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山本粧子の Hola! ジャガイモ人間~ペルーからコンニチワ~┃第32回

ブエノスディアス! 山本粧子です。

パラカスは、夏真っ盛り。強めの太陽の光が海に向かってガンガン降り注ぎ、水面がキラキラ美しいです。
毎日、仕事帰りに家の前に広がる海水浴場で泳ぐことができる環境に身を置いているものの、実はまだ一度も海に入ったことがありません。せっかく日本から水着も持ってきたし、一度くらいはパラカスの海に入ってから帰国しようと思うのですが、なかなか一人で海水浴をするという気も起こらず、ここまでずるずる来てしまいました。
今、パラカスのまちには水着姿の人々で溢れかえっています。
パラカスミュージアムへも、水着の上に薄い布を軽く羽織った薄着の観光客がやって来ます。日本の考古学博物館で、水着姿のお客さんと遭遇するなんてことはなかなかないため、去年はちょっと驚いていましたが、2年目ともなると当たり前の景色として何も違和感を感じなくなりました。慣れとは恐ろしいものです。

 さて、第24回の記事でも少し紹介しましたが、ペルーの学校は、3月から新学期が始まるため、2月初旬の現在は学校がお休みです。
子どもたちのバカンス期間に休暇を取得する親御さんも多く、パラカスミュージアムは、家族連れのお客さんが非常に多いです。
今日も首都リマから、お婆さまの誕生日を祝う旅行でパラカスを訪れたんだというファミリーがやってきました。小学生の娘さんと息子さんが絵を描くのが大好きだというので、私と一緒に2時間もおしゃべりをしながらワークショップ部屋で絵を描いていました。
首都リマに住んでいると、パラカスのゆったりとした時間の流れや、風の音や動物の鳴き声しか聞こえない空間にとても癒されるそうです。

ゆったりした時間の流れるパラカス

 
ミュージアムの同僚もこのタイミングで約2週間の長期休暇を取得する人もいるので、私もそれに便乗して1週間休みを取得し、首都リマへ行ってきました。
7月にパラカスミュージアムで私自身の個展を開くことになったので、それに向けて画材を買い集めたり、気になるレストランや美術館を訪問したり。久しぶりのリマ滞在の時間を有意義に使うため、出張か? というくらい時間刻みの計画を立てました。
タスクを全て実行してパラカスへ帰ってきたら、身体中いたるところが痛いし、なんだかぐったりしていました。無理は禁物ですね。

◇高級レストランに挑戦

気を取り直して今回は、リマで訪問したレストランについて書いていきます。今回の滞在で、私は前々から行ってみたかった「Mérito(メリト)」というレストランへ念願叶って行ってきました。

美食の国と言われるペルーにいるものの、普段は家庭料理中心の生活でレストランに行く機会が少ないため、私はプロの味をほとんど知りません。
このままでは日本に帰った時にペルーが本当に美食の国だったのか? という質問にちゃんと答えられない……とひそかに気にかかっていたのです。
このまま先延ばしにしてはいけないのではと、今回は思い切って有名店に足を運んだのです。

メリトは世界の美食家たちがここで食事をするためにペルーを訪れるとも言われている国内屈指の高級レストラン「Central(セントラル)」で修行されたベネズエラ人のシェフJUAN LUIS MARTÍNEZ(フアン・ルイス・マルティネス)氏が2018年にオープンしたお店です。
(一度の食事で一人当たり10万円は払うと言われているセントラルへ行く覚悟はまだできておらず、、、いつかは必ず訪れたいと思います!)

◇アートの街・バランコ地区

 メリトはリマのバランコ地区にあります。バランコは、リマの中でも比較的時間がゆっくりと流れる、なんとなくリラックスできる場所で、とにかくすべてがインスタ映えする場所です。

バランコの広場。みなさん、この広場のベンチに座り、朝も昼も夜もお話が絶えません。

昔からリマのアーティストが集まる制作拠点でもありました。
例えばVíctor Delfín(ビクトル・デルフィン)という、ペルーでは誰もが知るアーティストのお家兼アトリエ兼ミュージアムがあります。彼は現在もバランコで制作を行なっています。
ビクトルさんの有名な作品といえば、ミラフローレス地区に1993年につくられたアモール公園(Parque del Amor)にある、海の前で恋人たちが永遠のキスをする巨大彫刻オブジェ「El beso(接吻)」です。
京都の鴨川で10メートルおきにカップルが座るように、このアモール公園でも恋人たちが芝生の上に等間隔に座っています。

