ステハゲさん引退とアイドル声優
ステハゲさん引退騒動を見て
2020年1月31日、「陰キャラぼっち大学生」として局所的な人気を集めていたYoutuber、「ステハゲ」さんがYoutubeからの引退を発表したという。かくいう自分も、ステハゲさんの動画は友人の影響で昨年(受験生だったのにもかかわらず、というよりは彼がよく話題に出す学歴ネタに敏感な受験生だったからこそ)ハマっており、公衆の面前で「粉雪」を熱唱したり危ない事務所に撮影に行ったりするような常軌を逸した(?)行動に興奮しながら彼の動画の更新を待ったものだった。彼の動画にのめり込んだ理由には、自分と同じ「陰キャラ」ながら、大学を何度も中退して過激な発言を理由に彼の所属する中央大学からも停学を食らうような、自分にはできない「道を外れること」ができる彼の姿に多少の憧れと軽蔑を含んだ安心感を持っていた部分もあったのだと思う。兎にも角にも自分は、高校三年生の時には彼の動画を更新されるたびに視聴し、大学生になっても、動画こそ毎回見るわけではなくなったが彼の動向はツイッターなどで追う程度には彼のファンだった。
そんな彼がYoutubeから引退するという。理由はニコニコ生配信者(ステハゲさんはニコ生もやっていた)同士のコミュニティの方に友人や彼女がおり、そちらに全力をあげたいため。引退の1、2週間ほど前からニコ生主の彼女の存在はリークされており、自分もそのことは知っていた。彼の熱心なファンは怒り狂い、彼本人やその彼女に罵言雑言を浴びせていた。確かに、彼の彼女バレは奇行の激しい「陰キャラぼっち大学生」としてのキャラクターイメージからすればマイナスであることは間違いないし、ファンからすれば裏切られたと感じるのも至極当然だと思う。にしても、たかだか1Youtuber、それも不倫や未成年との交際、オフ○コといった反道徳的な交際でもないのにこの怒りようは少し異常に感じる。そもそも、彼は男であり、メインの視聴者層からすれば同性なのだ、一部のファンを除いてはジャニーズを応援する女性にありがちな失恋のようなものでもない。そして自分も、怒り狂うファンを冷ややかに見る一方で、ステハゲさんに彼女がいたことにどこかショックを受けていた。このことを考えるうちに、ステハゲさんの彼女バレにショックを受けて怒りに発展してしまうのは、あることに似ているなと感じるようになった。それが、アイドル声優の彼氏バレだ。
ステハゲさんとアイドル声優の共通点
自分は、特定のアイドル声優を熱を入れて応援しているわけではないので、特段このアイドル声優事情に詳しいわけではない。だが、自分が追いかけている「ラブライブ!」シリーズはキャラクター同様にCVを務めるアイドル声優がクローズアップされている。オタク仲間にはラブライブの影響でアイドル声優にハマっている者もいるので、ラブライブに出演する声優を中心としたアイドル声優の情報に触れる機会も多い。実際、園田海未のCVである三森すずこさんがプロレスラーのオカダカズチカさんと交際していることが発覚した時はツイッターに阿鼻叫喚の声が溢れていたのを覚えている。
アイドル声優を応援するあまり、芸能人としてではなく一人の女性として好きになってしまう特異なファン(ガチ恋)がいるのも認識している。だが、そうなるファンは少数のはずだ。ガチ恋でもないのに、ショックを受けて憎さ百倍になってしまうファンが多く出るのはなぜだろう?なぜ素直に祝福できないのだろう、それは自分が真剣に応援していないからだろうか?アイドル声優の男女関係の報道がなされるたび、そう思っていた。誰の報道の時だったか、「本当にアイドル声優と付き合えると思っていたのか?と聞かれるがそういうことではない」と語るファンのツイートが沢山のいいねとRTを受けていた。ならどういうことなんだ?自分にはその気持ちがわからなかった。
