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『恋愛社会学』が気になる人のためのnote:②-2 木村絵里子×永田夏来──ファッション誌で読む「恋愛」

この記事は、10月7日にナカニシヤ出版より発刊される『恋愛社会学: 多様化する親密な関係に接近する』の刊行にあたって、編者である永田夏来と、寄稿者の1人である木村絵里子がスペースにて行なった雑談を記事化したものの、後編です。前編はこちらから、元の音声はこちらから聴くこともできます。

文字起こし/編集:小阿瀬達基


前半の記事はこちら。

「ラグジュアリー空間」って?

永田:お勧めの本……あるいは、最近ハマっていることってありますか?

木村:えっとですね、いま「ラグジュアリー空間」のフィールドワークをしているんですけど……。

永田:「ラグジュアリー」……私、いま四方八方が田んぼに囲まれている研究室でこの話とかしててラグジュアリーと程遠すぎる(笑)。

木村:そりゃあ、私だって普段の生活からしたら程遠いですけれども……(笑)都心に行かないと無いですし。私が編者として関わった 2023年に出版された『ガールズ・アーバン・スタディーズ』(法律文化社)という本があるのですが、そこで、女性の都市経験の1つとして「アフタヌーンティーに行ってInstagramに写真をアップする」という営みっていったい何なのか?と考えたときに……そういった「インスタ映えスポット」って、やっぱり「都市」に集まるわけですよね。

永田:うんうん。

木村:砂漠の真ん中だってインスタ映えするかもしれないけど、やはり多くの人が訪れることができる(交通の便が良い)場所じゃないと流行らないということがあるので、やはりインスタ映えスポットは都市に集積している。その一つとして、ラグジュアリーな外資系ホテルとか、ミッドタウンとか、GINZA SIXとか……ああいうのを「ラグジュアリーモール」と呼ぶらしいんですけども。

永田: 「ラグジュアリーモール」!初めて聞いた。

木村: つまり、手軽に、(本来であれば希少な)ラグジュアリーな空間を経験できる場所ですよね。(外資系高級ホテルなどの「ラグジュアリーホテル」は)本来は超富裕層が訪れる場所なんですけども、そこが一時的に(限定されたかたちで)開放されていて、たとえば5,000円や10,000円でラウンジでのアフタヌーンティーが2時間だけ楽しめたり……というような感じになっている。その辺りがちょっと面白いなと考えてます。お金がかかって仕方ないフィールドワークではありますが(笑)。

永田:それは結構面白いね。ラグジュアリー空間っていうのはさ、女子同士で行くってことよな?

木村:そうですね……ただ、この間、パレスホテルのラウンジに行ったときは、中年男性も複数人でワイワイしてましたよ。だからもう、恋人同士であったりとか……決してそういう人たちだけの空間ではないということですね。

永田:ちょっと前だったら、ロマンチックな場所っつーかね。夜景を見て……。

木村:そう。まさに80年代は彼氏と彼女で行くようなところ……まぁ、実際は色々いたんだと思うんですけども。ただ、今は女子1人で行くとか、女子だけで行くという語られ方がなされるようになっているので、かつてカップルが訪れる場所だったという位置づけがずいぶん変わってきたんじゃないかなと思っているのと……
あと、あんまり男性の都市論の先生がやらないところですよね。「無印都市」とか「ファスト風土」化とか……「都市に個性がなくなってきている」という話あるじゃないですか。で、ラグジュアリー空間はそういったところに対抗的に位置づけられるように見えるが、ただし、面白いのが皆一様にラグジュアリーなんです(笑)。均質的にラグジュアリー。こういうラグジュアリー空間について論じられるのを待っていたんですけど、誰も扱わないなと思って、じゃあ私がやろうかと思ってフィールドワークしているところですね。

永田:なるほどなぁ。ヘ〜……インターバルでちょっと思いのほか話が盛り上がっちゃったんですけど(笑)。

木村:長かったですか(笑)。

永田:私ね、あれなんですよ。最近……恋愛における教祖の1人だと思うんですけど、90年代の……。

木村:誰ですか?