Víctor Delfín(ビクトル・デルフィン)のアトリエ
アモール公園の巨大彫刻オブジェEl beso(接吻)

バランコでは地図を見ずに歩いていても、アートギャラリーやコンセプトストア、陶芸スタジオ、カラフルなミューラルに出会うことができます。夜はちょっとインテリが集まりそうなバーなんかもあり、まさに散歩するのに最適で魅力的な私のお気に入りの場所です。
リマへ行くと、いろいろな地域を開拓しなければ! と思っていくのですが、結局バランコの方にテクテク歩いていってしまう自分がいるんですよね。

ザ・バランコ!といえばここ。フェデリコ・ビジャレアル公園
たくさんの小さなギャラリーで、展覧会が開催されています


ラテンアメリカのフュージョン料理

そんな流行に敏感なバランコにはオシャレなカフェやレストランもたくさんあります。メリトはその中でも、南米のベストレストランに選ばれ、リマで誰もが話題にしているという噂のレストランです。
私がこのお店に興味を持ったのは、シェフであるフアン氏が、「ベネズエラのルーツとペルーのルーツだけでなく、ラテンアメリカのあらゆる文化を融合させた料理を提供し、南米大陸のこの広大な地域で採れるさまざまな食材を伝えようと思っています」と語っている記事を読んだからです。一体どんな料理が出てくるの!? と気になって仕方ありませんでした。

南米大陸をいただくつもりで、当日は臨みました。
今まで行ったペルーのレストランとは異なり、「予約時間から12時間以内のキャンセルには一人当たり3000円をいただきます、遅れないできてください」などの注意事項もあり、本格的なレストランであることをひしひし感じます。
少し緊張しながら向かったところ、15分も前に到着してしまいました。お店の前のメニューを眺めていたらお店の人が優しく、中へどうぞと案内してくださいました。

何が出てくる 予想のつかないメニュー表

前々からメニューを予習した上に、外で待っている間もメニューと睨めっこしながら思っていたのですが、このお店の料理名前本当に端的で短いのです。
例えばデザートの「Roca(ロカ)」。Rocaは岩という意味だそうすが、岩のデザートとは……?
岩の味ってどんなんだろう? 岩の形してるのかな? など、イージーなアイデアしか出てきませんでした。

 うんうん悩みながら、まずはアラカルトで4品注文してみました。

 ・Conchas. sanki y jalapeñon(帆立貝。サンキとハラペーニョ)
・Pez blanco y cocona(白身魚とココナッツ)
・Plupo entre olluco y cushuros(オユコとクシュロの間のタコ)
・Panceta glaseada y arepas (艶やかな豚バラ肉とアレパ)

いかがでしょう。料理名だけ見て、どんな料理が出てくるのか想像できますか?
そうしてドキドキしながら待っていると、出てきたのがこちら。

「帆立貝。サンキとハラペーニョ」。

サンキという食材は、インカ時代から食べられていた、ペルー南部のアンデス地方に生息する野生のサボテンの果実です。サンキを食べると、エネルギーの持続力が高まるといわれ、長距離移動の際に重宝されたそうです。
一番外側の黄緑色のサンキを使ったソースと、ハラペーニョを使った濃い緑色のソースの海に、帆立貝がぷかぷか浮かんでいます。
外側からスプーンで全ての要素をキャッチするように貝柱を一つすくって、口の中に入れると、初めての味なんですけど、とても美味しい世界が広がっていました。
噛むごとに違う味、帆立貝の滑らかな舌触り。
ちなみに、帆立貝の上に乗っている紫色で縁取られた矢印のような形をしているのは、キノコだそうです。

「白身魚とココナッツ」。

お刺身? かと一瞬思ったのですが、実はゆっくりと低温調理された新鮮な白身魚。美しく、とにかく美味しい。クリーム色のソースは、ココナッツを使っているのですが、「ザ・ココナッツ!」といった味は一切せず。これがココナッツの向こう側なのでしょうか?
全ての食材が、一つだけ前に出過ぎることなく、全ての食材がハーモニーを奏でているかのように思いました。口の中に一口入れると、なぜか、顔が笑顔になって、幸せになる料理です。

