見出し画像

山本粧子の Hola! ジャガイモ人間~ペルーからコンニチワ~┃ 第20回

ブエノスディアス!山本粧子です。

最近、私が住むイカ州では頻繁に地震が起きています。私は気がつかなかったのですが、今朝もAM5時ごろマグニチュード5.0の地震がありました。幸い、人や建物等への被害はないようです。
ここイカ州では2007年にマグニチュード8.0の大地震があり、今でも街中には、その時に崩壊してしまった建物が修復されずそのまま残っていたりもします。私が働くパラカスミュージアムも、2007年の地震によって建て直しを余儀なくされました。
2度と同じようなことがここで起きないことを祈りますが、ペルーも日本も地震が多いということは共通しているため、ペルーから神戸へ防災研修のために人を派遣したり、JICA等からの技術協力を得てペルー地球物理庁(Instituto Geofísico del Perú)の緊急地震警報システムを強化したりもしているようです。こちらへ来てから、さまざまな形の国際交流・協力の形があるんだなあと学ぶことが多くあります。

めくるめくジャガイモ生活

 さて、「山本粧子の Hola! ジャガイモ人間~ペルーからコンニチワ~」記念すべき20回目は、ずっとお伝えしたいなと思っていながら、なかなか伝え方が難しいなと思っていたことを書きます。
それは、私がここペルーの地でどれだけ多くのジャガイモを食べているのか!? ということです。
種類的にはまだまだなのですが、とにかく量だけは呆れるほど食べているのです。

渡航したばかりの頃は、ペルーのジャガイモの味は濃いな、美味しいな、種類によって口当たりが全く違うな、と毎回感動しながら食べていたのですが、最近ではもはやペルーのジャガイモを食しすぎて、日本のジャガイモの味を忘れてしまったくらいです。空気を吸うようにジャガイモを食べています。
振り返ってみると、日本ではこれほど頻繁にジャガイモを食べることはなかったんじゃないかと思います。採れるジャガイモの種類が多いと、自ずと料理にジャガイモを使う機会も増えるということなのでしょうか。

そういうわけで今回は、私が感じたペルーのジャガイモ文化の一面をお届けします。

 

①特別な時にはかならず食べる

私の周りのペルー人の方々はお誕生日はもちろん、父の日、母の日、考古学者の日など、あらゆるお祝いの日をかならず、皆で一緒に食事を囲んでお祝いします。
もちろん職場であるパラカスミュージアムでもそうです。誕生日の直後だった私の初出勤日にさえサプライズでお祝いをしてくれたように、パラカスミュージアムでは、ここで働く全ての人のお誕生日に、少し豪華な昼食とホールケーキを準備して、みんなで一緒に食べながらお祝いします。
そんな大切なシーンに、必ず付け合えわせとして登場するのがジャガイモです。蒸しジャガイモ、ジャガイモのピューレ、ジャガイモのフライなどなど、あらゆる形で登場します。

鶏もも煮込みとごはん、大量のジャガイモピューレ
鶏の手羽先とごはん、蒸しジャガイモ。
組み合わせがだいたい一緒である…。

さらに、先日ペルーの国民的バンド「グルーポ・シンコ(Grupo5)」のコンサートへ行ったときに目撃したのですが、観客がみんな片手に「サルチパパ(Salchipapa、山盛りのフライドポテトとソーセージの上にマヨネーズやケチャップ、マスタード、唐辛子ソースがかかったファーストフード)を持っているのです。

サルチパパ

 コンサートの前後はもちろん、南米のリズミカルな音楽・クンビアやメレンゲの演奏が始まってからも、モグモグしながら聴いている人もたくさんいました。
私もこれまで公演の幕間に何かを食べたりしたことはありますが、コンサートの真っ只中に、曲を聴きながらというのは初めての経験だったのでちょっと衝撃的でした。
しかも普通なら、コンサートの間は黙って演奏を聴くものだと思うのですが(合唱していいパートや、コール&レスポンスはあったとしても)、ここでは気分がのってくると観客も歌ったり、踊ったりするのです!
ペルーにおいてコンサートは、ただ音楽を聴きに行くイベントではなく、食事とともに音楽を楽しみ、全身で感じ、一緒に歌い踊るところなんだ。そして、ここでもやはりジャガイモが登場するのか…!
もちろん、私も郷に入っては郷に従えで、ペルー生まれのファーストフードであるサルチパパとともに、コンサートを堪能しました。 

コンサートの様子。歌って踊るのはともかく、この雰囲気の中でジャガイモ食べるのはスゴイ・笑

祝いの席でもジャガイモ、コンサート会場でもジャガイモ。

日常の食事にも当然ジャガイモは登場するので、ハレの日もケの日も、とにかくジャガイモを食べる頻度が高いのです。

 (ちなみに、どのコンサートでも毎回こうというわけではなく、たとえばクラシックのコンサートなどでは飲食せず、黙って聴くそうです)

