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Magic of Straw in リトアニア⑤長い一日が始まる

藁フェス初日の朝、チュルリョーニス芸術学校の食堂。すでに知った顔との再会に喜んだり、所在なげにあるいは我関せずとマイペースに朝食をとったりコーヒーを飲んだりしながら、それぞれが主催者の第一声を待っている。モダンな食堂(キャンティーン)は、スカンジナビアや西欧の学校のそれとも見劣りしないイマドキの環境だ。リトアニアが「西側」になってから、もうすぐ30年の時が経とうとしている。ソビエト支配の跡形は日々リトアニア中で上書きされているけれど、それが完全に消え去ることはないのかもしれない。

20代前半だろうか、溌剌とした長い髪のちょっとボヘミアンな女性が食堂の奥にあるスクリーンの前に立ち、英語で説明を始める。リトアニアへようこそ、今回の藁フェスは元をたどるとロサンゼルスの藁博物館モーガンのイニシアチブで始まり、数年おきに開催され今回で数回目、前回は2016年にポーランドで開催。今回初めてここリトアニアで開催されることになりとても喜んでいます。事務局スタッフは所長マリヤをはじめ私エグレと数名。今回のフェスを運営していますと楽しげに話しだした。同じ内容を、ロシア語通訳がロシア語話者に向けリピートする。LAから来たモーガンは60代くらいだろうか、髭をはやし、藁でできた山高帽を被ったおしゃれなおじいさんで、佇まいがアメリカ西海岸だ。前方の席に座っている。どうやらユルギータと、私、リョウコさん、その他地元リトアニアからの参加者(とごくわずかな他国からの参加者)以外、ラリッサを始めかなりの数の参加者がフェスの常連のようだ。皆勝手知ったる感じでニコニコリラックスしてうなずいている。

その後エグレによる参加者の紹介があり、簡単なイントロが終わると、芸術学校から歩いて10分くらいの場所にあるワークショップ会場(トップ画像)へ移動し、早速午前中に2時間のワークショップ。6日間のフェスの間、1日1〜2回、計6回のワークショップが開催される。毎回だいたい5〜6人の参加者がそれぞれ割り当てられたブースに分かれ、講師となり各自のワークショップを行う。参加者は事前にメールのやり取りで各回4〜5つ行われるワークショップの中からひとつ、参加したいものを選んでいる。それを事務局が振り分け、会場でそれぞれ振り分けられたワークショップブースへ行って参加する、という仕組みだ。

初日午前中のワークショップは、オランダのウィリーによる藁で作る十字架、同じくオランダ出身のメタによるロゼッタ作り、リトアニアのロレッタによるクリスマスサン(大きめの星型の飾り)作り、そしてラトビアのアウシュマによる藁をカラフルな糸で編み込んでいく螺旋状のガーランド作りの4つ。私はアウシュマのガーランド作りを選んだ。リトアニアの北隣り、ラトビアから来たアウシュマは小柄だけど見るからにパワフルなおばあちゃん(写真ボーダーワンピースがアウシュマ)。ワークショップ言語はラトビア語とロシア語だ。通訳はいない。朝食を食べる権利のないはずの私が食堂でコーヒーを無料で飲めたりオープニングのラフな雰囲気から臨機応変感は漂っていたので驚かなかったが、せっかく参加するのだから作り方はマスターしたい。見よう見まねで10センチくらいに切られた藁を腰に固定器具を、先端にカード編みの器具を結びつけ編み込んでいくガーランド作りに挑戦。LAの藁博物館館長モーガンも同じグループで、彼も初体験のようだが英語でロシア語のわからない参加者に向け解説しながら作っていたのでそちらも覗き見しながら。

しかし難しい。スイスイとアウシュマは藁と毛糸を編み込んでいくが、かなりの熟練を要することが分かる。結局2時間後、私の手元に完成したのは15センチ足らずのいびつなもの。

