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Magic of Straw in リトアニア⑦長い夜

7月23日火曜日。午前中の国立博物館とゲディミナス塔見学、昼食をはさんで午後かのワークショップを終え、会場から歩いて参加者のほとんどが拠点にしているチュルリョーニス芸術学校のドミトリーに戻る。

プログラムによると、夕食は夕方5時半から6時。30分しかない。なぜなら連日連夜、夕食後はほぼ毎晩、びっしり参加者によるレクチャーが入っている。「はあ〜今日も一日見学ツアーにワークショップ、盛り沢山だったなあ〜ゆっくり夕飯食べてくつろぐかあ〜」なんて優雅な時間はないのだ。私の想定では夕方までプログラムがあって、夜は帰宅して夕飯、人に会ったり散歩したり日記をつけたり自由時間、のつもりだったが、そんなものこの藁フェスにはない。(故に今これを当時の記憶や資料を元に書いているが、一番キモとなるはずの日記が存在しない。かろうじて、メモをとったレクチャーの内容が手元に残るだけだ。)

ちなみに本日のチュルリョーニス芸術学校学食での夕食は以下のとおり。一見さえない感じだが悪くない。チキンの煮込みとライス、デザートはノスタルジックな見た目のゼリー。ゼリーのお味は白いところがヨーグルト、カラフルなところがフルーツ味。薄いピンクの飲み物は、コンポータス(果物のコンポートを水で割ったやつですね)。いちご味。みんな想像より美味しい(失礼)。何より、登山後の山小屋での質素な夕食が最高に美味しいように、藁修行後(実際は道半ば…)のキャンティーン(学食)メシも、最高に美味しいのである。

夕食後のレクチャー参加は自由なので抜けることもできるのだが、プログラムを見ると世界の藁文化に関するレクチャーが目白押しなので、参加しておきたい。ことになかなか触れることのできない東欧圏の藁文化を通訳付きで聞けるというのはとても貴重な機会である。呑気に宿に帰って白夜の夜散歩なんてしている場合ではない。体力のある限り、気力の続く限り、ついていくのだ、ボブーテたちに。二日目にしてリョウコさんと「こりゃ、ストロー・ブートキャンプだね」とうなずき合う。

夕食をとった食堂(学食)は、そのまま夜のレクチャー会場になる(食堂は、会期中藁フェス一行の貸し切りだった)。食堂奥のスクリーンに用意した写真や映像を投影することができる。今夜のレクチャーは、藁フェス創始者のロサンゼルスにある藁博物館館長、モーガンによる「藁博物館のコレクション紹介」から始まり、ウクライナのマリアによる「私の藁アートコレクション(という名の自分の作品紹介)」、もう一人のウクライナのマリアによる「伝統的なクリスマスの藁飾り(という名の自分の作品紹介)」、ウクライナのリュドミラによる「藁ととうもろこしの皮でできた人形たち(という名の自分の作品紹介)」、ハンガリーのトゥンデによる「カルパチア盆地のライ麦収穫」、エストニアのウルマスによる「エストニアのヒメリ」、中国のアイインによる「中国の藁文化(という名の自分の作品紹介)」、以上7公演。ひとり30分だと3時間半、15分でも2時間近くかかる計算になる。・・・今夜も長そうだ。

(↑最初のレクチャーはモーガンから。彼の麦藁帽子もコレクションから。左のヘッドセットをつけた女性が英露通訳)

モーガンが40年近くに渡り集めてきた1万点を超す世界中の藁細工コレクションは見事で、欧米を初めアジアやアフリカなど、世界中から集めてきた飾り物、防寒具、装身具、など実に様々な用途の藁でできたものが集められている。

(↑ウクライナのマリアによる「私の藁アートコレクション」。身につけているもの、置いてあるもの全て彼女の作品。手に持っているのは赤ちゃん用のガラガラ。2005年の愛知万博開催時は来日し、ウクライナ館で作品展示や実演もしたらしい)

蓋を開けてみるとたまに自国の藁文化の伝統紹介をする人もいたりしたが、ほとんどが自身や自身の作品紹介。でも内容も個性と偏愛が溢れていて、自由で面白い。いうなれば「おらが藁作品自慢大会」なのだが、みんなそれぞれ水を得た魚のようにいきいきと自慢(紹介)しまくり、それを興味深く眺めたり質問やツッコミを入れたり、時に笑ったりアドバイスしたり無邪気に聞き入っているボブーテたち。その様子はカラッとしたヨーロッパ の夏のように、なぜか見ていてすがすがしい。どこかでありがちな陰湿な嫉妬のようなものが全く漂わないのだ。それを眺めているだけで、何だか元気がもらえる。

さすがに最後の方はエンジン切れで退散したり、船を漕いでいるボブーテもあちこちに出始めた21時半過ぎ、中国のアイインの壮大なプロモ上映が始まったところで限界が来たので私も抜けることにする。学校を出たらちょうど来た路線バスに乗り、帰宅。この日も帰ってすぐシャワーを浴び、ベットに倒れ込む。夢にもわら人形片手に麦畑でほほえむボブーテたちが現れそうだ。明日はヴィリニュスを抜け出して、遠出をする日。プログラムによると「湖で泳ぎますので水着を持参するように」。はてさて明日は何が待っているんだろう。


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