテントを張ったり、料理を作ったり、協力して1つの目標を果たしますよね。そこから、バッククグラウンドもキャリアも違うメンバーが1つになって同じ目標に向かって進んでいって欲しいという思いを込め、社名に「キャンプ」を入れたそうです。
ここからは僕個人の解釈なんですが、歴史を振り返ると、一番最初の株式会社は東インド会社と言われています。当時の会社は、1個のプロジェクトに対して人やお金が集まって、プロジェクトのゴールを達成したら解散していたそうです。一個のプロジェクトに対して、それを成し遂げたい人が、それぞれの想いを持って集まっていた。
近年は「個の時代」と言われたりしていますが、その当時と同じように、多様なバックグランドを持ち、異なった価値観を持つメンバーが、一つになって同じビジョンに進んでいきたい。実際にそんな思いをもったメンバーが集まっているんじゃないかなと思います。
ーー「Small Company, Big Business」というビジョンは、どのような想いを込められているんですか?
「組織の規模や人数に比例せずとも、大きな事業を成せる」ことをスマートキャンプという会社を通じて社会に証明したい。このビジョンには、そんな想いを込めています。
2015年の日本の生産年齢人口は約7700万人と言われていて、2056年になると5000万人を下回ると言われています。その時に、会社は存在しても、従業員数が減っていくことは不可避です。必ずしもこれまでの大企業のように、大量に人を雇用して大規模な事業を行うことができるわけではなくなってくると思うんです。
これからの日本社会では、一人一人の労働生産性を上げることによって、大きい事業をやる必要があります。その先駆者として、組織の人数や規模は、やっている事業の規模に比例しないことを、スマートキャンプという会社を通じて証明したいんです。
そして、一人当たりの生産性を上げる手段として必要なのが、ミッションに入れている「テクノロジー」です。社内のコミュニケーションにおいて、前時代的にメールを使うよりも、SlackやChatworkを使う方が明らかに生産性が上がるじゃないですか。ボクシルではSaaSというテクノロジーの魅力を世の中に広め、社会の非効率をなくしていきたいです。
引用:「スマートキャンプ株式会社『SaaS業界レポート2018』」
総務省「平成28年通信利用動向調査」によれば、クラウドサービスを利用している企業は、利用していない企業に比べて労働生産性が約30%も高いと言われており、クラウドサービスを利用することで生産性向上を実現できます。
ーースマートキャンプさんが運営している事業に関して教えてください。
まず、売上の一番多くを占める事業が、SaaS比較サイトの「ボクシル」です。これは掲載企業の資料請求を通して、見込み顧客を創出するサービスです。つまり、SaaSの導入を検討している人と、SaaSを作っている企業を仲介するものです。私はこの事業のマーケを担当しています。
次に、インサイドセールス支援サービスの「ベイルズ」です。これは、ボクシルを運営する中で、生まれた顧客の課題から作られた事業です。元々、認知も少なかった顧客のプロダクトが、ボクシルに載せたことにより、月にたくさんのお問い合わせが来るという事象が生まれたんです。お問い合わせが増えること自体はポジティブなお声をたくさんいただきつつ、一方で効率よくお問い合わせを捌いて売上につなげていく体制を構築したいというニーズも生まれてきました。その結果、インサイドセールスを代行するサービスであるベイルズが生まれました。最初は、ボクシルで発生したお問い合わせに対して、弊社のオペレーターさんが架電をし、アポイントを取るものでした。今は、ボクシルに限らず、全てのインサイドセールスの代行をするサービスとなっており、2019年2月にコールセンター機能を併せ持つ北海道オフィスをオープンしました。お客さんは、企業規模や業界を問わず、SaaS企業ではSalesforceやUniposさんをはじめ、SaaS以外の会社含む累計150社以上の企業様に導入いただいています。
最後に、インサイドセールス特化型のCRM※2「ビスケット」です。これもベイルズを運営していく中で、組織の構築を社内でやりたいというニーズが多くあるという発見から生まれたサービスです。当社の中では初のSaaSプロダクトです。
※2 CRM
Customer Relationship Management(カスタマーリレーションシップマネージメント)の略語で、「顧客関係管理」や「顧客管理」などと訳されます。その言葉通り、顧客と良好な関係を構築することを目的とした営業マネジメント手法です。
引用:営業ラボ
ーーCRMはレッドオーシャンというイメージがあるのですが、なぜこの市場に参入しようと決めたんですか?
