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6.ITの次の波はどこか?第四の波

トフラーの「第三の波」を振り返る

未来学者アルビン・トフラーが提唱した「第三の波」を改めて振り返ってみましょう。彼によると、人類史には以下のような大きな波が存在します。

  1. 第一の波:農業革命
    種をまけば秋には何百倍にも実る方法を知り、定住型の社会が生まれました。農業社会では、巨大な権力による統制型農法が発達し、エジプトや古代中国などの王朝が繁栄しました。
    しかし、現代では安価な土地を広大に使った集中的な農業には太刀打ちが難しく、アメリカのコーンフィールドやブラジルのサトウキビ農園などが大量生産の中心となっています。

  2. 第二の波:産業革命
    組織化や分業化によって大量生産が可能になり、近代社会が発展しました。ここ10年ほどを見ても、すでにこの中心は中国に移行しています。服やiPod、Nikeの靴など、あらゆるものが中国製になりました。今後は中国もインドに追い上げられるかもしれません。いずれにしてもOECD諸国が大量生産の分野でリードを取り続けるのは、高級品など付加価値の高い分野を除くと、かなり困難でしょう。

  3. 第三の波:脱産業化社会(情報化革命)
    いわゆる情報革命です。ここ30年あまり、弁護士・医者・会計士、そして最近ではSEや経営コンサルタントの多くが中心に担ってきた“知的サービス”の付加価値が、IT革命によって大きく変容しつつあります。ITの進化によって、これまでの専門職が担っていた役割の一部がソフトウェアやクラウドサービスに置き換えられ、消えつつあるのです。


次の波は何か?——“Billion Dollar Question”

トフラーも「ITの次の波は何か?」と問いかけていました。これこそ“Billion Dollar Question(千億価値の質問)”です。私自身、いくつか仮説を持っていますが、その前に「ITの波」はどのように起こったのかを振り返りたいと思います。


アメリカが築いた「情報スーパーハイウェイ」とIT覇権

1980年代の終わりから90年代にかけて、クリントン政権下で副大統領になったアル・ゴアが打ち出したのが「情報スーパーハイウェイ」計画です。これは、もともと日本のNTTが構想していたアイデアを、アメリカが自国版として展開したものとも言われています。
この計画によってシリコンバレーとウォール街が本格的にタッグを組み、コンピュータやインターネットといったテクノロジー分野にビジネスパーソンが一気に流れ込みました。その結果、半導体協定が結ばれ、IT製品やサービスを世界中に売り出す「アメリカナイゼーション」「グローバリゼーション」が進展していったわけです。

情報への“上納金”がアメリカに流れる構造

ITを使いこなすためには、デバイスだけでなく、クラウドやドメイン管理などインフラの大部分でアメリカの技術や企業に依存せざるを得ません。SNSなどのアプリケーションも含め、欲求を満たすほとんどのサービスがアメリカ発企業によって独占的な地位を築いています。その結果、情報というかたちで世界中が“上納金”を払い続ける構図が生まれています。


次に来る“第四の波”:国家規制×産業メイキング

では、このような次の大きな波はどこから来るのでしょうか。私は、「国家レベルの規制やルールメイキング」を背景にした、国ごとに特徴的な産業クラスターの創出が鍵になると考えています。

政治と産業の“癒着”が守る既得権益

たとえばタクシー産業などを見ても、日本では政治と企業が癒着することで、外資系企業の参入が厳しく制限されています。実際に、某大手企業の社長と某元総理の孫が政略結婚しているとの話もあり、ユーザーの利便性を損なうとの批判も根強いのですが、こうした「政治と産業の結びつき」が、新たな外資・テクノロジーの流入を防いでいる例だと言えるでしょう。

次の波では、このような“政治との連携”をうまく産業政策に活かし、大規模な市場を作り上げる国が勝つ可能性があります。実際、AIやロボット産業、通貨産業や、軍事技術、超知能完全自動社会などのテーマにおいては、アメリカや中国が官民一体で取り組みを加速させています。これらは巨大な産業として成長することが予想されます。


日本が取るべき戦略:ロボット×生命×ナノテクノロジー

では、日本はどうすればいいのでしょうか。私の考えでは、ロボット・生命科学・ナノテクノロジーの3分野で主導権を取る準備を進めるべきだと思います。

1. ロボット産業への集中投資

  • 人型ロボット
    日本では偶像崇拝に対する宗教的規制が少なく、人型ロボットに対する心理的ハードルが比較的低いといわれています。また、工場の数や技術者層の厚さも強みです。

