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Magic of Straw in リトアニア⑧湖のほとりで

藁フェスのボブーテたち。リトアニア語で「おばあちゃん」を意味するボブーテ。実際の藁フェス参加者には、ボブーテ以外にも少なからず若い男女やデドゥーカイ(リトアニア語で「おじいちゃん」)もいる。けれど多数派はやはりボブーテたち。数が多いというだけではなく、生きてきた人生に裏打ちされた個性で確実に藁フェスを盛り上げている。

さて今日は7月24日(水)、藁フェス3日目、晴天。今日は今回のフェスホスト国である「リトアニアの文化」がテーマの日。貸切バスでヴィリニュスから40キロほど西に行った、湖に浮かぶ古城で有名なトラカイからさらに10キロ、自然豊かな湖畔にあるインテグラハウスというセミナーハウスへ、遠出することになっている。

(9時半に2階建ての貸切バスが芸術学校を出発。席は早いもの勝ち。↑)

(車窓からの風景。今はカトリック信者が大多数のリトアニアだけれど、東方教会も点在。西と東が交差する、リトアニア。↑)

張り出した枝も何のその、2階建てバスはバキバキ林をかき分け、のどかな田舎道を進んでいく。あと少しで到着、というところで道に迷い、狭い一方通行を水たまりにはまりながら、しばらく同じ道をぐるぐる堂々巡り。水たまりにはまるたびに大きく揺れるバス。ぐわん、と揺れるたびに「うぉぉぉ」と盛り上がりはじめるボブーテたち。自分の言葉で運転手さんにアドバイスをおくり始める世話焼きボブーテも。ついに迷子ループから抜け出すと「いぇぇぇぇ〜い!」と大きな拍手と歓声が。楽しい遠出だ。

予定から少し遅れたものの、しばらく行くとヴィリニュスの建築スタジオVASの設計によるモダンなインテグラハウスが見えてきた。今日は気温も上がって、たしかに泳ぎたくなるこれ以上ない晴天である。

予定では、11時から13時まで、グループに分かれリトアニア人参加者7名によるソダスのワークショップ。昼食を会場にあるカフェでとって、15時からリトアニアの伝統的歌唱法、スタルティネスの女性アンサンブルによるパフォーマンスを観たら、「湖で泳いで」16時にヴィリニュスに向けバスが出発することになっている。

インテグラハウスはいくつかの棟が起伏のある敷地に点在していて、今日は私たちで貸し切り。屋内外7グループに分かれてワークショップが開かれる。今日はいつもと勝手も環境も違い、おまけに天気もよいこともあって事務局スタッフもボブーテもテンションが上りバラバラな感じ。私もじっとワークショップに勤しむ気がしない。

よく分からない間にあなたはここね、と適当に割り振られたグループでワークショップに参加。特に目新しくはない形を組み立てながら、本当はじっくり話を聞いたりテクニックを見せてもらったりしたいボブーテがいたんだけども、と思うも他のボブーテのグループにも目移りして落ち着かない。何よりこの開放感。ここで2−3日腰を落ち着けてソダスについてボブーテたちから話を聞いたりしたいなあ、いや、ここじゃない。やっぱり薄暗い古民家で、小さな窓から差す淡い陽の光に照らされたソダスを眺めながらじっくり話を聞いてみたい。今日はここを楽しもう。

(屋外でワークショップに興じるグループ↓)

でもでも、限られた時間でできる限りいろいろ吸収したい。昼食もキョロキョロ話しながら、写真をとりながらとる。

(カフェに飾ってあった誰かの軽やかなソダス。作風で誰作かすぐ分かる不思議。↓)


(今日の昼食はスープと、チキンかビーガンミートボールの爽やかなトマトソースがけ。こちらはビーガンバージョン。学食より小洒落ている。美味しい。↑)

(↑細い麦ではなく、川辺や道端に生える野生の麦で繊細な作品を作るライモンダ(真ん中の女性)。リトアニアではこういう繊細な作品を作るソダスの作り手は、少数派だ。)

みんなおのおの、藁談義に花を咲かせたりモダンな個性あふれるトイレを覗きこんで歓喜したりコーヒーを飲んだり散歩したり、あちこちで好きに時間を過ごしている。そうこうするうちにスタルティネス鑑賞の時間に。

スタルティネスは、リトアニアに古くから伝わる伝統的音楽形式で、数名の女性がアカペラだったり、ときに民族楽器を交えて歌を歌う、というもの。ソダスと同じくリトアニア北東部、アウクシュタイティヤ地方が起源で、同じフレーズを輪唱し歌うのが特徴。2010年にはユネスコの世界無形文化遺産に登録されている。

民族衣装を身につけた女性たちの、美しく不思議な歌声が吹き抜けのメインホールに響くと、天井から吊るされた巨大なソダスがゆっくり、くるりくるりと回り始める。ボブーテたちと回るソダスを眺めながらスタルティネスに身を委ね、しばし瞑想の世界へ。

心地よい瞑想時間。いつまでも回るソダスを眺めていたいが、ああ時間がない、泳ぐなら今よ、湖はあっち、出発までにトイレを済ませておいてね、とエグレたちが叫びはじめ、現実の世界に引き戻される。せっかく晴れた日に田舎へ来たのだし、と湖の方へ草原を下ってみる。もう夏至は過ぎてしまったけれど、まだまだかわいらしい花をつけた夏の野草が目を楽しませてくれる。

めいっぱい深呼吸をしながら小道を下っていくと、湖に張り出した桟橋が見えてきた。森と湖と青い空。ああ・・・とうっとりしていたらなんと、桟橋でボブーテたちが3人、ビキニ姿でくつろぎながら談笑しているはないか。あれはおそらく、もうひと泳ぎしてきたんだろう。一体いつの間に・・・。


北欧の夏の水温は、上がっても20度ちょっとだ。ともすればみんな18度なんかでも平気で泳ぐ。標準的な日本人の感覚からすると泳ぐ気になる温度ではない。

だから足をつけるくらいでいいか、と私は水着を持っていかなかった。そもそもプログラムには「15時スタルティネス鑑賞、15時半湖で泳ぐ、16時バス出発」とあったので、泳ぐのは時間的にきびしいだろう。それなのに。

連日ボブーテたちは自作の麦わら帽子やらバッグ、アクセサリーを日替わりで身につけ、人によっては毎日お召替え、ファッションショー。極めつけは湖畔でビキニ。だいたい更衣室なんてないのにどこで着替えたんだ?!と目のやり場に若干気を遣いつつ桟橋に腰かけ休憩し様子をうかがってみる。

話がひと段落したのかしばらくするとビキニボブーテたちは桟橋横の繁みに無造作に投げ出した荷物のところへ戻り、楽しげにおしゃべりを続けながら開放的に着替えはじめた。

全ての動作が、情景が、ものすごく自然だった。

周りを気にしない、自分が心地よい状態を肩肘張らずに楽しむボブーテたちが、見ていてなんだか急にうらやましくなった。

せっかくだしせめて、と桟橋にしばらく寝転んでみたら、私も心が解き放たれる気分になった。

ああ、来てよかった。















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