(メモ)原油価格高騰をどう見るか
ロシア・プーチン政権によるウクライナへの軍事侵攻に対し、欧米諸国は経済制裁の一環として、ロシア産原油の輸入を禁止する措置を始めた。この措置を受けて、原油市場で価格が高騰している。ロシア産以外の中東産や米国産の原油へ需要がシフトし需給が大きくタイトになってくるからである。
WTI原油価格で見ると、ロシア軍のウクライナ侵攻が始まった2月24日92.8ドル/バレルが、3月8日には123.7ドル/バレルとわずか2週間で33%の値上がりとなった。連鎖的に他の資源価格も上昇している。代表的な国際商品市況の指数であるTR/J CRB指数でみると、2月24日269.02から3月8日304.23への13%の上昇である。
上記のJOGMECのデータによれば、欧州向けの原油輸出が止まれば、その余剰分を全て埋められる先はないだろうということになる。政治状況や地理的条件からいって、中国は輸出先シフトの候補であるが、ロシア産原油はすでに中国の原油輸入の半分弱を占めており、最大でも欧州向けの半分程度を輸出できる可能性があるに過ぎない。
ただし、欧州は逆にOPEC諸国の増産に依存するわけで、特に増産余力があるとされるサウジアラビアがどれだけ欧州などに供給するかは価格次第であるかもしれない。2014年の原油価格暴落以前はおおよそ100ドル/バレル近辺を上下していた。当時から米国の消費者物価は20%程度上昇しているので、120ドル/バレル前後であれば産油国側からすれば、需要に見合った量を供給する目安になるかもしれない。サウジアラビアなどの増産部分だけロシアは減産を余儀なくされる構図になるだろう。
原油価格が120ドル前後で推移するのであれば、スパイラルなインフレーションが起こる可能性は大きくない。ただし、欧米では天然資源以外でもボトルネックが生じている分野が出てきており、しばらくはインフレ懸念が燻り続けるのではないだろうか。金融市場では長期金利の上昇圧力があり、米国をはじめとする金融当局は難しい舵取りを迫られているといえるかもしれない。
原油価格は製造業などにおける製品価格とは違い、平均コスト+平均利潤といった原理では決まらない。供給側のコストには大きな差異があり、価格は需要量に対する供給の限界コストが基準となってくる。サウジアラビアのような採掘コストが低廉な場合には、差額地代のような収入を得ることになり、これは需要側からの搾取であると位置付けられるだろう。
(2022年3月10日記)