永田:小沢健二。

木村:あーはいはいはい。

永田:小沢健二さんの「LIFE」っていうアルバムの発売30周年記念のライブで……。

木村:あー!Twitterで見ました。めっちゃ羨ましい!と思いました。

永田:そのイベントの一環でアスコット丸の内っていうお高いホテルに泊まったんですけど。なんつーのかな……すごく快適で、グローバルで、ある程度以上の富裕層のお眼鏡に適う場所、っていうのは結構画一的なんだなって思いましたね。

木村:そうですよね。

永田:空港みたいだね。言うたら。

木村:ああ、快適な空港ですね、確かに。

永田:トレーニングルームが24時間いつでも使えて、めちゃくちゃトレーニングマシンが並んでるんだけど……でも、それって私がいつも地元のジムでおばちゃんたちと一緒に使ってるやつとほぼ同じだからね、機能としては(笑)。

木村:トレーニング、されているのがすごいけれども(笑)

永田:ただ、私が地元の関西で使っているトレーニングマシンはわざわざ接続しないとイヤホンが使えないけど、アスコット丸の内のやつはオートで繋がる、とか……地元のランニングマシンでスピードを上げるにはボタンをポチポチ押さないといけないけど、アスコット丸の内のマシンならタッチパネルでそれが出来ちゃう、とか……そういうことはあるんだけど、機能的に求めてるものとしてはあんまり変わらないんだろうなっていう。アスコット丸の内、私のすごく口の悪い感想としては「年収が10倍ぐらいある人が使う東横イン」みたいな感じでした。

木村:そうですね……(笑)そういう富裕層の人って、さっきのおばちゃんがいるような空間にふだん行ったりするんですかね?

永田:いや、行かないでしょう。

木村:そういう人たちは、そういう(快適で画一的な)ところでずっと暮らしてるんでしょうね。

永田:そうそうそう。

木村:ただ、ラグジュアリー空間の面白いところは「たまにそういうところへ行く楽しさ」みたいなところではないかと思っていて、日常の延長にある非日常というか……すぐ日常に帰ってこれちゃう、みたいな点が面白いんじゃないかなぁと思うんですけどね。

永田:なるほど〜。……というインターバルだったんだけど、もうインターバルじゃないか(笑)。

木村:はい。あ、これ(ラグジュアリー空間のフィールドワーク)は論文にしますので(笑)。

永田:木村さんは、これからどういう研究をしたいと思っているんですか?

木村さん、これからどうする?

木村:この『恋愛社会学』もそうですけど、いろいろな楽しいお誘いがあるのでなかなか手が付けられていないのですが……。2016年に書いた私の博論は、既にインターネットで公開されているのですが、基本的にはその博論を大幅に加筆修正したものを本にすることを1番の目標にしています。ただ、どう加筆修正するかっていうときに……実は恋愛の話もちょっと入れて書きたいと思ったんです。そもそも私の博論は「明治・大正・昭和初期の〈女性美〉について」、「女性身体」と「美しさ」というのが近代を通していかに結びついていったのか?という話をしてるんですけども、それと恋愛がどう絡んでいたのかをちょっと書きたいなーと思っていて(やはりイルーズの『愛はなぜ傷つくのか」にでてくるような話)……ただ、ちょっとまだどうなるかわからないです。
けど、それは別として恋愛の歴史はいつか書きたいと思ってきたけれど実際どう書いたらいいのかなとずっと悩んできていて。で、今回の『恋愛社会学』で性別役割規範について論考で取り上げたことで、性別役割という観点から恋愛の歴史を描くのも面白いのかなと少し考えています。(高度経済成長期に)性別役割分業が一般化する前、1950年代ぐらいから性別役割がどういう風になっていたのかというのも含めて、ちょっとやってみたいなと。

永田:なるほどねー。その「女性美」について前から思ってるのが「モテ」ってやつについてでさ。かつて「かわいい=男受けする」みたいに言われていた時代があったと思うんだけど、いつのまにか「かわいい」が必ずしも「男受け」を意味するわけではなくなってきていて……誰の目線を意識して可愛くするのかって結構歴史的変遷があるなぁ、とは思う。ジェンダーが介在しているとも限らないし……同時にある部分はしているかもしれない、みたいなところをちゃんとやるのはすごい重要だなぁと。

木村:そうですね。女性の場合、そういう「外見の美しさ」というものがどうしても恋愛や結婚に絡めとられていく一方で、女子は女子のための楽しさとして、ファッションやメイクを楽しんでいるという側面も絶対にありますよね。

永田:そうそうそうそう。

木村:実は、それは戦前にも結構あって。比較的、最近の話かなぁと思われる傾向がありますけど、以前からそういうのがあったのですよね。

社会学、なぜ面白い?

