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ソーファー、ソーグッド。北海道へ転勤、大きなソファと新生活

空気が違うって本当なんだな。それがこの町に引っ越してきて思ったことだった。
北海道、札幌市。20代半ば、縁もゆかりもない土地へ。
行ったことないし、なんか楽しいかもしれないという半ばノリにちかい気持ちで職場に異動願いをだすと、拍子抜けするほどすんなり通ってしまった。

下見を一度挟み、あれよあれよという間にはじまった北海道での暮らし。新しい生活のはじまりが身体に馴染んできたのは、広大な土地にはじめて降り立ったときでもなく、学生時代から使い続けてきた洗濯機を処分したときでもなく、大きなソファを一人暮らしの家に迎え入れたときだった。

大学時代の一人暮らしにも、ソファがあった。ソファの思い出といえば親友(悪友ともいう)たちだ。脚なし3人掛け、一万円ぽっきり。背もたれを倒すとベッドとしても使用でき、仲間が集まる家ではなんとも活躍してくれた。僕だけでなく、代わる代わるさまざまな重さや体勢を受け止めてきたソファは1年も経たないうちにへたったが、そのまま大学卒業まで使い切った。

社会人になって引っ越しを機にそれを処分してからはソファのない生活が続いた。今回の転勤で、せっかく大きな部屋に引っ越すのだからと勇んで買ったソファは、実に4年ぶりだ。1にも2にも大きくて格好いいものにしたかった。友だちを呼ぶ家にしたい、と思ったのだ。

大学生活の4年間、飽きることなく、なにをするわけでもなくただ毎日ともに過ごした同じ学科の男女5人。その5人でまたソファに座ってワイワイやれたら。そんな気持ちで再び3人掛けを求め、だが今回は、だいぶ奮発して納得のいくソファを選んだ。缶チューハイ片手にへたるソファに寄りかかっていたあの頃も楽しかったが、ウイスキーを飲みながらしっかりとしたソファで寛ぐのも、また掛け替えのない時間になるはずだ。

ソファ購入を決めた日の帰り道、うれしさと、待ち遠しさの両方が湧いてきた。あと1ヶ月したら、あのソファが家にくるのか...。ちょっとした夢見心地の気分を堪能する時間だった。それが家にやっと届き収まったとき、新しい生活が始まる実感がいよいよ湧いてきた。

大学時代の仲間は、小旅行も兼ねて定期的に北海道を訪れ、部屋で飲み会をするようになった。会社の同僚とは外で飲むことが多いが、僕があまりにもソファを自慢するから仕事終わりに飲み会をしようと遊びにきてくれた。

もう一つ、一人暮らしにおいて変わったことといえば、朝ご飯を食べるようになったことだ。 起きたら毎朝まずソファに座りたくて、ここでゆっくり朝ご飯を食べる。最初は簡単なもので済ませていたが、最近ではご飯と卵焼きに味噌汁のセットか、食パンでピザトーストをつくったりもしている。みんなが集まった次の日、一人でソファに座って自分の時間を過ごしていると「ああまたみんなで、ワイワイやりたいなあ」としみじみ思うのだ。

北海道の一人暮らし。 大好物のラーメンにいたっては、まだ東京時代の大勝軒を越えるものには出会っていないが、言うなれば…あ、そうだ「ソーファー、ソーグッド」だ。

遊びに来た大学時代の友だちが僕の部屋をみて、いいねと言いながら、シャレだとそう呟いていたっけ。“So far, so good.(いまのところ、ばっちり)”じゃん、と。


【物語に登場したソファ】
Decibel Standard 3人掛け片ひじ
Decibel Standard ロングオットマン
F1ランク SB-475-MBL ミッドナイトブルー


Illustration by fujirooll
Text by SAKO HIRANO (HEAPS)


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