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山本粧子の Hola! ジャガイモ人間~ペルーからコンニチワ~┃第29回
ブエノスディアス!山本粧子です。
有機栽培の農作物は日本でも人気だと思いますが、私が住むペルーのイカ県にも、一風変わった有機農場・サマカ(SAMACA)があります。
私はサマカ商品のファンで、ペルーで自炊生活をはじめてから、サマカのエクストラバージンオリーブオイル、乾燥トマトや乾燥玉ねぎ、蜂蜜などに大変お世話になっています。
しかし農場はイカ県にあるにもかかわらず、残念ながらイカでは購入できず、首都リマのおしゃれなサマカショップまで行くか、オンラインショップでないと買えないのです。
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サマカはイカ県初の有機農場であるだけでなく、オーナーや従業員の人々と一緒に生活をしながら、農業、芸術、詩、工芸、音楽、哲学を通して自然と触れあうプログラムを提供しています。
しかし、誰でも自由に参加できるわけではなく、哲学者であり詩人であるオーナーが許可した人のみが、サマカに足を踏み入れることができるんだそうです。なかなか狭き門なのですが、今回ようやくチャンスが巡ってきて、参加することができました。
今回は、その農場での自然体験プログラムについて書きたいと思います。
「ペルー時間」でドライブ
イカ県の中心地からサマカまで87キロ、車で2時間ほどの距離にサマカはあります。
朝8時に迎えに来てくださるというので、待ち合わせ場所で待っていましたが、30分経っても迎えの車は現れません。
ペルーでは30分くらい遅刻してくるなんてことはよくある話で(もちろん、時間厳守の人もたくさんいます)私も日本にいる頃に比べて時間に追われる生活をしていないせいか、1、2時間待つくらいへっちゃらになりました。カフェにでも入って休憩して待つかと思った矢先、ようやくサマカのロゴが入った車が現れました。
サマカ行きの公共交通機関なんてものはこの世になく、サマカの関係者に連れて行ってもらうしか手立てはないので、その車を見た途端、本当にあのサマカに足を踏み入れることができるんだとじわじわ実感が湧きました。
後で知ることになるのですが、迎えに来てくれた方は、私がいつも食べているサマカのオリーブオイルなどを作っている工場の工場長でした。
彼が「40分くらいで着くよ」と言うので、「嘘でしょ? もしかして私が思っている場所と違うのかな?」と思いつつ黙っていたのですが、ちゃんと2時間以上かかりました。
なんだったんだ、謎の40分のアナウンス。
でも、ペルーに1年もいれば、そんなことは気にならなくなるのです。
車は、本当に何もない砂の世界をひたすら走って行きました。
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砂漠の中のオアシス
彼が着いたよと降ろしてくれたところは、砂の世界の中に突然オアシスが出現したのかと感じるような場所でした。
木々が生い茂って涼しく、美しい木漏れ日を落とす木の枝にはピスコの空瓶がぶら下げてあって、その中に詩が書かれた紙が入れてあるのです。
これがサマカのエントランス。なんて世界観だ!
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まずは食堂に案内してもらい朝食をいただきました。大きな木のテーブルに、オリーブの塩漬け、蜂蜜、パン、果物、チーズなど、サマカで作られた製品が「ご自由にどうぞ」状態で置いてあります。
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サマカ製品のファンとしては、なんと贅沢な空間! という感じでしたが、サマカで働く人々はこの食堂での美味しい三食付きで、月曜日から金曜日まで泊まり込みで働くそうです。
サマカのさまざまな施設
現在サマカがある土地はもともと、古代には住民がいましたが、その後は砂漠地帯で経済的利用価値がないと考えられていたために、長い間放置されていました。
1995年になってオーナーのアルベルト・ベナビデス氏がここを買い上げ、農場を開いたのです。サマカでは生態学的原則を尊重し、適切な技術を用いて、この地に適したオリーブ、タラ、ナツメヤシ、豆、トウモロコシ、トマトなどのさまざまな一年生作物を農薬を使わずに育てているそうです。
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夢のような朝食をたらふく食べたあと、オリーブの塩漬け工場や、乾燥トマトや乾燥オリーブの製造工場を見学しました。ここで、先ほどの運転手さんが工場長だったことが判明します。
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オリーブを選別しているところ。味のクオリティは同じだけれども濃い紫の方が美しく価値が高いそうで、濃い紫の実と薄紫の実とで分けるのです。
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こちらは私が好きなサマカの乾燥トマト。まさにトマトを干しているところですが(奥の黒い方は乾燥オリーブ)、屋外に設置されたケース内でたった一日干しただけでいい感じにできあがるそうです。ガラスのケースが立ち並ぶ様子がとても美しいと思いませんか?
