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オダサク探訪④「それでも私は行く」の寺町通り
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前回は木屋町通りを通り、三条河原町の「キャバレー歌舞伎」跡を探して六角通りを入っていきました。そこを抜けると寺町通りです。四条~三条河原町周辺の代表的な商店街で、多くの人でにぎわっています。
小説内では、「そういえば三高の山吹先生に家庭教師のバイト先を頼んでたな」と思い出した鶴雄くんが、先生の出かけ先だという世界文学社へ向かうシーンで登場します。
三条名店商店街の書店「そろばん屋」(ここでは紹介しませんでしたが、仏具の吉田源之丞老舗さんの隣の焼肉屋さんが跡地だそうです)を出た鶴雄くんは、牛肉屋「三嶋亭」の角を折れて寺町通りに入っていきます。
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その部分の本文を少し読んでみましょう。
「三島亭」は古い牛肉店で、戦争前は三高の学生たちがよくこの店でコンパ(クラス会のこと)を開いて、
「紅燃ゆる丘の花……」
という校歌やデカンショ節をうたいながら、牛飲馬食した。当時は会費は一円か二円で済んだという。想えば昔なつかしい青春の豪華な夢であるが、しかし、鶴雄が学校へはいった時は、もうコンパなぞ開こうと思っても開けず、「三島亭」のコンパも、鶴雄にとってはもはや想像も出来ない、古めかしい伝説であった。
そんなことを想い出しながら、鶴雄は闇市がズラリと並んだ中に建っている錦ビルの前まで来た。
敗戦直後の小説ですでに「古い牛肉店」とありますから、かなり老舗のお店なんですね。明治4年創業だそう。
貨幣価値が違うとはいえ、昭和初期に1円、2円(企業物価指数や白米価格では630~810倍程度だそうですが、初任給額からみた感覚的には4000円くらいでしょうか)で牛飲馬食とはなかなかリーズナブル。
しかしすでに戦争に突入していたであろう鶴雄くん入学の時代には、そもそもコンパ自体が開ける雰囲気ではなかったようです。
鶴雄くんよろしく、そんなことを考えながら錦小路通りへ至ります。
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京都市内の観光地としても有名な錦市場。寺町通りから高倉通りまで、東西約390メートルの通りに、生鮮食品や飲食店、土産物店などがひしめいています。
世界文学社は実在した出版社で、当時は作品にあるとおり、京都市中京区寺町通錦角の錦ビル4階にありました。ということは、
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市場の入口にあるUrban Researchか、ABC-MARTになっているところがそのあたりでしょうか。世界文学社の所在地を「寺町錦上ル」としている資料もあったので、アーバンリサーチ側かもしれません。
この世界文学社で鶴雄くんは、三高の(中退した)先輩であり、「軽佻浮薄な」小説家・小田策之助と出会うのです。
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更新がまちまちのため、連載が終わる前に朗読劇公演を迎えてしまいそうですが(しかも『夜光虫』のほうはまだ1回も更新できず…)、いずれにしても特典本の通販開始は10月以降になる見込みですし、この連載は公演後もえっちらおっちら続けますので、お付き合いいただければ幸いです。
朗読劇の現地チケットは会場にて当日券も発行いたします。また、アーカイブ&特典映像つきのWEB配信チケットも購入可能ですので、ぜひご観劇くださいませ!
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