確かにプレイヤーの数は多いと思います。ただ、既存のCRMのプレーヤーとは戦おうと思っていないから参入を決めました。今のCRM市場では多機能型のツールが多くみられます。一方で、ビスケットが目指しているところはインサイドセールス「特化型」のCRMです。
多機能型でなんでもできるというのは一見聞こえがいいんですが、インサイドセールス、フィールドセールス、マーケの人がCRMを使っていますとなると、マーケの人が欲しい機能とインサイドセールスが欲しい機能が微妙に異なるんですよね。
1つのツールでたくさんのことができるのは素晴らしいことで、今後もいろいろなツールの機能拡充は進んでほしいと思っていますが、汎用的なツールが増えるとニッチなニーズも生まれやすくそこにビジネスチャンスがあると思っています。例えば「Salesforce AppExchange」というSalesforce内で動くアプリがあるんですが、海外では、Salesforceが汎用的なニーズをカバーしつつ、スタートアップがSalesforceと組んで業界特有のニーズを解決したりという動きが進んでいます。日本でも昨年アグレックスという会社が、Salesforceを利用した業界特化型テンプレートの「Incubate Block」というものを提供したりしています。
ーー近年のSaaSでは、ビスケットのようにニッチを攻めることがトレンドになっているんですか?
そうですね。プラットフォーマーになる企業とニッチを攻める企業の二極化が進んでいると思います。直近の大きい動きでいくと、SalesforceはTableau、GoogleもLookerというBIツール※3のシェアを大きく握っている会社を買収しました。ナンバーワンになったSaaSのプレーヤーは、CRMの領域だけでなく周辺領域の買収やM&Aをしながら手を広げている状況です。
もともとCRMを提供していたけれど、1個のプラットフォームとしてその中に色々なものがあるという感じです。Salesforceなど1つの領域でナンバーワンにになったSaaSのプレーヤーが周辺領域にも展開しプラットフォーマーになり、細かいニッチな部分をスタートアップが「戦う」ではなく「補っていく」という流れがあると思います。
※3 BIツール
BIツールとは「ビジネスインテリジェンスツール」の略で、企業に蓄積された大量のデータを集めて分析し、迅速な意思決定を助けるのためのツール
引用:データのじかん
ーーこれまでの佐々木さんのお話を聞いていて、現在スマートキャンプさんは、SaaSに大きく投資をしているように思いました。それは、企業規模に依存せずに、大きい事業を生み出すというビジョン。そのためには、一人当たりの生産性をあげる必要があり、その手段がテクノロジーであるというミッション。そして今、生産性をあげるのことに最も適しているのがSaaSである、だからこそSaaSに投資をしているというロジックですか?
その通りです。SaaSは手段でしかないです。究極オンプレミスでもいいと思っています。ただ全ての企業がオンプレミスを使うのは合理的ではないと思います。例えば、うちで勤怠管理システムが必要になり、ゼロから作るとします。要件定義から始まり、期間としては何ヵ月もかかり、それを作るのにたくさんの人が開発に関わります。さらに保守する人も必要になり、そこにも費用はかかります。けど、ほとんどの企業は勤怠管理システムに求める機能って一緒なんですよね。1社ごとに都度開発するよりも、誰でも使えるようなものを作って、それを「所有」ではなく「利用」することが、一つの企業だけを見ても、社会全体で見ても合理的だと思っています。
今後、働き方改革をしないといけない中で、特に中小企業は必要なIT化をするとなったら、すべてをオンプレミスで賄うという選択肢はないと思います。そもそも世の中のエンジニアの数も明らかに足りないですし。そうなった時に絶対にSaaSに行き着くんですよ。初期費用もかからず、月額数千円で導入できるプロダクトもあって、最初の導入のハードルは低いし、入れたら生産性はめちゃめちゃ向上するし。
実際に市場として伸びているってデータもあって、3年後には8000億円くらいの市場まで伸びると予想されています。伸びる市場に対して、投資をしない理由はないので、今はSaaSに賭けています。
日本発でグローバルで戦うSaaSになるために
ーー現在は、海外のSaaS企業が、日本に支社を作りプロダクトを展開していることが多く見受けられます。反対に、日本のSaaS企業がグローバルに展開する必要はあると思いますか?