  • 次世代の産業インフラ
    高度経済成長期に築いた製造業の基盤がまだ生きているうちに、ロボット産業への投資を進めるべきです。一定以上の規模の向上や、この産業に関わる技術者の知見がまだ継承しうるうちに、この産業にbetする事は確実に行うべきタスクでしょう。

  • 近い将来、人型ロボットや産業用ロボットの需要は世界的に高ります。もちろん、完成品でなく、材料やパーツなどの分野に絞ることも十分考えられるでしょう。例えば、手の繊細さは、日本人が強みのある領域であるし、センシングのためのデバイスにおいても日本は得意とする領域だと考えています。

2. 生命科学の規制緩和

  • 遺伝子編集技術
    食料や医療分野で、遺伝子編集技術を活用すれば新しい作物や美味しい食べ物が生み出せる可能性があります。例えばあまおうを活用したOisii farmの事例や、リージョナルフィッシュの事例などを見ていると、日本の食は世界的に評価が高く、規制緩和した際のリターンが見込める領域であると考えられます。

  • 世界が追随できない領域(食品、医療など)
    規制次第では他国に先駆けたバイオテクノロジー産業を発展させ、独自の高付加価値を創出できるかもしれません。食品、医療においては、日本食が美味しくて健康だというブランディングや外食産業における地位が最大限に利用できますし、医療分野においてはiPS細胞などの技術や、日本人の持つ医療などに対する真面目さや手先の器用さは実は他国を圧倒できる素地があると見ています。

3. ナノテクノロジーへの薄く広い投資

  • 素材革命とものづくり
    日本は繊維や化学などの分野で強い基盤を持っています。ナノテクノロジーを活用した新素材や機能性素材は、今後大きなビジネスチャンスになるでしょう。

  • ルールメイキングのチャンス
    最先端技術であり、さまざまな産業における素材などの製造を行ってきた素地があるからこそ、国際的なルール作りに先んじることで、有利な産業環境を築き、世界へと商品を輸出していくポテンシャルがあります。


“日本初×世界展開”を実現するために

アメリカは「情報スーパーハイウェイ」構想を軸に、金融と情報技術を組み合わせて世界規模のビジネスを創出しました。日本が同じようなインパクトをもたらすには、国を挙げたルールメイキングと、それを支える投資・産業政策が欠かせません。

  • ロボットへの集中投資
    まずはロボット産業に全力でベットし、世界に先駆けた事例を作る。

  • 生命・ナノ技術にも同時に着手
    長期的視点で研究開発を支援し、国際競争力を高める。

  • ルールメイキングで国際標準に
    新技術のガイドラインや規制を日本発で策定し、世界市場へ輸出する形を目指す。

たとえば医療や食品、繊維産業などは日本企業が強みを持つ分野であり、うまくテクノロジーを取り込むことで、他国との競争で優位に立つことができるでしょう。


まとめ:未来を見据えた“日本再興戦略”

GNR革命(Genetics, Nanotechnology, Robotics)という言葉でレイ・カーツワイルが予言したように、今後はロボット・生命科学・ナノテクノロジーの3分野で確実にイノベーションが起こると考えられます。
しかし現状の研究者コミュニティやスタートアップの動きは、ビジネス視点・長期視点の両面でまだ不十分です。また、規制やルールを作る側のリテラシー不足も課題です。

だからこそ、日本が今なお活用できる製造業の基盤や技術者層を活かし、ロボット産業を中心とした未来志向の産業づくりに本腰を入れるべきです。
同時に、生命科学やナノテクノロジーについても少しずつ投資を進め、国際ルールメイキングで主導権を握れる準備をしておく。これが私の考える“日本再興戦略”です。

未来を切り拓くためには、短期的な課題解決も重要ですが、次の大きな波を意識しながら、“ゲームメイカー”として動ける存在が求められています。日本発の新たな産業クラスターを世界に広め、次の時代のリーダーシップを確立する。その可能性を、ロボット・生命科学・ナノテクノロジーの三本柱で追求していくべきだと考えます。

参考記事:



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三原走己/AI社長
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