2時間真剣にワークショップを受けた後、会場に隣接した平屋の建物が林の中に点在するヴィリニュス・テックパークに移動し、その中にあるバルコダス(リトアニア語でバーコードの意味らしい)というカフェレストランのオープンテラスで昼食をとる。ヴィリニュス・テックパークは元々病院だった敷地に点在する病棟をリノベートし、国が国内外から誘致に力を入れているIT企業の拠点やコワーキングスペースとして整備した、言わばホットな場所だ。確かに白い平屋の一見なんの変哲もないヨーロッパの古い建物だが、中に入るとガラスで区切られた見通しよく並んだ部屋にそれぞれPCテーブルがラフに配置されており、壁にはポップな絵も描かれている。ただ、ここも夏休みなのか人気(ひとけ)がなくしんと静まり返っている。

テラスはなかなかの日差しと暑さで、食後に同じテックパーク内にあったカフェで冷たいコーヒーを飲んでからひと息つき会場へ戻ると即、午後のワークショップ。午後は、リトアニアのライモンダによる藁扇子作り、ベラルーシのボブーテ2人による藁で作る菊の花、アメリカのマリアンによる藁十字架作り、スイスのモニカによるブローチ作り、そしてユルギータによる干し草で作るバルト紋様作り。ワークショップはその字面だけで参加するものを選ぶのでとても悩ましかった。具体的な内容説明がない中みんな勘で適当に選んでいるようで、そのへんもおおらかだ。

私はユルギータのバルトの紋様作りに参加。ユルギータによると干し草アレルギーの人は痒くなったりするとのこと。私は干し草アレルギー持ちではないけれど、身体中かなりチクチクした。日本でこれをやると、虫との戦いになりそう。本州では厳しいな・・・。干し草の山の前で身体中干し草まみれになっても、虫が全く出てこない北ヨーロッパ、羨ましいぞ。作り方はラフに干し草を掴んで、糸でひたすら巻いて整形していくという実にシンプルな方法で、これが実に楽しい。作り方は簡単なのだけれど、結局は形やバランスが作り手のセンス次第なので、出来上がりは実に様々。講師のユルギータがサクサク仕上げていく様子は見ていて気持ちがよく、出来上がるものは絶妙なバランスで、見惚れてしまう。まさに魔法の手。時間内に何とかひとつ仕上げる。

そのほかのワークショップの様子。

菊の花作りのサンプル。いくらみんなベテランでもいきなりこんな花は作れない。みんな、時間内に完成しなくても特に文句が出るわけでもなく、時間を気にせず作ったり尋ねたり、ワークショプ途中で諦めて別ブースを見学に行ったり、自由だ。

スイスの繊細な藁でできたレース編みブローチ作りの一幕。麦わらを細く裂き、写真の木製マシンでそれをより合わせ、1本の細い「藁の糸」にする。それを花やレース模様などに仕立てていく、とても繊細で根気のいる作業。写真左はスイスのモニカの旦那さん(夫婦参加)。マシンで糸をよっているのはいつもおしゃれで陽気なウクライナのアンドレイ(彼も夫婦参加)。



集中しているとまたもやあっという間に時間が過ぎる。歩いて芸術学校に戻り、5時半から夕食、6時半からリトアニア東北地方、アウクシュタイティヤの伝統的な結婚式の様子を再現したフォークロアグループによる歌と踊りのパフォーマンスを芸術学校の講堂で見る(写真、壇上奥に飾られている顔写真はチュルリョーニス)。アウクシュタイティヤは、豪華な結婚式で知られ、大地のめぐみを結婚式会場のダイニングテーブルの上に吊るされた大きなソダスに飾りつけ、歌と踊りと食事で新郎新婦の門出と幸福を祝い、祈る。最後に私たちも壇上に呼ばれ、皆で踊ってお開き。長い長い1日が終わり、歩いて帰る気力もなくトロリーバスに乗り、9時半ごろ帰宅、シャワーを浴びて寝る。外はまだまだ明るい。1日目にして、すでにお腹いっぱいだ。

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