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NeRFは測量に使えるか
結論
今の所、無理です。
以降でその理由を解説していきます。
NeRFとは
近年、NeRF(ナーフ)という技術が大きな注目を集めています。
NeRFは略語で、正確にはNeural Radiance Fieldsと呼ばれる3D表現手法です。
詳細は以下サイトに譲るとして、ここでは簡単に説明します。
3次元シーンの構築
まず前提として2次元の画像から3次元のシーンを構築する方法を簡単に説明します。
画像から3次元シーンを構築するには、様々な角度から撮影した画像が必要です。
これは人間の目が2つあるのと同じで、片目を閉じてペンの先を触ろうとしてもズレたりしますが、両目を開いて触るとすんなり触れますね(人間は高性能な脳を持っているので片目でも補正されて触れますが)。
これは視点が2点あり、視差が生まれることで視界を3次元的に捉えることができるからです。
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ただしコンピュータでこれを実現するには、数千〜数万枚の多視点画像が必要になります。
しかも、各画像に写るシーンがある程度重なっていなければなりません。
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もちろん、画像に写っていない部分は再現できません。
この大量の多視点画像がこれまでの3次元シーンを構成する際のネックになっていました。
NeRFによる3次元画像の生成
NeRFは、大量の多視点画像を使わずに3次元画像を生成する手法です。
NeRFは一見、3次元のシーンを生成しているようにも見えますが、あくまでも新たな視点画像を基に3次元画像を生成しているにすぎません。
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3次元画像とは、CTやMRIの2次元の画像が積層された画像のことを指します。
もちろんNeRFで生成された3次元画像からメッシュを生成することは可能です。
NeRFと写真測量の思想的違い
NeRFの中でも写真測量の技術が使われていますので、NeRFと写真測量(いわゆるPhotogrametory)は比較しても意味がありません。
大前提として、日本における公共測量ではNeRFはまず使えません。
公共測量は測量法というルールに則って成果物をアウトプットする必要があります。
NeRFはそのルールに適していません。というかAI系の多くは適していません。
だってAIがここに亀裂がある(統計的に)と出力しても、実際にはない場合があります。それだと測量になりませんよね。
写真測量は厳密解を求めるものです。
NeRFは近似解を求めるものです。
したがって、NeRFで測量はできません(今のところは)。
NeRFのユースケース
NeRFのユースケースをいくつか考えてみましょう。
デジタルアーカイブ
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デジタルアーカイブは、遺跡や工芸品といった文化財をデジタル化して保存する分野です。
これまでは写真測量やレーザー測量でデジタル化していましたが、NeRFを使った場合どうなるのでしょうか。
一つ考えられる例としては、消失した文化財の復元です。
現存する文化財のデジタル化は既存の手法(写真やレーザー)で問題ないですし、正確です。
しかし、消失してしまうと既存の手法が使えません。
そこで、インターネットから消失した文化財の画像を集めます。
季節や時間帯、天候等もバラバラの画像が集まると思いますが、NeRFはこういった多様なステータスでも3次元画像を生成する事ができます。
デジタル万引き
デジタル万引きというと、書店で本を撮影する事例が有名です。
昨今では、ワンダーウェスティバル等の造形イベントでオリジナルの造形物(フィギュアなど)がデジタル万引きの被害に合う機会も散見されます。
iPhoneにLiDARというレーザーセンサが搭載されたことで、様々な角度から何枚も撮影しなければならない写真測量よりも簡単にデジタル万引きが可能になっています。
ワンフェスで奇妙な画面のスマフォをかざしている三人の男性(日本語を喋ってはいなかった)が僕らのブースに来ていたけど、あれ今わかった。
— 44k / WFお疲れ様でした! (@FLT44000) February 7, 2022
デプスセンサーだ。
LiDARだったんだ…
しかし、レーザーセンサでのデジタル万引きは目立つ上に画面を見れば何をしているのか丸わかりです。
他方でNeRFの場合は数枚の画像があればフィギュアを複製できます。
咎められても写真を撮っているだけと言えば法的に何ら問題ありません(もちろん撮影許可の有無による)。
なんなら現物を直接撮影しなくても、SNSに流れてくる宣伝用の画像を使ってもいいでしょう。
現状のNeRFでは、フィギュアの精巧な部分まで再現することはできませんが、技術の進化は日進月歩です、本物と寸分違わないモデルを生成して3Dプリンターでコピー品を作れるようになる日もそう遠くないでしょう。
フェイクニュース
これは個人的に大きな問題をはらんでいると考えます。
以下の画像は高い城の男という海外ドラマです。
第二次世界大戦で大日本帝国とナチスドイツが連合軍に勝利した物語です。
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この画像自体は人が編集したものですが、ディープフェイクはこうした画像をAIによって簡単に生成することができます。
自由の女神にナチスのマークが掲げられている実写画像が複数視点生成されてそれをNeRFにかけます、するとナチスに染まった自由の女神の3次元画像が生成されます。
ディープフェイクxNeRFによってホワイトハウス、米国防省、エンパイアステートビルそれぞれにミサイルを撃ち込む3次元画像を生成します。
それをSNSでいかにも怪しそうなアカウントが投稿すれば、金融市場に影響を与えることも可能です。