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次に、サマカミュージアムへ案内してもらいました。このミュージアムでは、農場の敷地内で発見されたパラカス時代やナスカ時代の陶器、織物が展示されています。
ただ、「自分たちは考古学者でもないので、発掘はしておらず、落ちていたものを拾って集めて展示しているだけなのだ」と、この博物館を担当しているウルグアイ出身の詩人が説明してくれました。
この場所がいかに長い間放置されていたかということがわかるエピソードでした。私有地に歴史的価値のある重要な遺物がわんさか転がっているなんて想像したこともありませんでした。
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修行の時間
13時に鳴る鐘が、昼食が始まる合図です。
鐘の音を聞いて約30人の従業員が食堂に集まりました。
ようやくサマカのオーナー、アルベルト・ベナビデス氏の登場です。
初めて挨拶を交わした時、緊張が走りました。75歳の、大柄で威厳のある男性で、ドスの聞いた声と気難しそうな雰囲気。
「とりあえず、君が何者か説明してくれ」と言われ、ドキドキしながらスペイン語で自己紹介をしました。
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そうこうする間にも美味しそうな美しい料理が次々と運ばれてきます。しばらく食事に集中させてくれないかな、今は話しかけてほしくないな、まだ食事を味わいながらスペイン語を聴いたり話したりするほどの力がないんだよな、と内心祈っていましたが、その思考が読まれているのかと思うくらい、新しい料理に手をつけようとする絶妙なタイミングでこちらに話題が飛んできて、修行のような食事時間でした。
それでも久々に食べる白身魚のムニエルは飛び上がりそうになるくらい美味しかったです。
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サマカのすべての商品パッケージに使われているフォントを前々から素敵だと思っていたのですが、これは全てオーナーの直筆だと分かったことが、修行の一番の収穫です。
昼食が終わったあと、「とても美味しかったです」とお礼を言うと、くしゃっと笑ってくださったのが、アルベルトさんの最初で最後の笑顔でした。
午後は、織物と陶芸工房へ見学へ行きました。
織物工場では、職人さんから農場で収穫した綿を糸にする過程や、織り機の使い方について教えてもらいました。
サマカでは白、赤、青、茶色の綿が収穫できるそうで、白色の綿を染めるのではなく、綿が本来持つ色を生かしています。こちらで作られた製品はリマのサマカショップで並んでいます。
ちなみに、オーナーはここで作られた写真にあるサンダルを履いていました。
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陶芸工房では、農場内にある川から土をとってくるところからはじめ、ろくろで成形し、焼くところまで一通りの工程を、5日間かけて無料で学ぶことができます。
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そうこうするうち終業時間がきました。
これから勉強会が始まるというので食堂に向かいますと、オーナーみずからの詩の朗読会が行われていました。参加者はここで働く皆さんです。
最初はオーナーがコカの葉を噛みながら、コカの葉がテーマの詩を朗読していましたが、私は十分に理解できていないのに、オーナーからはバンバン質問が飛んできます。またしても修行のような1時間でした。
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修行が終わった後に、夕食をいただき今回のプログラムは終了しました。
私は丸一日見学させてもらっただけでしたが、少なくとも4、5日滞在するのが当たり前なのだそうです。「そうでないとコミュニケーションができない! 」とオーナーが仰っていました。
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牧歌的な生活を体験し、知の交換を行い、自分と向き合える時間になるはずが、私にはドキドキハラハラの一日でした。
それでは今回はこのあたりでアディオース!
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〈プロフィール〉
山本粧子(やまもと・しょうこ)
神戸市生まれ。大阪教育大学教育学部教養学科芸術専攻芸術学コース卒業。卒業後、国境の街に興味があったことと、中学生の頃から目指していた宝塚歌劇団の演出家になる夢を叶える修行のため、フランスのストラスブールに2年ほど滞在しながら、ヨーロッパの美術館や劇場を巡る。残念ながら宝塚歌劇団の演出家試験には落ち、イベントデザイン会社で7年半、ディレクターとして国内外のイベントに携わる。また、大学時代より人の顔をモチーフに油絵を描いており「人間とはなんだ」というタイトルで兵庫県立美術館原田の森ギャラリーや神戸アートビレッジセンターにて個展を開催。趣味は、旅行の計画を立てること。2016年からは韓国ドラマも欠かさず見ている。2023年秋より南米ペルーのイカ州パラカスに海外協力隊として滞在し、ペルーとジャガイモと人間について発信していく予定。