出会えなかった祖父と孫の話
現実は小説よりも奇なり、なんてよく言うけど、
小説で読んだことある話が先週あった。
8月の終わり、もしかしたら、またコロナ?
と思うくらい体調不良な日があった。
コロナは2回かかっていたので、それとよく似た症状だった。でも、もう5類に移行したし、熱はないから休めないなぁ、なんて考えながら、しんどいながらも仕事へ行った。
やっとの思いで帰ってきて、夜、それが虫の知らせだったことが分かる。
誰か近い人が無くなるとき、私は体調を壊す。
しばらくそんなことがなかったから、すっかり忘れていた出来事だった。
「叔父さんが亡くなった」
妹からの知らせだった。
歳の離れた妹には叔父さんだが、私にとっては、中学校まで一緒に暮らしていた、「お兄さんおじちゃん」という関係性の人だった。
今は一人暮らししているおじちゃんが、3連休のあとの仕事に無断欠勤し、気になった会社の人が自宅へ見に行ってくれたらしい。
行くとポストに3日分の新聞がはいっていて、その間から人影が見えて、警察に連絡してくださったおかげで発見された。
たまたま、おじちゃんは玄関すぐのドアのところに倒れていて、心筋梗塞をおこし頭をうってそこにうずくまって絶命していた。
血糊があったが、引きずったあともなかったから、苦しむひまもなかったのでは?と想像されるのが唯一の救いだった。
おじちゃんはまだまだ若かった。
母を中学校のときに亡くして、程なく私の母が嫁に来て、私が生まれた。
結婚してこどもを二人授かったが、相手の不可解な理由で(おそらく相手の浮気)離婚した。
離婚して以来、一度も娘二人には会わず(相手が再婚したため、会わないほうがよいと思った)
「もしかして、孫が出来てるかもね」
なんて話をお正月にしていたところだった。
お葬式の日程が慌ただしく決まり、親類だけの家族葬をすることになった。
もしかしたら懇意にしている人がいたかも、との思いで、スマホを見させてもらった。
lineなどのSNSもしておらず、ここ半年のメールは私の母からの「再来週に墓参りに帰っておいで」だけだった。
部屋はものすごく几帳面に清掃されていて、
ゴミは、燃える、燃えない、ペットボトル、缶、プラ、など、ゴミとは思えないほど几帳面に分別されていた。
スマホの連絡先もものすごく几帳面。
そんな中に、ぽつり、名前だけで登録されている電話番号があった。
名前から類推するに、もしや、娘??
連絡はとってないけど、電話番号だけは知っていたのかな?
と思い、恐る恐る電話をしてみた。
見事ビンゴだった。聞けば、長女さんはスマホ音痴だそうで、買ってから20年、番号をそのまま変えずに持ち続けていた。知らない番号だったけど、出てくれてよかった。
「会える?」
ときいたら、
ふたつ返事で「今から行きます。」
なんとおじちゃんの家に30分後に到着してくれた。
本当にたまたま、彼女は結婚し、車で5分ほどに近所に引っ越していたそうだ。
彼女はもちろん、おじちゃんの家に入るのは初めて。
聞けば、やはり、5歳の時から一度もあっていなかったそうだ。
彼女は部屋に入って、初めての事実をここで知ることになる。
一つの部屋に、自分の写真と、生まれることの出来なかった弟の遺骨。
そこにお供えされている数々のお菓子。
彼女は小さくて覚えていなかったが、死産してしまった弟がいた。(中学生だった私は今も覚えている。)
自分の写真、こどものころに使っていたお風呂椅子、彼女の記憶がいろいろよみがえった時間だった。
彼女は旦那さんと、そして、1ヶ月の赤ちゃんを連れて来てくれた。
こどもが生まれたことで、自分のお父さんにも会わせてあげたい、そう思って、戸籍をとって調べて、会いに行こうと、家の前まで来たことがあったそうだ。「おじちゃんはおじいちゃんになっていたこと知っていたの?」
彼女は首を横に降った。
もしあの時、もしあの日、
もしもはいっぱい思いつくが、これが現実だった。