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Magic of Straw in リトアニア⑯幻の聖なる蛇

一般公開の藁マーケットが一日開催される藁フェス最終日、参加者が出店できるマーケットを一巡りし、みんなと雑談しながらめぼしいものを購入、コーヒーとケーキで一服した後、夜の便で一足先にリトアニアを発つリョウコさんとヴィリニュス旧市街を駆け足で観光することにした。

繰り返すが私もリョウコさんも、こんなにハードで濃密な一週間だとは想像していなかったので、リョウコさんは初リトアニア訪問にもかかわらず歩いても行ける距離の観光名所、ヴィリニュス旧市街へすら足を向ける時間がなかったのだ。

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ヴィリニュス旧市街は、ヨーロッパにあまたある旧市街の中でも東欧一の規模を誇り、1994年にはユネスコ世界遺産にも登録されている。バロック、ゴシック、ルネッサンスと様々な建築様式の建物が見られるところがこの旧市街の特徴で、歩いていてもそのヴァラエティにとんだ街並みは、建築好きならずとも目をたのしませてくれる。東方教会のネギ坊主と天高くそびえ立つカトリック教会の混在はまた、ここが東と西の交差点であることを教えてくれる。

ソ連の支配下中には、これはヴィリニュス旧市街に限ったことではないけれども、教会などの神聖な建物が、祈りを捧げる場としての使用を禁止されただけでなく、破壊されたり、工場や武器庫として使われたりしていた。信心深いひとびとにとって、これ以上の屈辱があろうか。教会を神社仏閣に置き換えて考えると、今にいたるリトアニアのロシアに対する不倶戴天たるや、想像に難くない。

1991年に独立を果たしてから、少しずつその役割を取り戻しはじめたそれら教会群は、2004年にリトアニアがEUに加盟して以降、EUからの資金援助でかなりの数が復興した。けれど今でも、裏通りに一歩足を踏み入れるとヴィリニュス旧市街ですら廃墟と化し放置された教会が目に入り、ソ連支配の深い傷が独立から30年近く経った今も癒されていないことを物語っている。

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廃墟といえば、リトアニアの歴史について触れると長くなるのでここでは触れないけれども、ヴィリニュスを離れ、郊外やリトアニアの地方に出かけると、中世以降リトアニアがポーランドとともに共和国として存在し、東欧一帯に存在感を放っていた栄華を彷彿とさせる荘園や、古城などが荒れ果て手付かずのまま草原や森の中に廃墟と化しているのを目にする。それが良いかどうかは別として、これがドイツやフランスなんかの観光大国にあったとしたら、保存や復元がなされて立派な歴史的観光地となっているのだろうなあといつも思う。もっとそういったリトアニアの古い建物や名もない場所を、個人的には訪れてみたい。

話が逸れたが、旧市街をぐるっと回って、リトアニアといえばのリネンのお店や手工芸品のお店をリョウコさんに案内した後、ドミトリーに戻って、リョウコさんの部屋でしばし休憩してから、お別れ。滞在中は毎日忙しくて、話足りない気持ちはお互いあったけれど、それでも今までソダスの活動を日本ですることについて、ヒンメリを作って似たような活動をしているリョウコさんと色々と情報交換や悩み、喜びをシェアすることができて、そのことも今回このフェスに参加してよかったことのひとつだ。

朝から藁フェスの終わりを憂うように降り始めた雨は止む気配もなく、時間が過ぎる。参加者もひとり、またひとりと一足先に帰路につきいやおうなしに終宴を感じさせる。エストニアのウルマスも昨夜夜行バスですでにタリンに向け出発した。夕食の後は、プログラムによると屋外で「麦藁を使ってリトアニアの聖なる動物、蛇の立体作品を作る」ことになっている。夕方、おおかた予想していたが、事務局のエグレが夕方、天気が悪いのでキャンセルすることをみんなに告げた。参加者も事務局もみんな残念がるでもなく、喜ぶでもなく、そうか、仕方ないね、というあっさりした反応。すでに濃密デイズにお腹いっぱいということもあるかもしれないが、臨機応変さが日本と違ってほっとする。誰を責めるでもなく、ケセラセラな雰囲気。なるように、なるさ。

夕食後、ドミトリーの食堂で引き続き、残ったメンバーでビールやスナックを持ち寄っての和やかな打ち上げが始まった。この一週間を振り返りながら、またの再会を願いながら、談笑したあと、10時頃眠気が襲ってきたので会場を後にした。

この一週間体験した世界各国の藁文化や歴史、技、そしていろんな、人としての生き方を自分なりに理解して噛み砕き、消化するのは相当な時間がかかるだろう。というか、ゆっくり味わいたい。かいつまんで書いてみたが結果的に結構な文字量になった。忘れないように、この日々をまずは大切に抱きしめて、私というフィルターを通してこれからの自分の作品作りや、活動に滲み出ればいいなと思う。そしていつか、ソダスという枠を超えて、表現ができるようになったら、こんな幸せなことはない。

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