月刊「まなぶ」連載 経済を知ろう!第23回 土地所有の変化
土地所有と土地価格
株式市場と並んで景気との大きな関連を持つ不動産市場についてみていきましょう。
不動産と一口に言っても、タワーマンションから農地や山林まで、さまざまな不動産が存在します。なかでも土地は、その目的に合わせて土地改良や水道、電気、ガスなどの整備がされなければ価値をもたず、これらは労働による付加価値として土地の価格に加えられるものになるでしょう。しかし、地表の空間でしかない土地そのものの価格とはなんでしょうか。生産過程のような労働による付加価値というものは含まれません。土地そのものの労働価値はゼロです。しかし、資本主義経済の下で土地は商品となり、価格がつきます。では、この価格というのはどういうものなのでしょうか。
土地価格の基本的な考え方は、株価と同様に、将来に期待される収入=地代(賃貸料)を現在価格に割り引いた合計となる、ということです。「第20回 利潤の分配」でみたように、工業地や商業地の地代は、そこで行われる事業の利潤の一部が分配されるものです。事業を行う企業が土地を所有したとしても、土地を所有することによって地代を払わずに済むという意味で、価格は将来に期待される地代の現在価格の合計になると考えることができます。住宅地にも同様の考え方を適用できます。
地代は企業利益ほどには大きく変動することはありませんが、それでも土地価格はしょせん将来への「期待」に依存した価格形成です。住宅地や商業地の場合、この地代への期待値は交通の便、都市としての集積の度合いや街の性格が変化することによっても変化します。そのために土地価格も変動することになります。人口減少が目立つ地方都市で土地価格が低下し、東京などの大都市で土地価格が大きく回復している要因です。
土地価格は、株価と同じのように長期金利が割引率に直接影響するので、金融情勢によっても大きな影響を受ける場合があります。長期金利が低下すると土地価格は上昇しやすくなり、長期金利が上昇すると土地価格は下落しやすくなります。
土地所有の在り方の変化
1980年代のバブル期には、個人所有の土地が不動産業を中心とする法人企業に買われました。いわゆる「地上げ」が盛んでした。その後の大きな地価の下落を見ると、この時期に価格上昇した不動産を売却した人々は幸運だったのかもしれません。逆に購入した側は地価の下落によって大きな潜在的な損失を抱え、購入資金を融資していた銀行は多額の不良債権を抱えることになりました。その規模は100兆円程度と推定されています。当時の日本全体の土地の総額は2478兆円(1990年末、国民経済計算)ですから、1980年代後半にかなりの規模の土地が家計から法人企業にネットベースで移動したことになります。
現代の都市における土地所有は「法人化」ないし「機関化」が徐々に進んできています。米国で1990年代から急激に成長した上場不動産投資信託(上場R E I T)は、日本でも2001年から普及し始めました。上場不動産投資信託は、多数の不動産に投資するファンドを証券取引所に上場するものです。つまり、不特定多数の投資家から資金を集め、その資金によって不動産に投資し、主にその賃貸料を原資とした利益を投資家に分配する仕組みです。内外の機関投資家の投資対象にもなっています。
また、投資対象を一般的な不動産に分散するのではなく、住宅やオフィスビルに特化させたファンドも多くなりました。これらのファンドは、自己資金だけでなく銀行などからの借入れも行うことで、当初資金の倍程度の額の不動産に投資しています。日本の上場不動産投資信託の規模は14兆9207億円(2024年9月末、不動産証券化協会)とまだ大きくありませんが、先行する米国での上場R E I Tの規模が1兆3千億ドル(2023年末、N A R E I T)となっており、拡大していく可能性があります。
また、証券化されていても上場されない不動産投資信託も多額にのぼっており、主に機関投資家が保有することになっています。こうした不動産に対して分散投資を行うファンドはすでに不動産市場における価格に大きな影響を与える存在になってきているのです。
土地所有の機関化は、賃貸料の受益という観点からすると、大地主が地代を受け取るという状況から、ファンドや機関投資家を通して、年金基金や保険の運用益となり、最終的には年金受給者や保険の受益者に分配されることになります。一方、資産家にとっても直接的な土地保有ではなく、流動性のある証券化された不動産を間接保有する機会が増えたということになります。
土地の所有が特定の大地主に偏っていた時代から、土地所有の構造が大きく変わってきつつあると言えるのかもしれません。
月刊「まなぶ」連載 経済を知ろう! 目次