スタートアップの「守破離」を実践し続けた「これまで」と「これから」
創業、ピボットする中で考えていたこと、現場にリスペクトを持って寄り添いながらプロダクトを作る中で見えてきたもの―そして今後の展望について聞いた。
プロフィール
SoftRoidの「これまで」
【創業―ロボットエンジニア集団SoftRoid】
ーーこれまでの経緯について教えてください。ロボットエンジニアが集まって立ち上げたのがSoftRoidですね。
はい。私自身は、大学院時代まではソフトロボットの研究開発に携わっていました。当時は、段差など不整地の凹凸に応じて接地面の形状を変形させて移動するロボットを研究していました。そこで得た知見をベースに、慶應大学発のロボットスタートアップでCTOを経験し、その後大学時代の研究仲間とSoftRoidを立ち上げました。
SoftRoid立ち上げ当初に構想していたのは、階段を登れるソフトロボットの特性を、ラストワンマイル物流や商業施設における警備巡回、建設現場での資材運搬などに活用するロボット事業。それぞれ2週間から1ヶ月でピボットしました。
【ピボット―ロボット事業を止める展開へ】
ーー非常に短いサイクルでのピボットです。その決め手になったのは?
現場の声です。想定ユーザのヒアリングを行うとそこにニーズがあるかどうかが分かるので、たとえば商業施設の警備についてニーズを探るべく、大手デベロッパーの方から地方の警備会社、実際に現場で働く警備員の方など、あらゆるポジションの方にヒアリングを重ねました。そしてその結果「あまり困っていなさそうだ」と分かりました。
そこで思ったのは、エレベーター連携なども進んでいる中で後発組である私たちが階段を登れるロボットを開発したところで、どれだけ戦っていけるのだろうか?ということ。「バーニングニーズ」―すなわち「頭に火がついて今すぐにでも消化しないとマズイ」くらい明確に渇望されているニーズがなければ、なかなか勝機はないだろうと考えました。
ーー現場の声が、「ロボットエンジニア集団がロボット事業を止める」という展開につながっていきます。この時期、ほかにも気づいたことがあったとか。
サービス展開して収益を上げる前からエンジニアリングに集中しがちになっていることに気づきました。ロボットを作るとなると、開発にも開発後のアップデートにも時間がそれなりにかかるのに、作りたいものを作るだけでは収益にはつながらない。収益につながらなければ、事業としては成立しません。
私が幼い頃から親しんできた剣道の世界には「守・破・離」というプロセスがあります。「守・破・離」とは、修行における段階を示したもの。「守」では師匠や流派からの教えや型を忠実に守り、確実に身に付ける。「破」では「守」で身につけたものを土台に、他の流派や教えに触れて発展させる。「離」の段階に達すると、新しく独自のものを確立させるようになります。
恥ずかしいことに、当時の私たちはこの「守」すらない「型なし」状態でした。守るべき教えもないのに、何も考えずにお金を使ったり、人を雇ってみたり、作りたいものを作ってみたりしていたというわけです。よく言われる「初めて起業した当人たちは何をしているのか分からない」状況に陥っていることに気づいたんです。
【正しいスタートアップ―「スケールしないこと」をしよう】
ーー気づきを基に、「正しいスタートアップ」へと進んでいきます。
「地道に愚直に、スタートアップのすべきことを、教えに習い、実行しよう」。そう決断した私たちは、東京大学のアクセラレータープログラム「FoundX」に参加しました。そして、そこでの学びを地道に愚直に体現していきます。
たとえば“Startup Playbook(Sam Altman著)”の中には、“Do thing that do not scale.”と書かれているんですが、これは直訳すれば、「スケールしないことをしましょう」ということ。「スケールしないこと」の内容は、スタートアップとしては至極当たり前のことです。現場に行くこと、ヒアリングをすること、テレアポすること、FAXを送ること、セールスアニマルになること、恥ずかしいバージョンでもとにかくローンチすること、骨が折れる手作業を続けること…。そこで、私たちも、ソフトロボットの活用現場になりうる空間を全て書き出し、ヒアリングを重ね、可能性を見出していきました。
ーー結果、辿り着いたのが、建設現場だったということですね。
はい。それからは、建設現場における「スケールしないこと」を実践していきました。
メンバーそれぞれが建設現場の日雇いバイトをしたり、建設現場にある仮設事務所に飛び込み営業をかけたり、数百件のテレアポを行ったり…。当時開発していたデータ測量のソフトロボットの代わりになって、私たちが人力で納品したこともありました。ほかにも、大きめの会社には名刺と菓子折りだけ置いていくなど、できることは全てやり尽くしました。
ーー当時、現場監督もされていたとか。
朝礼やラジオ体操から参加して、だいたい7時半から19時半くらいまで現場監督の仕事をして、その後開発に向かう。そんな生活をしていました。
現場で驚いたのは、「こんなに手作りなんだ」ということ。たとえば、建設現場では、工場で作られたものを現場で切り出したりしながら、定規と鉛筆で測りながら作っていくんです。基準点を作ることを「墨を出す」と表現するんですが、こんな感じで、かなりアナログなんです。これは、現場を体験したからこそ得られた新鮮な驚きだったかなと思います。こんなにも巨大な構造物を作るのに、こんなにアナログで、こんなに手作業でやっているんだ…と、びっくりしました。自動車などの工業製品との対比ですよね。一点ものの巨大なものを屋外で作る難しさを実感しました。
ーーここから本格的に、「ロボット事業を止める」という展開につながっていきます。
活用空間を建設現場に絞り込み、ヒアリングを重ねた結果、「まずはユーザターゲットを変えよう」ということになりました。