あると思います。仰る通り、今のSaaSはMAツールを始め、アメリカで流行っていて、日本に持ってきましたというのが多い。Salesforceとかもそう。その後に、日本の中でも作るベンダーが出てくるという流れです。ただ、GAFAやSalesforceなど外資が入ってきても、日本での売上は本社がある国の利益となります。社会全体の利益という点で考えると、どの国の企業だろうが便利なサービスが生まれることは非常にポジティブなことだと思っています。一方で日本の経済成長という観点でみると、日本初のSaaSがグローバルでシェアをとり国際競争力を強めることは重要だと思います。
ーーそしたら、日本のSaaSが世界で通用することは可能だと思いますか?可能だとしたらどんな要素があれば、世界で戦うことができると思いますか?
まだ、現段階ではグローバルでシェアをとりきっている日本発のSaaSは出てきていない印象ですが、僕は可能だと思うし、むしろチャンスだと思っています。なぜなら、今の日本は課題先進国だからです。海外と比較しても、明らかに高齢化が進行していて、人口の25%が65歳以上。これは、悲観的になる必要ってなくて、海外諸国と比較しても日本が一番最初に超高齢社会に達しているというのは、他の諸国も今後ぶつかる課題に一番最初に直面しているということ。一番最初ってめちゃめちゃ強くて、事例があるわけでもないので、自分で考えて本気で解決しないといけないんですよ。
その背景もありつつ、日本初のSaaSがグローバルで通用する要素として必要なのは、「再現性」だと思います。プロダクトが解決する課題が、日本独自のもので、海外での再現性がないものでは、世界では受けれ入れられないと思います。今後高齢社会になっていく国の課題を解決するプロダクトであれば、今後他の諸国も直面する問題であるため、ニーズがあると思っています。
ーー最後の質問です。2018年は「SaaS元年」と言われ、市場が盛り上がりを見せ、今後もしばらくSaaSの伸びは続くかと思います。ボクシルでもソフトウェアのパッケージ化率とクラウド化率の比率の推移を拝見しました。このSaaSの盛り上がりは今後も続くのでしょうか。また、パッケージがなくなる未来はあるんでしょうか?
引用:「スマートキャンプ株式会社『SaaS業界レポート2018』」
まず、今後も伸びるかという問いに関しては、間違いなく伸びると思います。理由としては、日本の企業全体でみると、まだまだクラウドの導入が進んでない企業も多いからです。ファクトもあって、全社としてSaaSを利用している企業が33%。一部の部門だけでSaaSを利用している企業が26%。合わせると6割くらいです。そう考えると、日本に企業が400万社がある中で、まだ4割の企業はSaaSを全く使っていない。つまり、160万社がポテンシャルになるので、しばらく伸びは続いていくでしょう。だから市場規模が8000億円くらいに3年後になると思っています。
二つ目の問いの、「パッケージ(オンプレミス)がなくなる未来がくるか」ということに関しては、減るとは思いますが0 にはならないと思います。なぜなら、自社だけで持っておきたいデータがあるからです。
SaaSって不動産賃貸と同じで、「借りて利用する」というモデルになるので、システム自体の所有権が自社にあるわけではないので、データは外部にためておいたりするわけです。特にCookieデータとかがいい例かと思いますが。けれども、絶対に内部で持たないといけないデータって、特にメディアをやってたりすると何個かあって、データに対しての重要度が上がると、SaaSからオンプレにシフトする需要は一定の割合で出てくると思います。現在は、オンプレが落ち込んで、SaaSが伸びるという構図になっていますが、逆にSaaSが普及し始めると落ち込んだオンプレが伸びるという未来も考えられると僕は思っています。
インタビュー後記
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まずは、Twitterの投稿に反応してくださり、自身のお時間割いてご協力いただいた、佐々木さん本当にありがとうございます!佐々木さんの優しさのために、今回のインタビューを実施することができました!
SaaSに関してやスマートキャンプさんのお話はもちろんのこと、一見クールに見える佐々木さんのアツい想いを感じられたインタビューでした。日本のSaaS界を牽引する存在である、佐々木さんだからこそ、SaaSに関する多くの知識とそこからの鋭い洞察をインタビューをしながらビンビン感じました。また、個人的にスマートキャンプさんの取り組みで面白いなと思ったのは、採用目的で会社説明資料を公開していることです。
この資料があったので、解像度高くインタビューに臨むことができ、また採用においても候補者とのミスマッチ減らせるだろうなと思いました。SaaSだけでない、採用の学びもありラッキーです(笑)。佐々木さん、ご協力いただき本当にありがとうございました!
interview: 慶應義塾大学商学部 堀口創平、岡田宗悦 text: 堀口創平
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