「オユコとクシュロの間のタコ」。

生きているときを彷彿とさせるようにレイアウトされた、茹でたタコ足の上に、透き通った緑色をしているプチプチ食感が楽しいアンデスのスーパーフード、クシュロとオユコが配置されています。
びっくりするほどタコが柔らかく、食感が異なるさまざまな食材が面白く、口の中でいろいろな音がして楽しい料理でした。

「艶やかな豚バラ肉とアレパ」。

この料理が一番、見た目と味のギャップのない、想像通りの美味しさでした。ちょっとアジアの風が吹いている気もしました。
アレパは、ベネズエラのソウルフード。潰したとうもろこしで作る薄焼きのパンです。半分に割って、緑色のアボカドソース、バター、根菜の酢漬け、豚肉を挟んで頬張ります。美味しくないわけないですよね。 

豚バラ肉の煮込み

東坡肉(トンポーロー)を髣髴とさせるつやつやソースに絡められた、かなり分厚い豚バラ肉は、脂身少な目で意外とさっぱりした味なのですが、肉々しさはギュッと詰まっていました。本当に柔らかく時間をかけて調理されたものなんだろうなと、肉の旨味をガンガン感じながらいただきました。

 料理名が短いのはシェフのこだわり。今現在リマのレストランでは長いメニューがトレンドだけれども、メリトは流行を追わずに旬の食材を使って料理を展開するので、季節によってメニューを変え、短いメニューで進めると決めたそうです。
シェフの狙いなのかどうかはわかりませんが、メニュー名を短くすることによって、お店の人との会話が自然と増えるのは確かだなと思いました。自分がメニュー名について尋ねると、お店の方が詳しく説明してくださるのです。しかし、じっくり、細かく、丁寧に説明してくださるのですが、聞いたことのない食材名のオンパレードの難解な文章は、残念ながら私にはまだ理解できませんでした。。。

◇未知への冒険心を忘れない

 こちらで料理をいただいてから、そういえば、最近は食べる前から味を想像できる料理、味を知っている食材ばかりを食べているなということに気がつきました。その方がびっくりすることなく、失敗もせず、楽だからかもしれません。
ペルーに到着した頃は、見たこともないフルーツ、聞いたこともない名前の草、どんな味がするかわからない謎のドリンクなどに日々挑戦していました。しかし1年経過した今、ペルー生活にも慣れ、まだまだ知らないことばかりのはずなのに、新しい発見を怠っている自分に気付かされました。
それは食べ物の話だけではなく、全てにおいて言えることだと思います。やはり、クリエイティブの力は人間に新しい刺激を与えるんだと身をもって体感しました。本気の仕事に触れることができ、ありがたい経験でした。 

岩のデザート、ロカ

最後に、先ほど触れた「岩」という意味のデザートは、このようなビジュアル。まさかのチョコレートのお味のするムースのようなものでした。

ここの料理の特徴は、一口の中に複数の要素、たくさんの食材が共存しているため、口の中でもちょっとずつ味が変化するので、終始楽しめました。
正直、南米の融合感は、南米歴1年の私にはよくわかりませんでしたが、南米にはまだまだ私の知らない食材、歴史があるのだということはわかりました。

良質な食事は五感が刺激され、脳も活性化し、前向きになれるのかなと思える一食でした。新しい発見を怠らず、限りあるペルー生活で得られるものは全て吸収していけるよう、スポンジになって明日からまた生きていきたいと思います。

それでは今回はこの辺りでアディオース!!


~編集Oが選ぶ今週の一枚~

〈プロフィール〉
山本粧子(やまもと・しょうこ)
神戸市生まれ。大阪教育大学教育学部教養学科芸術専攻芸術学コース卒業。卒業後、国境の街に興味があったことと、中学生の頃から目指していた宝塚歌劇団の演出家になる夢を叶える修行のため、フランスのストラスブールに2年ほど滞在しながら、ヨーロッパの美術館や劇場を巡る。残念ながら宝塚歌劇団の演出家試験には落ち、イベントデザイン会社で7年半、ディレクターとして国内外のイベントに携わる。また、大学時代より人の顔をモチーフに油絵を描いており「人間とはなんだ」というタイトルで兵庫県立美術館原田の森ギャラリーや神戸アートビレッジセンターにて個展を開催。趣味は、旅行の計画を立てること。2016年からは韓国ドラマも欠かさず見ている。2023年秋より南米ペルーのイカ州パラカスに海外協力隊として滞在し、ペルーとジャガイモと人間について発信していく予定。