大好評『タロットの美術史』シリーズより、「巻末特別寄稿」の一部を特別公開!|10巻
■10巻 月・太陽
寄稿者:鶴岡真弓
(多摩美術大学名誉教授/ケルト文化・ユーロ゠アジア生命デザイン研究家)
◆ケルトの暦――闇から誕生する月と太陽◆
人間と天体の関係は、深い自然観察を礎とする「暦」に記憶されてきた。ヨーロッパの基層文明を築いた古代ケルトの人々は、ローマ人が用いた太陽暦ではなく、「月」の変容を見つめる太陰暦のもとに生きた。「夜/闇」から一日が始まる/生まれると考えたのである。
「月」は農耕牧畜のための大自然の「生命時間」を刻む、かけがえのない導き手だ。ローマ人のように「満月」か「新月」かの二極ではなく、その「中間の相」を見つめ、闇と光の「変容の過程」にある月の姿にこそ、生命循環の秘密があると信じられた。
「太陽」 の復活もまた「闇」からの誕生であった。たとえば現代人の多くは、シェイクスピアの戯曲『真夏の夜の夢』は6月下旬の「夏至」の事だと思いこんでいる。が、それは「五月祭」即ちケルト暦の「ベルティネ/5月1日」の前夜の森の物語である。
「ベルティネ」とは「明るい火」の意。10月31日の万霊節(サウィン)からの「闇の半年」の最後の夜が明けると、太陽が復活。今でもヨーロッパではこの日が「ミッドサマー」の始まりである。
シェイクスピアはこのケルトの暦を熟知していた。ベルティネ前夜の森で、妖精たちの生命がエロスとカオスを巻き起こす「真夏の到来」を、演劇で寿いだのである。
ケルトの暦は、真冬10月31日の「万霊節(ハロウィンの起源)」から始まり、厳しい「闇の半年」後のベルティネに、大自然が「光の半年」へと反転する。だからその前夜の4月30日の夜はドイツ語圏では「ワルプルギスの夜」と呼ばれ、朝日が昇るまで 「魔女」たちが最後の闇の中を飛び回る。
その闇から光への大転回を、…………
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