だが、今回のステハゲさんの騒動で感じたことで、この疑問に自分なりの納得がついたような気がする。あくまで自分が感じたことだが、「本来なら『こちら側』にはいないようなすごい人が『こちら側』にいる」という喜びが、「実際は『こちら側』の人間ではなかった」ことがはっきりしてしまったことによって起こる喪失感が原因なのではないだろうか?自分がそうなのだが、ステハゲさんやアイドル声優のファンのような「陰キャラ」「オタク」たちは、(価値観の違いはあれど)自分と同類の、広い人間関係や恋人を持つことができず、オタク趣味やネット文化にのめり込むような『こちら側』の人間と、広い友人関係や恋人を持ち、『こちら側』の嗜好は理解できないような一般人(『あちら側』)を区別して考えている節があるように思う。
そして本来、アイドル声優は『こちら側』にはいないような人間だ。声優として多才で、アイドルとして売り出せるだけの優れた容姿を持っているために、広い友人関係や恋人が持てないといったようなことはないはずだからだ。だが彼女たちは、オタク向けのアニメに声を当て、オタクのためのイベントにも精力的に活動してくれる。アニメやオタク文化に、仕事を超えたような熱量を示してくれる声優も沢山いる。『こちら側』とは思えないほど才能があって可愛い女性が、『こちら側』に理解を示すどころか『こちら側』の人間と同じノリを持っているように見える。本当なら『あちら側』にいて触れることすらできないような人が、自分たちの仲間であることは、本当に嬉しいことなのだ。ステハゲさんもまた『こちら側』にいるような人間の大勢からすればすごい人だ。「粉雪熱唱」や「ヤクザの事務所突撃」ような奇行にも見えることを平然とやってのける行動力を持っている。トークや煽り、キレ芸も面白い。大学を平気で中退し、現在所属する中央大学ともバトルしてしまう人生はまさに激動だ。そして、割とイケメン。(個人の感想)一部の声優もそのような人がいるが、ステハゲさんのように奇行レベルになると、ちょっとした見下しの意識や安心感すら芽生えてしまう。
無論、アイドル声優やステハゲさんも容姿が良くすごい人なのでまあ見えないところでは自分たち『こちら側』にはないような恋愛もやっているんだろうなというのは薄々思っている人も多い。だが、明らかになっていない以上は、今見える「『こちら側』である」という様子を楽しむことができる。これが熱愛報道やリークでハッキリしてしまうと、「結局この人は我々と同じではなく、恋愛のできる『あちら側』の人だったんだ」と確信に至ってしまう。これが仲間だと思っていた人間に裏切られてしまったかのような、ともすれば勘違いにも見える感覚になるのだと思う。
ステハゲさんもまた、ニコ生主の間で仲間や恋人に恵まれており、彼らとの付き合いを優先するために「陰キャラぼっち大学生」として活動していたYoutubeを切った。「陰キャラぼっち」としての彼しか受け入れることの出来ないファンを罵倒しながら・・・。彼もまた、「陰キャラぼっち」であることよりも仲間や彼女を大切にする「『あちら側』の価値観」を持った、あるいはニコ生主との交流を通じて「『あちら側』の価値観」に染まってしまった人間だったわけだ。
自分も『こちら側』にいる「陰キャラ」として失望を感じていたんだ。そしてアイドル声優のガチ恋ではないファンたちもきっとそうだったんだろうな。などと勝手に納得したところで、この考えを誰かに話したい衝動に駆られ、この記事を書いた。冗長で読みづらい駄文であると思うし、実はかなりズレたことを書いているのかもしれない。だがこの1ステハゲファンとしての「お気持ち表明」を読んでくれた人がいたのなら嬉しい限りだ。
追記(2020 2/7)
ラブライブについて語る5ちゃんねる掲示板で、とあるラブライブに出演している声優のデビュー前のTwitterアカウントが発見され、複数人の男女の友人との交流の様子が明らかになった。掲示板にはショックの書き込みが多数なされていた。自分は「デビュー前、それも恋人ですらないのにショックなのか……」とこの記事で書いた持論への確信をさらに深めてしまった……。
というか別に対象がすごい人じゃなくても悔しいし喪失感あるんだよな。知り合いのキモオタだと思ってたやつが彼女いたらそれはそれで嫌な気分になるし。陽キャが100人彼女いるよりオタクに女友達がいた方が悔しいというか。こっち側だと思い込んでいた、あって欲しかった人間が反転するのが嫌なのかなあ。難しい……