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山本粧子の Hola! ジャガイモ人間~ペルーからコンニチワ~┃第27回

ブエノスディアス! 山本粧子です。
前回に引き続き、ペルーから足を伸ばしてアルゼンチンとブラジルのミュージアムを巡る旅行記、最終回をお送りします。

最終回は、ブラジルの中でも日本ではまだ知名度が低めであろうミナスジェライス州の州都・ベロオリゾンテについて書きたいと思います。
私のベロオリゾンテ訪問の目的は、世界最大の野外美術館「イニョチン(Instituto Inhotim)」です。南米へ行くなら、ここへ行かなきゃ日本へ帰れぬ! と思っていたほど、なんとしても行きたかった場所なのです。

約3週間にもわたる海外旅行の最終目的地として設定していたため、若干疲れ気味、エネルギー満タン状態ではありませんでしたが、最後の力を振り絞り、歩き回って見てきました。

美しい地平線の街へ

ベロオリゾンテはブラジルの南東部にあり、パリやワシントンなどの近代的な都市からインスピレーションを得て、19世紀のアメリカとヨーロッパの伝統を融合させるというコンセプトで作られた街です。
1900年には1万3000人しかいなかった街が、現在は約250万人もの人口を抱えるブラジル主要都市のひとつになっていることを知った瞬間、驚愕しました。
「Belo Horizonte(ベロオリゾンテ)」はポルトガル語で beautiful horizon(美しい地平線)という意味だそうです。

サンパウロから午前10時発の飛行機でベロオリゾンテへ向かいました。
飛行時間は85分。約580キロ離れています。神戸から東京くらいの距離ですから、バスだと9時間はかかるようです。

車内から見た街の様子。巨大なウォールアート!

市場で爆買い

ベロオリゾンテの空港に到着したあとはお腹がぺこぺこだったので、まずは腹ごしらえ。街の中心部にあり、1929年から続く巨大な中央市場へご飯を探しに繰り出しました。

中央市場の入り口
市場の中の食堂街。早くも賑わっています。
煮豆、ケール炒め、茹でたジャガイモと牛肉がスパゲティの上にかかった
本日のワンプレート定食を食べました。

こちらの市場には約400店舗が集結し、食堂をはじめ八百屋や肉屋などの食料品はもちろん、ペット用品や時計、特産品など様々なお店が軒を連ねていました。

ベロオリゾンテで手作りされている帽子
ありとあらゆるチリソース!! 陳列もきれい。

特に、スパイスやナッツの量り売りのお店にハマってしまい、予想以上の滞在時間。この日しかベロオリゾンテ観光はできないのに、時間を忘れて大量の食料を買い込みました。
特にスパイスは、ペルーに帰ったらスパイスカレーの研究をしようと考えていたので、旅の終わりで(というか最初から)荷物はいっぱいでもう入るところがない状態にもかかわらず、一心不乱に物色し買ってしまいました。

スパイスの量り売り。好きなスパイスを好きなだけ買えます。
こちらはお菓子の量り売り。夢中で袋に詰めて、会計のとき目ん玉飛び出るアレですね…。

1938年から続くという有名レモネード店もおすすめ。
 必死で買い物をした喉の渇きを癒しました。

ただ、私はせっかくだからと、ジンジャエールとレモネードとお店のオリジナルドリンクをすべてミックスしてもらったところ、何がなんだかよくわからない味になってしまいました。
単品がおすすめです・笑

 

パンプーリャの湖と近代建築群

食欲と買い物欲を満たしたあとは、ベロオリゾンテ中心部から8.5キロ離れたところに位置する世界文化遺産「パンプーリャの近代建築群」を見に行きました。

1940年に当時の市長ジュセリーノ・クビチェクの都市開発計画によって作られた人造湖・パンプーリャ湖の周辺に、ブラジルが誇る世界的有名建築家・オスカー・ニーマイヤーが若かりし頃に設計したモダニズム建築群があるのです。これは見に行かないわけにはいきません。
ブラジルに来たからには、ひとつくらいはオスカー・ニーマイヤー建築の「曲線」を見て帰りたいですからね。

ちなみにこのジュセリーノ・クビチェク氏というのは、のちにブラジル大統領になり、1960年にリオデジャネイロからブラジリアへの首都移転をおこなった人物でもあります。

