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水やりをするように育てる私たちの居場所

私の1日は植物の世話からはじまる。昨年からベランダではじめたハーブ栽培は特に調子がいい。いくつかは室内に避難させたものもあるが、手がかじかむのに1分もいらない寒空の下、タイムやローズマリーなどは変わらずにたくましくしゃんとしていて、その姿を見るのはなんとなく心強くもある。鼻も赤くなる10分後、暖かい部屋に戻りソファでコーヒーを飲むまでが朝の日課だ。

57歳の私と60歳の夫は、好きなものが結構あるほうだと思う。釣りや列車旅行、それからあてのない散歩…(寒い季節は、途中のスターバックスでコーヒーを飲んで一休みする)。
最近は洋食寄りの朝ご飯にハマっていて、毎朝食べる直前に少しハーブを摘んでオムレツなどに添えるのが近頃のブームだ。先の2つにくわえ、バジル、ディル、パセリ、シソ…スープに少し浮かべるのも楽しい。

二人の娘が嫁いでから、一人の時間も夫と二人の時間も穏やかに愉しく流れている日々で、ふとリビングでくつろぎたい、横になりたいという気持ちが増して今年はソファを新調した。二人暮らしのためにマンションに引っ越して5年、そう考えるとようやくのこと。家のなかにも好きなものをたくさんつくりたいと思うようになったのだ。

あれこれと探しているうちに、気になったソファブランドを見つけた。実物を見て確かめようと、仙台から二人で新幹線に乗り、東京へ。時は8月の猛暑の最中、日陰を探しながら時々休憩を挟んでショールームにたどり着く。あれこれ目移りして迷うだろうと思ったものの、圧迫感なくすっきりとしたデザインの「Animato」にすぐに決まった。これだというものに出会ったときの納得感とバシッと決まった爽快さを味わい、私も夫も大興奮。高揚した気持ちのせいか、なぜだかその足で広島焼きのお店へ。新幹線のなかでは「おしゃれなお店でランチを」などと話していたのにねと、クスクスと笑いが込み上げる。これからの生活へのわくわくが脈打つ心身に熱々の物はよく合う。冷房の効いた店内で頬張る香ばしいソースたっぷりの広島焼きは、最高だった。

その後は夫の提案で東京大神宮に行き、これからも家族が良いご縁に恵まれますように、と手をあわせてから帰路についた。「次、遠出をして家に帰る時は、ソファがあるのか」。心地よい疲労感でうとうとしながら想像すると、これまで好きだったことももっと楽しくなる予感で満たされていった。

満たされていく———ソファが届いてからの生活は、その小さな実感に溢れている。出掛けたあとにゆっくりする時間はもちろん、お昼寝も読書も、洗濯物を畳んだりする時間ですら前よりもなんとなく色づいている気がする。単純にいえば楽しいのだ。身体が楽だというのもあるが、自分がちゃんと生活を楽しんでいるという実感が1日に何度もある。二人の娘たちが遊びにくる時間も、以前とはまた違った楽しさがある。

私と夫、二人の生活にソファがあるのはそういえば初めてだ。長女が2歳になる頃に、布張りの3人掛けのソファを買った。長女は大好きなぬいぐるみを並べて遊び、次女が生まれたあとはいつも二人仲良く遊んでいたっけ。絵本の読み聞かせやディズニーの映画を見るときには三人並んで座り、互いの息づかいも体温も感じられる場所だった。

そう、自ずと満ちていくように、居場所ができていく感じ————。クリスマスローズに水をあげながらふと合点がいく。どちらかというと「育てている」に近いのかもしれない。一人で、夫と二人で、時々やってくる娘たちと、ソファでいろんな時間を過ごすことで、自分たちの居場所を毎日少しずつ育てている。

それは植物に毎日水やりをするように、少しずつ育てては楽しみを摘み、また育てていく、その繰り返しだ。さらに冷え込んでかたい霜がおりる来月も、この部屋が満ちたりていてあたたかいことだけは間違いないと思えるのだ。


【物語に登場したソファ】
Animato 2人掛け
F3ランク LO-238-SBE


Illustration by fujirooll
Text by SAKO HIRANO (HEAPS)


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