『ロシャオヘイ戦記』に感じた郷愁
※本編のネタバレは無いです
ツイッターで話題になっていたし、去年くらいからチラホラ噂は聞いていてずっと気になっていたので、昨日中国産アニメ映画『ロシャオヘイ戦記』を映画館で観てきた。
観終わって、「あ、好きだな」という感想が残った。
この「好きだな」という感想には自分のオタク的な趣向諸々がふんだんに盛り込まれており、語り出すと若干気持ち悪くなりそうなのでこのnoteにおいてはあまり触れないでおく。
それとは別に、全編に渡りなんだか「懐かしい」という思いにも駆られた。
この懐かしさはなんなのだろうな、と思いながらバスに揺られ帰宅し今一度考えてみたところ、出た結論としては「昭和のアニメに似ている」というものだった。
昭和のアニメというと言い過ぎかもしれないが、とにかく「今」の日本の流行りのアニメとは方向性が違うなと感じた。
これは「中国産アニメが時代遅れ」と言いたいわけではない。日本産アニメと中国産アニメ、どちらが優れているとかいう話でもない。単にアニメーションとしての方向性の違いだと思う。
「写実的」な日本アニメ
これは人並みにアニメとかが好きなオタクに片足突っ込んでる程度の一個人としての考えにすぎないのだが、今の日本のアニメーション作品(特に映画作品)は「写実的」な作品が好まれる傾向にあると思う。
近年特にその傾向が強いように思えるのは、おそらく『君の名は。』のヒットが大きいのだろうなとは思っている。新海誠監督がこだわりをもって描き出す、リアルに近い細部まで描き込まれた背景、人物の動きなどなど。その気になれば実写作品としてでも成立できそうな世界観。あの画面に映っているもの全てが人の描いたイラストが何枚にも重なって動いているものだと思うと、それは素晴らしい技術だなと素直に感心した。
『君の名は。』以前も、どちらかというと写実的なアニメが好まれて評価されていたような気はする。
パッと思いつくもので古いものは大友克洋監督の『AKIRA』。作品の世界観や設定はアニメーション然としたものだったが、人物、機械の動きや背景などはリアリティのある丁寧な描写がされており、それが世界的にも高い評価を受けている一因ではあるだろう。
『劇パト』『イノセンス』などの押井守監督作品も、画面上の表現においては写実的なものが多い。押井守監督作品の真髄は作画ではなく演出や脚本にある気はするが、「動くもの」の描写も、その繊細さに見るたび驚いてしまう。
宮崎駿監督のスタジオジブリ作品は、「写実」と「デフォルメ」の塩梅が丁度いいんだろうなと思っている。
キャラクターデザインやアクション作画自体はアニメ然としており結構デフォルメも利いたものになっているが、細かいところの人物や動物の所作や動作は結構写実的だ。また背景も、大まかなところは大味というかデフォルメされているのだけれど、質感や影の付け方などがフィクションであってもリアリティがあり「本当に存在している」感を強く感じられる。ような気がする。
だからこそ、ジブリアニメはいわゆる「万人受け」するのだろうなとも思う。
他にも、例えば2000年代に話題になった『涼宮ハルヒの憂鬱』『らき☆すた』『けいおん!』などを手掛け、痛ましい事件を経つつも現在も日本アニメ界の第一線で活躍している京都アニメーションも、繊細で写実的な人物描写が持ち味でありそこが高く評価されている一因であると思う。
(もちろんギャグ描写などでデフォルメを利かせることはあるが)
「抽象的」なシャオヘイ
で、『ロシャオヘイ戦記』はどうかというと、個人的にはかなりデフォルメに振ってるなという印象だった。実際にそうだと思う。
作画全体の特徴としては、シンプルで丸みを帯びた線で描かれたシルエットと、影やハイライトがほとんど無い、言い方は悪いがのっぺりとした色塗りが挙げられると思う。
また動きやアクションの描写も、かなりデフォルメと外連味が利いている。だからといって決して雑なわけではなく、形を単純にし間の描写をあえて抑えることで、動きにスピード感と勢いが出ている。だからこそバトル描写は目まぐるしい画面ながらも迫力があった。
背景の描き込みもかなり抑えめだ。だが背景の主線があまりはっきりしておらずぼやけていることで、逆にキャラクターが強く浮き出て印象に残るという効果も生み出していたように思う。
描き込みが少ない=クオリティが低い ではない。むしろこの作品はクオリティ的な意味では高い方だと思う。シンプルな絵で描き出されるキャラクターたちの生き生きとした動きや世界観の描写は見ていて爽快感があった。もっと単純に言うと楽しかった。
「アニメってこんな感じでいいんだよな」という謎の納得もあった。
ちなみに重ねて言うが、日本産アニメと中国産アニメ、どちらが優れているとかいう話ではない。どちらもそれぞれにそれぞれの良さがあり、優劣を決めるのはナンセンスだ。単にアニメーションとしての方向性の違いだと思う。
この、シンプルな線で影やハイライトも少なく、(恐らくは)動画枚数が少なめでだからこそ動きに外連味のある感じ、そこに自分は懐かしさを感じたのだろう。
そもそも、仔猫シャオヘイがぴょんぴょんとゴムまりのように跳ね駆け回る姿を見て、真っ先に浮かんだのが「ガンバっぽい」という感想だった。
出﨑統監督の手がけた『ガンバの冒険』は、キャラクターデザインを見て頂けば一目瞭然なくらいにデフォルメが利いており、本編の作画もシャオヘイに近い感じだ。
自分が子供のころは、こういうアニメがたくさん見れた気がしている。今はアニメと言えばほとんど深夜帯に移動してしまい、夕方ごろにテレビをつけてもアニメを見ることはほぼ無い。
だからこそ、『ロシャオヘイ戦記』の画面には懐かしさを覚えたのかもしれないと思った。昔懐かしい、夕飯を食べながら見たアニメ。習い事から帰って来て手洗いうがいもそこそこにテレビの前に座り込んでみたアニメ。『ロシャオヘイ戦記』はそんな思い出を思い起こさせるような画面作りだった。
今の日本では『クレヨンしんちゃん』くらいでしか味わえない絵面な気がする。こういうの好きだから他にもあれば教えて欲しい。
と、言っている本人がそもそも最近アニメを見ていないので、実際に今の日本アニメ界とかがどうなっているのか正直詳しくはない。
間違っているところも多々あったとは思うが、あくまで普通のアニメ好きな一般人の個人的な戯言だと思って見逃がして欲しい。
まあそんなわけで、『ロシャオヘイ戦記』、2020/11/23現在で絶賛公開中なので、興味を持った人、まだ観てない人は是非観に行って欲しい。