パンプーリャ湖畔はとても穏やかな雰囲気。

私の旅のモットーは「とにかく歩いて、その場所を感じてみる」ことなので、この湖もまずはぐるっと歩いてみました。ブラジルでは盗難の可能性があるからスマホは不用意に出さないよう、いろいろな方々から強く言われていたのですが、ここはとても安全な気がしました。

ウォーキングしているお年寄り、ランニングするカップル、芝生に座って語り合う人々、鳥もたくさん鳴いていて、時間の流れがとてもゆっくりでした。

湖にゆっくりと陽が沈んでゆきます。

周辺には、オスカー・ニーマイヤーが設計した建築物が林立しています。

特に、サンフランシスコ・デ・アシス教会は、1943年当時の一般的な教会建築とは全く違った様式だったため様々な議論を巻き起こし、取り壊しさえ検討されたそうですが、太陽の光が降り注いだときの青と白で描かれたフレスコ画がとても美しく、その曲線美にうっとりしてしまいました。

優美な曲線を描く、サンフランシスコ・デ・アシス教会。
教会の鐘楼も観たことのないデザインです。

湖の周りをぐるっと囲む木々の緑色と教会の青色、そして太陽の光が湖の水面に反射し、キラキラ光る水面の上を、鳥がぴょんぴょんと跳ねているのです。ずっと居たくなる空間がそこには存在していました。

いつまでも見ていたい光景でした。

 

美術館×植物園「イニョチン」

翌日は早起きして、最終目的地「イニョチン」へタクシーで向かいました。イニョチンはベロオリゾンテ市から60キロほど離れたブルマジーニョ市にあります。

イチョニンに到着!

現代美術館であり植物園でもある「イニョチン」は、もともとは、ブラジルの鉄鋼業の実業家ベルナルド・パスのアートコレクションを保管するために設立された非公開の私立美術館で、のちに非営利法人化され、2006年に一般公開がスタートしました。
140ヘクタールの緑豊かな入場可能エリアの中には、全世界から集められた4300以上の希少な植物が生息しています。
美術館としては43か国280人以上のアーティストによる約1860点の作品コレクションをもち、常設展と企画展が展開されています。

池の中のアート作品。人工物なのか自然が作り出したものなのか、境界が融け合うようです。

おもしろいのは、植物園の中に大きな美術館の建物がひとつあるのではなくて、植物園の中に作品やギャラリーが点々と存在しているというところです!
鳥たちのさえずる声に心癒されながら広大な森の中を歩いていくと、現代美術作品が現れます。鑑賞しては、次の作品までまた歩く。来館者はそうして美術巡りの散歩を続けるのです。

入口のチケットカウンター。

入口で、どこに何の作品が展示されているかを示したマップをもらえます。
事前に手に入れたかったのに、インターネットで検索しても手に入らなかった貴重なものです。
この地図と、場内の案内サインをヒントに作品を探します。

ホントは事前に入手して、作戦を練りたかったマップ。

 広大な空間に、大量の作品数。私に与えられた時間はたったの2日間。
この限りある時間をどう使おうか悩んだ末、今回はとにかくゆっくり味わうのではなく、さらっとでもいいからすべての作品を一通りみるというスタイルで回りました(またいずれ来ることができるだろうと信じて)。

日本を代表する世界的アーティスト・草間彌生氏や、金沢21世紀美術館のカラーアクティヴィティ・ハウスで有名なオラファー・エリアソン氏などの巨大作品が、だだっ広い自然の中で見れるのですから、長旅で疲れた身体に鞭を打ってでも走り切るしかありませんでした。

ただ、サンパウロの大都会もそうでしたが、ブラジルのダイナミックさというか、デカさの次元が桁違いであるところには驚くばかりです。
まだそこにいるのに、もう次に来るのはいつにしようかと考えてしまうような、そんな場所です。

森の中の美術めぐり

初日は入口から最も遠いところを制覇するために、カート利用券を購入して移動しました。園内があまりにも広大なので、有料ですがこのようなカートで遠方まで運んでくれるサービスがあるのです。

スタッフさんの運転サービスもついていて快適!

