共産党の検閲をかいくぐり音楽を聞いた中国人の友達の話
音楽のインディレーベルをやっている中国人の友達がいる。彼女から以前聞いた話が、自分にとってなかなか衝撃的だったので、書き残しておこうと思う。
15年以上前、彼女が中学生だった頃の話だ。
当時の中国では、現在と同様、共産党政府が映画やゲームなどの各種コンテンツに監視の目を光らせていた。
もちろん音楽も監視の対象で、共産党の体制に悪影響があると判断された楽曲は、すでにリリースされているものであっても、問答無用で流通禁止になってしまう。
流通禁止になった楽曲の在庫は、すべて政府に回収される。
当時の音楽メディアの主流はCDだった。政府に回収されたCDはプレイヤーで再生できないように、パンチみたいなもので穴が開けられて、全て廃棄されるらしい。
廃棄されたCDを追い求めて
ここまででもちょっと異様というか、『1984』的なディストピアを連想させるエピソードなのだが、この先がまた興味深い。
穴が開けられたCDは、本来はゴミとして処分されるわけだが、これをこっそり引き取る闇業者がいるのだ。処分を担当する作業者に賄賂などを渡して、譲り受けるのだという。
この手の闇業者によって引き取られたCDは、街のCDショップの片隅で、裏CD的な扱いで、当局の目を盗んで、こっそりと売られる。
当時、彼女が好きだったロックバンドのCDは、歌詞の内容が退廃的だとして、よく政府から発売禁止処分を受けていたそうだ。
それでも、どうしてもそのバンドのアルバムを買いたかった彼女は、共産党員の両親にバレないように、裏CDが置かれている店に足繁く通い、密かに売られているCDが無いかどうか、いつも店内を物色していたという。
彼女によると、裏CDを買う時に重要なのは、「CDのどのあたりに穴が開けられているか」なのだという。
CDの円盤の真ん中のほうに穴が開けられていると、プレイヤーがCDを読みこめない。
だが、たまに運良く穴が外側の方に外れているCDがあって、これならある程度の曲が聞けるというわけだ。
彼女は新しく裏CDが入荷されるたびにCDショップに向かい、店の片隅にガラクタのように積まれたパッケージの中から、自分の好きなバンドのCDを探した。
そうして、奇跡的にそのバンドのCDを見つけたら、次に開けられた穴の位置を念入りに確認し、穴が外側に外れたものを選んで購入する。
そうやって苦労して見つけ出した1枚のCDが、CDプレイヤーでちゃんと再生されて、好きなバンドの曲が流れてきた瞬間は本当に特別で、本当に嬉しかったと、そう語っていた。
彼女はその時の感動が忘れられずに、今も音楽業界で働いている。
音楽があふれるこの時代に
中国には今も検閲制度が存在する。だが、インターネットの発達によって、彼女が体験したような状況は無くなり、その気になれば実質的に自由に音楽を入手できる状況になっている。
そして、今や世界中に音楽が溢れかえっている。動画共有サイトやストリーミングサービスでは、日夜無数の楽曲やPVがアップされ、いつでもどこでも、好きな楽曲が好きなだけ聞ける。
たくさんの楽曲が発表され、それが消費される。途切れることのない音楽に満たされた時代を生きる僕たちは、間違いなく、圧倒的に幸せだ。
一方で、CDショップの店の裏にある薄汚れた倉庫で、彼女が穴の空いたCDをようやく見つけ、お気に入りのバンドの曲が流れてきた瞬間に感じたであろう、まるで宝物を見つけたような、心が震えるような感覚について、ふと思いを馳せてみたりもする。
それは、歪で不自由であるがゆえに生まれた、一回性の、濃密で濃厚な、忘れがたい体験なのだろう。そんな音楽体験をちょっとしてみたい気もする。
もっともそんな風に思うのは、自由で恵まれた環境が当たり前であるがゆえに、そのありがたみに気づかない、自分の世間知らずさのせいなのかもしれないが。(了)