永田:前から木村さんに聞いてみたかったことがあるんだけど……なんでそんな研究してるんですか?

木村:なんで?なんで、とは。どの……。

永田:どうして社会学を志したんですか?

木村:あー、えっと……恥ずかしい(笑)社会学ってすごく面白い学問ですよね。私、最初はジェンダー論なんですよ。もともと女性としての生きづらさを抱えて生きているなかで、大学の授業でジェンダー論に出会い、(ジェンダー論はその生きづらさの要因を)ばっちり解釈して、解説してくれているじゃないですか。

永田:ジェンダー論だと何が面白かったの?

木村:まぁ、(厳密には女性学あるいはフェミニズムですが)上野千鶴子さんとかですね 。

永田:昔は上野さんの独壇場だったもんねぇ。

木村:そうですねぇ。書かれるものもめっちゃ面白いですし、ああ、これ、すごいなぁと思っていて。それで私、もともとライターとかジャーナリストになりたかったんですよ。時代の空気を読み取って文章に残すみたいな仕事がしたくて……ただ、そういう仕事ってペースが速いっていうか、すぐキャッチしてすぐ書いてすぐ発表して(で、消費されてすぐに忘れられて)……という流れが私にとっては早すぎて。もう少しゆっくりと社会について考えて、文章に残していく仕事ができれば良いなという思いと、社会学の面白さが合致して、これだ!と思ったんですよね。
ただ、社会学という学問はすごく面白いけれども「私たちの話」があんまりないなとも思っていて。社会学の授業を受けていても、やっぱり男性の話が多いなとか(なんか私の話ではないよなとか)……それで、(あまりこれまでされてこなかった)外見の話や恋愛の研究をもっとしたいという流れになるわけです。

永田:なるほどね。

木村:最近は、『ガールズアーバンスタディーズ』とか、『ガールズメディアスタディーズ』のように「女性が女性のためにやる研究を盛り上げていこう」みたいな流れがけっこう出てきているなという印象がありますね。

永田:そうだよね。いや、皆にこの「Youはどうして社会学を?」を聞こうと思ってるんだけど……。

木村:(笑)

永田:やっぱり、(私は)もともとは家族研究なんでねー。女性(についての話が他の社会学の分野と比較して)多いんだよね。

木村:そうですね、ど真ん中ですよね。

永田:とは言っても、もちろん様々な非対称性はあるんだけど……相対的に若干マシだったのかもしれないな、ってことに遅ればせながら気づいてですね。

木村:確かに。社会学だと都市とかメディアとか……メディア研究でも2チャンネルの話とか、そういうのが多かったりというのがやっぱりありますよね。

永田:だよなぁ。だからそういう、自分の興味がある面白い題材について、やっぱりジェンダーの関係から切り込んでいきたかったってことなんだね。

木村:そうですね。

永田:そうだったんだぁ。自分の単著だったら「おわりに」とかでどういう人が書いているのかをおぼろげながら知ることができるんだけども、共著の場合は聞く機会がないからねぇ……ということで、ちょっと聞いているんですけれども。えー……もう1時間も経つのでそろそろ終わろうかなと思いますけど……何か用意していた面白い話とか、話しそびれた話とかありますか?