といっても、このカートですべての道を移動できるわけではなく、決まったルートでしか運航していないため、それ以外の場所では一生懸命歩かなければなりません。

まあ、歩くのも楽しいんですけどね!
でかっ
園内になっている果物は、自由にもいで食べてもいいんですって!

 私はそんなに景観に関心がある方ではないのですが、植物園内の演出方法が非常にオシャレなんですよね。
ただ木が植わっていたり、花が咲いてたり、池があったり、芝生が生えているわけではなくて、空間演出がとても細かく考えられて、作り上げられている場所だというのが、歩いているとわかるのです。これこそがランドスケープデザインというやつだなと思いました。

たとえば、草間彌生ギャラリーの横にあったトイレ。
屋外にあり、一部が露天で、超開放的でした。チョウチョと一緒にトイレに入ったのは生まれて初めての経験でした。

文字通り「草を摘む」空間…!(と言っても、採集はNGです)
木の下の木のベンチ!
園内にはプールも。ここは南国風のイメージなのかな?
自然の造形もアート作品のように見えてくるからふしぎ。

ちなみに、熱中症対策のためか、作品と作品とがキロ単位で離れていたりするからか、場内にはこのように、無料でお水をいただけるウォーターサーバーがあらゆるところに設置してありました。
自動販売機ではなく、無料の給水所を設置しているところが粋な計らいだと思いませんか? キンキンに冷えた水は最高に美味しかったです。

たすかる~~~!!!



イニョチンで観た作品は多すぎて紹介しきれないのですが、ひとつだけ、エリオ・オイチシカ(Hélio Oiticica)のお気に入りの作品を紹介します。

Invenção da Cor, Penetrável Magic Square #5 , De Luxe(1977)

こちらは、エリオ・オイチシカ氏が亡くなった後、彼が残した計画書の指示に基づいて建てられたインスタレーション作品だそうです。私は、見た瞬間、ここに住みたい、いつかこんな家を建てたいと叫んでいました。

運よく晴れの日と雨の日、朝と夕方、と異なる条件でこの作品を見ることができたのですが、見る瞬間によって見せる顔が違うんです。
季節や天気によって、変化していく。自然光の存在がこの作品を完成させるように思えました。

そう思いながらタイトルに目をやると、「色の発明」と書いてあるではありませんか。色は光によって生まれるもの。なんだか作家と通じ合えた気がしてちょっと嬉しかったです。

雨の日の同作品。また別の色が生まれています。


***

とにかく、すべての作品を制覇するためには体力と時間が必要ですが、美術が好きな人もそうでない人も、植物が好きな人もそうでない人も、素晴らしい最高の時間が過ごせる場所だと思います。
イニョチンに足を踏み入れた瞬間、未知なる世界の広がりを感じ、虜になること間違いなしです。

次回はもう少しゆったりと、余裕を持って、お茶でも飲みながらぼーっと自然と会話しに行きたいと心に決めています。
次の旅行先どこ行こうかなと悩んでいる方は、是非こちらのブラジルのベロオリゾンテをご検討ください。

 それでは今回はこのあたりでアディオース!

~編集Oの選ぶ今週の一枚、
荷物の超過金を払いたくないばかりに飛行機移動のたびにすべての服を着る筆者~

〈プロフィール〉
山本粧子(やまもと・しょうこ)
神戸市生まれ。大阪教育大学教育学部教養学科芸術専攻芸術学コース卒業。卒業後、国境の街に興味があったことと、中学生の頃から目指していた宝塚歌劇団の演出家になる夢を叶える修行のため、フランスのストラスブールに2年ほど滞在しながら、ヨーロッパの美術館や劇場を巡る。残念ながら宝塚歌劇団の演出家試験には落ち、イベントデザイン会社で7年半、ディレクターとして国内外のイベントに携わる。また、大学時代より人の顔をモチーフに油絵を描いており「人間とはなんだ」というタイトルで兵庫県立美術館原田の森ギャラリーや神戸アートビレッジセンターにて個展を開催。趣味は、旅行の計画を立てること。2016年からは韓国ドラマも欠かさず見ている。2023年秋より南米ペルーのイカ州パラカスに海外協力隊として滞在し、ペルーとジャガイモと人間について発信していく予定。