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ソファでいつか一緒にコーヒーを。二世帯の一階はホテルさながら

10年目を迎えてくたくた…というよりはもはやズタズタになっているソファを見ながら「今度はしっかり揃えねば」と思った。14歳の頃から43年ほど住んだ家を建て替えることにしたのが折だ。きっかけは、25歳になる息子から「二世帯住宅にしないか」と持ちかけられたからだった。1階で私たち夫婦が、2階で息子たち夫婦が暮らす。生活空間はしっかり分けつつ、互いは側にいる。また新しい形の家族の生活がはじまる時だと思った。長年住んだ家は父が建てたものだったので、新居こそはすべて自分の感性で空間をつくってみたいという気持ちが湧く。家具類を思い切って一新しようと決めた。
ソファ、ダイニングテーブル、ベッドなど大きな家具を新たに購入していく。壁やカーテンなどにもこだわった。特にテーマを決めたわけではないが、シンプルモダンを基調に選んでいったからか、新居はなんとなく空間が統一されてすっきりした気がした。なんとなく知っている雰囲気に合点がいったのは、招いた来客が我が家のリビングをみて「わあ、ホテルみたい」と漏らしたから。そうだ、ホテルっぽいのだ。それ以来、なんとなくホテルで暮らしているみたいだと感じて、くすぐったさもありながら嬉しい。家具の一新で特に良い判断だったと思えるのはソファだ。勇み足のなかデパートでみつけた70万円のソファをあと少しで購入しようというところで、デザインや機能性、作り手の精神性すべてに信頼をおけるブランドに出会った。このホテルっぽい部屋で主役を静かに担ってくれている。ペニンシュラといった観葉植物やバウハウスのポスターなんかも買ってみた。いまでは8枚揃え、時々、家のなかを気分でローテートさせている。

こだわりのコーヒーを淹れるのもまたいい時間になった。なんというか、気分がのってくるのだ。まるで、自分の店でマスターとしてコーヒーを淹れているような…。普段使いにずっと気になってところのマグカップを6客、購入した。昔から変わらず同じシリーズを製造し続けているブランドのもので、長い年月をかけて買い足していくのも一つの楽しみだ。

いつも同じ重さの豆をミルで挽き、お湯の量、摘出時間を気にしながら丁寧に淹れる。妻の筆頭料理といえばスパゲティミートソースで、ばっちりアルデンテの麺にオリジナルソースのちょっとした自慢の逸品なのだが、この後にソファでいただくコーヒーはなんともいえない。

息子夫婦の暮らす2階へあがるのはふた月に1度ほどだが、息子は長女を抱っこして度々降りてくる。つまみ食いをしたり、なにか食器を借りていったりするくらいのことだが、同じ家に住んでいるのだという距離の近さを感じられてうれしい時間だ。

近所の珈琲店で売っているカフェドボニータという豆が我が家の定番のコーヒーなのだが、いつか息子の長女にも味わってほしいというのが最近新たにできた夢の一つ。コーヒーをじっくりと煮出すように、この空間ももっと味わい深くしていきたい。10年後くらいに自分でふらっと下に降りてきた孫に、老舗ホテルのようになった一部屋で「コーヒーでもどうぞ」と言ってあげたい。

【物語に登場したソファ】
Decibel Standard 3人掛けカウチソファセット

Illustration by fujirooll
Text by SAKO HIRANO (HEAPS)

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