木村さんのおすすめ本『VIP──グローバル・パーティサーキットの社会学』

木村:そうですね……一つ、お勧めの本があって。この間、シノドスの論考にも載せたんですけども、アシュリー・ミアーズさんの『VIP――グローバル・パーティサーキットの社会学』というエスノグラフィーです。これ、めちゃくちゃ面白いんですよ。いわばニューヨークの「港区女子」の話です。

永田:ほうほうほう。

木村:ニューヨークのVIPが集まるクラブ……踊る方のクラブに集まってくる女の子と、富裕層の男性たちのパーティーシーンでのやりとりを書いたエスノグラフィーなのですが、著者のアシュリー・ミアーズさんは元モデルさんで、背が高くてお美しい方なんですけども……そういったニューヨークのVIPが集まるクラブって、(女性はモデル並みに)背が高くないとなかに入れないんですって。

永田:あー、でもそれはわかる気がする。私もかつてはいろんなクラブに行ってましたけど、背が小さいってだけで初めから壁扱いでしたよ。

木村:だから、(背が低いと)エスノグラフィーをしたくてもできないってことがあるわけですよね。それを(ミアーズは)できている(笑)。あと記述がすごく深い。(どちらかというと女性の外見の話って、表面的な考察が多いのだけれど)一つ一つの注でも深く考察しているので全部じっくり読んでしまうくらい。
それと性別役割についてですね。多分、アメリカではもう夫婦間の性別役割は(日本ほどの非対称性は)そこまで無いのだろうけども、VIPのパーティーシーンでは、まだ強烈な「男性の経済資本と女性の身体資本の交換」があからさまに行われていて、その恐ろしさが描かれていてとても面白い。
そして、この研究を読んでいただいたどなたかに、ぜひ港区女子のエスノグラフィーをやってもらいたいなと思っています……という話でした(笑)。

永田:なるほどなぁ、面白そう。今日のお話に出てきた本は、#恋愛社会学で概ね追うことができるようにしておきます。このあと、再度私のTwitterにあげますけれども……まず、現代思想の2021年9月号、あと田中亜以子さんの『男たち/女たちの恋愛』、谷本奈穂『恋愛の社会学 「遊び」とロマンティック・ラブの変容』それから『ガールズ・アーバン・スタディーズ』、アシュリー・ミアーズの「VIP:グローバル・パーティーサーキットの社会学」のリンクを作っておきましたので、ご参照下さい。

木村:おー。

永田:次回のスペースは17日を予定してます。前半の章、私とか木村さんとかがやっている狭い従来的な意味での恋愛みたいな話で……『結婚差別の社会学』という本を書いている研究者の齋藤直子さんと一緒にやる予定ですので、また改めて告知をしたいと思います。木村さんは何か最近の告知とかないですかね?

木村:えーと、あります。青少年研究会の有志で書いた『「最近の大学生」の社会学』(ナカニシヤ出版)という本がもうまもなく刊行予定(2024年10月14日予定)となっています。こんな宣伝でも良かったですか?

永田:全然いいですよ。

木村:そちらも最終の校正に入っているところになります。

永田:というところで、大体1時間経ったと思いますので……今日はリアルタイムで聴いてくれている人もすごくたくさんいらっしゃって、ありがたいですね。皆さん、ありがとうございました。

木村:ありがとうございました〜。

永田:そのうち、慣れてきたらリスナーの方にもスピーカーとして上がってもらったりもできたら良いな、と思ってるんですよね。

木村:いいですね。

永田:と、いうことで『恋愛社会学』がナカニシヤ出版から刊行予定です。今日は筆者の1人である木村絵里子さんに来ていただきました。ありがとうございました。

木村:ありがとうございました!

木村絵里子(きむら えりこ)@ErikoKmr
担当:第4章
大妻女子大学人間関係学部准教授。専門は文化社会学、歴史社会学。共編著に『ガールズ・アーバン・スタディーズ──女子たちの遊ぶ・つながる・生き抜く』(法律文化社、2023年)、『場所から問う若者文化──ポストアーバン化時代の若者論』(晃洋書房、2021年)など。

永田夏来(ながた なつき)@sunnyfunny99
担当:本書のねらいと構成、第2章、本書を閉じるにあたって
兵庫教育大学大学院学校教育研究科准教授。専門は家族社会学。主著に『生涯未婚時代』(イーストプレス、2017年)、共編著に『岩波講座社会学 家族・親密圏』(岩波書店、2024年)など。

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