②1食分がデカい

1回の食事に使うジャガイモ量が多い、ということもポイントです。
その代表格が、日本のおおよそ5倍の量のジャガイモを使った特大コロッケ「パパ・レジェーナ(Papa rellena)」です。Papaは「ジャガイモ」、rellenaは「いっぱい詰めた」という意味です。

写真だと調理前のジャガイモにも見えないこともないパパ・レジェーナ

家庭によってもお店によってもレシピが多少異なるようですが、基本的にミンチや細かく刻んだお野菜(オリーブがたくさん入っていることも)をスパイシーな香辛料で炒めたものとゆで卵をジャガイモを潰したもので包み、それを卵液にくぐらせ、ジャガイモの粉をまぶして大量の油で揚げます。

断面写真がないのですが、つぶしたジャガイモの中に、
野菜と一緒に炒めたミンチやゆで卵が入っています。
手と比べると、この大きさがわかってもらえるかと思います!

肉と卵とジャガイモの巨大な塊を油で揚げた罪深きコロッケなのですが、大人の握りこぶし2つ分くらいのこの「大きさ」が私は大好きなんです。
2個も食べるとお腹がはち切れそうになるこの感じ。ペルーが好きなポイントです。
パパ・レジェーナに限らず、なんでも食事の量が多いのです。中でもジャガイモはこのボリューム増に常に貢献しています。

日本のコロッケと違い、パン粉をかけずに揚げるのもなかなかオツです。


③ジャガイモの実力の引き出し方がハンパない

最後は、現時点でジャガイモの一番美味しい食べ方はこれなんじゃないか? と私が思っている、「パチャマンカ(Pachamanca)」をご紹介します。

家庭で作る簡易版パチャマンカ。

インカ帝国の時代から食されていたという「パチャマンカ」は、ケチュア語では「土」を意味するpachaと「壺」を意味するmancaで、「土の壺」という意味である一方、アイマラ語ではmancaは「食べ物」という意味するため、「大地からの食べ物」という意味も持つそうです。
お肉や、ジャガイモ、そら豆、トウモロコシなどのお野菜を焼いた石で覆い、土の中に埋めて、時間をかけて焼き蒸しにしていく料理です(現在は、ご家庭のお鍋でなんちゃってパチャマンカもよく作られているようです)。
大地からの食べ物という意味がとてもしっくりきます。大地からの自然の恵みを一番素晴らしく美味しい形で味わう、そんな料理です。

その中でも特に、ジャガイモが絶品なのです。塩や唐辛子ソースをかけていただくのですが、ジャガイモの甘さやホクホクした感じがたまらないのです。ジャガイモの一番美味しい食べ方はこれなんじゃないか? と思っています。
その土地によって採れる野菜や品種も違えば、使用するお肉や調味料も変わるため、料理名は同じでも地域によって少しずつ異なるパチャマンカが堪能できるそうです。

ペルーはジャガイモ原産国の名に恥じず、さまざまな品種のジャガイモで多種多様な料理が作られている一方で、蒸すだけというきわめてシンプルで、ジャガイモの持つ最大限のポテンシャルを引き出す料理もあるのです。ジャガイモを極限まで美味しく食べようという情熱が伝わってくるようです。

……と、ここまで語っておきながら、実は私は家庭で作るなんちゃってパチャマンカしか体験したことがないので、近いうちに本物の焚き火を囲みながら食してみたいと思っています。
家庭の鍋で作る簡易版でさえジャガイモのもっとも美味しい食べ方だ! と感じるこの料理、伝統的な作り方で食べたらどんな事になってしまうのか、楽しみです。

***

さて、今回は頻度、量、質の3つの視点から、ペルーにおけるジャガイモ体験の印象をお届けしました。そろそろジャガイモが食べたくなってきましたので、今回はこのあたりでアディオ~ス!

~編集Oの選ぶ今週の一枚~


〈プロフィール〉
山本粧子(やまもと・しょうこ)
神戸市生まれ。大阪教育大学教育学部教養学科芸術専攻芸術学コース卒業。卒業後、国境の街に興味があったことと、中学生の頃から目指していた宝塚歌劇団の演出家になる夢を叶える修行のため、フランスのストラスブールに2年ほど滞在しながら、ヨーロッパの美術館や劇場を巡る。残念ながら宝塚歌劇団の演出家試験には落ち、イベントデザイン会社で7年半、ディレクターとして国内外のイベントに携わる。また、大学時代より人の顔をモチーフに油絵を描いており「人間とはなんだ」というタイトルで兵庫県立美術館原田の森ギャラリーや神戸アートビレッジセンターにて個展を開催。趣味は、旅行の計画を立てること。2016年からは韓国ドラマも欠かさず見ている。2023年秋より南米ペルーのイカ州パラカスに海外協力隊として滞在し、ペルーとジャガイモと人間について発信していく予定。