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犬2匹、猫2匹、そして2人の、家族の合図

「ヒロシ、そろそろ行こっか? 」。海岸沿いを歩きながら、道中で買ったアイスコーヒーを一口飲む。1時間ほど経つのにまだ氷ががらがらとかたちを残していて、 もうすっかり夏が終わったのだと気づく。「そろそろ帰ろう。お腹空いたね」と、シンジロウと夫がこちらに向かってくる。

朝7時から8時まで、ヒロシ、シンジロウ、夫、そして私は、毎日一緒に散歩をする。縦に連れ立って歩く4つのでこぼこの影を見ながら、オクラとケールのことを考える。いつもどおりの朝の帰り道だ。

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チン、という音で、オクラとケールがそろそろと音もなくやってくる。パンが焼けたことを知らせる音で、食卓に集まる。といっても、このこんがり焼けたバターがいい匂いのパンは、私と夫が食べるものだ。それでもこの音がすれば、自分たちの皿にも、食事がカラカラと注がれることを知っている。散歩から帰ったヒロシとシンジロウも、先にきて行儀よく待つ。チン、は 全員の食事の合図だ。

フレンチブルドックのヒロシ、シーズーのシンジロウ、それからキジトラ猫のオクラ、黒猫のケール、そして、夫と私。2匹と2匹と2人、全員の合図。

散歩のために毎日決まった起きる時間、きっかり1時間の散歩、散歩のあとの食事の時間。いくつかの合図でなんとなく集まる規則正しさがあり、「家族の時間割みたいだね」と夫はいう。

今日のトーストにはくし切りの梨がついている。やっぱりもう秋なのだ。そろそろソファを洗濯しないと、と食卓横のカレンダーに小さくメモする。我が家はそれぞれがおのおの気ままにソファを使うから、日々のコロコロ掃除にくわえて時々、カバーを外して洗う必要がある。

てっきり目玉焼きを焼く音だと思っていたら、ぱらぱらと雨が降っていた。天気予報をみる。今日はこれから1日雨らしい。ということは、今日は何度も一緒になる。雨でなければ少し車を走らせて道の駅で野菜でも買おうと思っていたけれど。きっと1日の間に何度も、私たちはソファで過ごす。

ソファが届いた日も、そういえば土砂降りだった。あんな大きなものをこんな雨の日に、と心配していたが、スタッフの人たちが梱包から設置まで細心の注意を払ってくれ、ソファは無事に我が家に落ち着いた。決めたわけでもないのに、その日から夫と私はもちろん、4匹も集まって来るようになった。いまではそれぞれの定位置があり、全員が集まるときのおきまりのフォーメーションまである。そして、雨の日は、いつもより少しばかり他人の気配が恋しくなるのは、動物も一緒らしい。

「人間みたいな名前で、珍しいね」と言われる2匹だが、ヒロシという名前は映画『トイレット』から湧いたアイデアだ。カナダ人である夫が犬を連れて「ヒロシ」と呼んだら、なんかいいな、と思ったのだ。ひろし、でも、完全なローマ字のHIROSHIでもない。少しまるい空気ができるロ、少し湿ったシ。
  それから「犬ならば人の名前」のルールが暗黙にでき、シーズーのシンジロウは次男だからと、その名前になった。

「でも、猫は野菜なんだね」とも同じだけ言われる。オクラとケールは保護猫だったのだが、救助されたときにはとても痩せていたのだと聞いて、なにか健康そうな名前をつけることにしたのだ。兄弟猫たちがうちに来たのは昨年だ。先に暮らしていた、この家で一番真面目でやさしいヒロシが暮らしむきをなんとなく教え、ムードメーカーのシンジロウが思い切りくつろぐたのしさや明るさを仕込んだ。オクラもケールも、自分たちのことをおそらく犬だと思っている、と私は思う。

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「ホントウの自分をおやんなさい」。ポスターにもかかれたトイレットのコピーを思い出す。

 ソファを背もたれに床に座って相撲を見ている夫、ソファのはじに座ってネットフリックスをみる私。その横で、まるで暖かい液体のように実体をなくして伸びきったケール、お腹を天井に向けて何度も寝返りをうつシンジロウ。ソファ下の闇と一体化してなにかしているオクラ。そして、そんな私たちを真向かいから見守るヒロシ。手足とお腹をすべて床にペタンとつけている。

「ホントウ」、というか、すっかり自分だ、と思う。それでいて、一つの家族だ、とも思う。この家ではそれぞれがすっかり自分で、自由で、でも一緒がいい、ということを互いに知っている。

わりあいに規則正しい時間割とソファは、私たちが一緒だというシンボルだ。ここにくれば、それぞれがその形のまま、一緒にいることができる。ソファが暮らしに馴染むのと同じだけ、私たちそれぞれにその感覚が馴染んでいる。

シンジロウの頭がソファから少し落ち気味で、夫が肩でそっとおしてやる。寝るまでの時間を数えながら、明日からの散歩はホットコーヒーにしよう、と考える。

【物語に登場したソファ】
Decibel C4 3人掛けカウチソファセット



Illustration by fujirooll
Text by SAKO HIRANO (HEAPS)

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