変更後のターゲットは、工務店。新築戸建やリフォームなどを請け負う工務店の場合、一人の現場監督が6〜10現場を担当します。現場には仮設事務所もなく、移動時間削減のためにキャスターのついた点滴台にペットカメラを取り付けてなんとかできないかと試行錯誤している方もいました。現場監督の業務過多は深刻で、工務店における現場のデータ化は、まさしく「バーニングニーズ」そのものでした。
同時に、現場の声から「わざわざロボットがその作業を行う必要はない」と判断しました。Product Market Fitしないことが明らかだったんです。たとえば、タワーマンションや大型商業ビル等の巨大施設であれば、初期投資してロボットがProduct Fitしますが、工務店が担当する現場は狭く、小さい。それならば、人が撮ってしまう方がスムーズで効率的ですから。
ーーつまり、ロボットから離れたのは、Solution Product Fitを考えた結果なんですね。
そうです。検証過程ではProblem Solution Fitしましたが、ロボットなしでも成立するのであれば、それでもいいと判断しました。
結果的に、現在の“人がカメラを持って現場を歩くだけで360度現場ビューを作成し、遠隔から現場全体を確認できるようにするサービス”に落ち着きました。これがzenshotです。
ーーSoftRoidの転換点には、いつも現場の声があった。
はい。結局は、現場が欲しいもの―つまり提供価値が明確なものを作ることが、私たちにとっても重要なんです。
私たちのプロダクトでいえば、“遠隔から現場全体を確認できるから、現場監督の移動時間が減って負担が軽減する”、“現場監督の確認回数が増えることで、管理品質が向上する”、“施工状況を逐一記録するから、隠蔽部の施工状況も後から簡単に確認できたり、スムーズなアフターケアサービスにつながる”―こういったことが提供価値です。
私たちには複数の失敗経験がある。それでも何度もチャレンジするのは、面白いことがしたいから。今、私たちが取り組む建設市場というのは、国内GDPでも2番目に大きい規模感の市場。世界規模で見ても非常に巨大な市場です。なのに、テクノロジーが活用されず、今でもアナログなことをやっている。そこに入っていき、現場とクラウドをつなぐデータパイプラインを作って、業務改善をする―そんなふうに、プロダクトで世界を変えていきたい。そのためにも、現場の声はこれからも大切にしたいです。
電話をかけたり、現場の人に声をかけたりすることって、非常に簡単なことです。FoundX的に言えば、「息を吸うようにやれ」だし、「できない言い訳がない」。やればできるはずなんです。でも、それを血肉にして実践している人って、案外少ないような気がします。教えに習って最後までやりきる―これこそが、意味があることを世界に生み出すために、まず大事なことだと思います。
これからも、現場とともに
ーーSoftRoidの今後の展望は。
AI×データの話が見えてきたというところもあり、より大きな山に登れるかもしれない―そんな可能性が見えてきました。 プロダクトを通じて産業構造の変化にコミットし、大きく変えていくといったところが、私たちの特徴なのかなと。そして、そういうことをずっとやり続けて現場に向き合い続けた結果、ロボットに戻っていく…というのが見えてくるといいなと思っています。そうなりそうな予感もしています。
ーー 香川の建設現場で、創業後の現場監督見習いをする中で、印象的なエピソードがあったとか。
50代後半くらいの工事部長が話してくださったことですね。
その方が言っていたのは、「若い人がどんどん辞めていく。それは、汚くてきついこの仕事があと30年40年続くって思うと、心が折れるというか…そういうこともあるんじゃないか。『今の仕事は大変かもしれないけど、ロボットが入るとこうなるよ!AIが入るとこうなるよ!』というのを、今の若い人に少しでも見せることができれば、それはすごく重要なことだと思う」ということでした。「だから、こういう(SoftRoidのような)会社をすごく応援したいし、ぜひ現場を変えていってほしいと思っている」と。
このお話を聞いて、たしかに、zenshotのようなプロダクトが入って、AIやツールなどで現場が改善される可能性があるという、ただそれだけのことでも、今の現場にいる若い人にとってはポジティブなことかもしれないと思いました。2024年問題や働き方改革など、時代の流れというか社会変化の後押しもあり、現場もそういった雰囲気にはなっているのかなと感じています。
ーーSoftRoidの現場主義は、これからも続いていく。
技術的に深い知見を持っているけれども、現場にも行く。そういうところに興味を持ってくれる人、そういうスタートアップをやりたい!という人が仲間になってくれるといいなと思っています。「色々なスタートアップを見ているけど、なんか違うんだよなー」と感じている人は、ぜひ私たちのところへ来てください。
SoftRoidというチームについて
ーーこれからSoftRoidをどのようなチームにしていきたいですか。
繰り返しになりますが、私たちが大切にしたいことは
現場にリスペクトを持って
社会変化という大きな問題にトライしていく
技術の力を信じ、技術で世界を変えていく
ということなんですよね。こういったことを、変わらずに大切にして実践できるチームでありたいです。
今、現場の危機感と技術の発展の潮流がクロスする一番面白いタイミングに差し掛かっているんです。色々な状況が揃い始めているな、というところで、より大きな課題に大きく挑戦できるフェーズに来ているのかなと感じています。
DXという言葉自体は5年前からありましたが、いよいよ今度こそ「本当にトランスフォーメーションしないとやばい!」という時代になってきているんですね。そこに挑戦できるポジションにいるのが私たちSoftRoidである、と考えています。こういったことを面白いと感じてくれる人と、一緒に働きたいですね。
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