あなたの会社をソフトウェア・ファーストに変える10のクイズ
2019年10月10日に、私、及川卓也の著書『ソフトウェア・ファースト あらゆるビジネスを一変させる最強戦略』が発売となりました。このnoteでは、出版の経緯や書籍づくりの裏話、発刊時に削った原稿の公開など、制作にまつわるさまざまな情報を発信していきます。
こんにちは、及川です。10月10日に、私の著書『ソフトウェア・ファースト』が無事に発売となりました。
おかげさまでたくさんの事前予約をいただき、発売前に重版をすることができました。ご予約いただいた皆さんに御礼申し上げます。
ただ、本当の「評価」はこれから皆さんにご一読いただいてからだと思っていますし、私の記した内容がIT活用の唯一解ではないことも自覚しています。中には異議を唱える方もいらっしゃるかもしれません。
私としては、この書籍が日本企業のデジタル化を促進するきっかけになってくれればと思っているので、異論・反論も含めてぜひ読後の感想をSNSやブログに投稿していただけると幸いです。誰よりも私自身が、それらの声から学びたいと思っています。
さて、まだ購入を検討中という方々に向けて、今回のnoteでは本書の「はじめに」に記した10のクイズをご紹介します。私が考える「ソフトウェア・ファースト」とはどんなものか? を読者の方々に知っていただくために考えたクイズです。
Q. あなたの会社をソフトウェア・ファーストな組織に変えるため、取り組むべきことは次のうちどれでしょう?
(1)とりあえずソフトウェアエンジニアを採用する
(2)ソフトウェアエンジニア採用のために破格の条件を提示する
(3)ソフトウェアエンジニアのやりたいように開発させる
(4)新規事業のアイデアが出たらすぐにエンジニアが開発をスタートする
(5)デザイン思考やリーン・スタートアップという方法論を取り入れる
(6)アジャイル開発(※1)を実践する
(7)未知の技術を使って障害を起こしたくないので、枯れた技術をあえて用いる
(8)将来の拡張性や保守性を考え、マイクロサービスアーキテクチャ(※2)を採用する
(9)リファクタリング(※3)が必要とエンジニアに言われたので、3カ月間リファクタリングのための期間を設ける
(10)できるだけ人間のオペレーションを排除する
※1:ユーザーが求めるものを検証しながら、ソフトウェアを素早く開発・改善していくための手法の総称
※2:機能ごとにサービスを分割して開発や運用を行うアーキテクチャ(詳細説明は本書の巻末にある「付録」にて)
※3:コンピュータープログラムやソフトウェアの内部構造を、外部から見た動作を変えずに整理すること
皆さんは、どれが正解だと思われたでしょうか?
私の考えでは「全部間違い」です。えっと思われる方も多いと思います。正確に言うと、どれも一側面としては正しいものの、条件が足りません。
例えば(1)の「とりあえずソフトウェアエンジニアを採用する」というのは悪くはないのですが、ソフトウェアエンジニアに期待する要件も確定していないまま採用するのは問題がありますし、受け入れ体制などソフトウェアエンジニアが活躍できる環境づくりを事前に、もしくは並行して進める必要があります。
(3)や(4)も、事業のデジタル化を考えると当然のように感じる人か多いかもしれません。しかし、事業やプロダクトのアイデアを検証するのに、必ずしも動くソフトウェアが必要なわけではありません。適切なタイミングで動くものを作る必要はありますが、アイデアをすぐにソフトウェアという形にするのが目的化してしまってはいけません。最初に考えるべきなのは「どんなユーザーの」「どんな課題を」「どんな手段を用いて解消するか」です。
実際に、本書のコラム作成時に取材させてもらったエムスリーさんは、新規事業の立ち上げ当初はあえて本格的にエンジニアをアサインせずに議論するそうです(その理由については、ぜひ本書でご確認ください)。
他にも、(5)や(6)はあくまでもプロダクト開発の手法であり、その手法を使ったからといって目的が達成できるわけではありません。試行錯誤や検討の結果として、アジャイル開発やリーン・スタートアップの手法を用いるのは良いと思いますが、手段から入ってしまってはいけません。
本当の「ソフトウェア・ファースト」とは何か?
では、どのような条件がそろえば、あなたの会社をソフトウェア・ファーストに変えることができるのでしょう。
本書が示すソフトウェア・ファーストとは、IT(とそれを構成するソフトウェア)活用を核として事業やプロダクト開発を進めていく考え方です。決してソフトウェアがすべてということではありません。ソフトウェアは一つの手段です。
とはいえ皆さんもすでにお気付きのように、使い方次第では既存の産業構造や製品・サービスのあり方を根底から覆すような破壊力を持っています。ソフトウェアの力だけでは良いプロダクトは生まれませんが、凄まじい破壊力を持つソフトウェアの特徴を理解し、プロダクトや事業開発のすべてを変えていくことが、これからの企業の競争力を左右します。
そして、企業がソフトウェア・ファーストを実践するには、ソフトウェア技術を理解し、事業に活用できる人材が必要です。このような人材を育て、活かせる組織が必要です。さらには、失敗することを前提に、作っては壊すことを良しとする文化も大切です。
もっと言うと、ソフトウェア・ファーストで最も大事なことは、変化しないものを理解することです。ソフトウェア技術は日々進化します。ソフトウェアを活用したビジネスモデルも変化し続けます。変わらないもの――それはビジョンやミッションであり、それに関連する社会課題や価値観です。目指す世界観に対して、ソフトウェアという変化し続ける手段を用いる人間に必要なのは、成し遂げようとする執念であり、成し遂げるために考えること、考え続けることです。
つまり、ソフトウェア・ファーストとはITを事業の武器にするために、あらゆる企業活動を変革する方法論なのです。
本書では、これらすべてを実践していくための手法やアプローチ方法を私なりにまとめました。自社のデジタル化やプロダクト開発に少しでも違和感を持っている方や、テクノロジーを駆使した事業変革に苦心しているという方は、ぜひ参考にしていただければと思っています。