活発化する大型業務提携、企業買収

「まなぶ」2021年6月号(労働大学出版センター
                               北村巌

業務提携という企業再編

3月12日に日本郵政グループと楽天グループが資本・業務提携を発表しました。ネット通販大手の楽天としては日本郵政が持つ配達網をはじめとする経営資源を活用し、同業のAmazonとの競争を有利にしたいと利害があり、日本郵政の側は成長可能性のある配送業務の顧客確保という利害が一致したものでしょう。日本で配送を大手宅配業者や日本郵政に依存していたアマゾンは中小零細の配送業者を専門化させることで自前の配送網を構築し始めており、日本郵政としては将来的な配送業務による売り上げの確保と新規分野の開拓、楽天の持つIT技術の応用や楽天銀行との金融業務での連携という目的であろうと思われます。
業務提携は通常は資本異動をともなわない提携を指しますが、今回の提携では資本提携も行うことになっており、日本郵政が楽天に約1500億円を出資します。楽天は同時に他にも資金提供を受け、2423億円の株式発行による資金調達を行います。これにより日本郵政は楽天の株式の8.3%を保有する大株主となります。楽天が日本郵政の子会社になるわけではありませんが、資本関係を通じて利害を一体化させるという効果が出てきます。
一方で、ネット通販大手のヤフーも2020年3月にヤマト運輸と業務提携で基本合意しており、ネット通販業界が配送面で業務提携を通じた陣営形成をし、国内では3大グループに集約されていく動きが起きているわけです。
こうした大型業務提携の例が増えてきているわけですが、業務提携にはいくつかのパターンとそれの複合というケースがあります。大きく分けて、① 技術提携、② 生産提携、③ 販売提携、です。いずれもお互いの企業の弱点を補強しあって、より競争力を高めたいと思惑から行われています。
こうした業務提携が進めば、これまでの業務範囲を変化させ、提携がスムースに行くように企業自体の業務の再編も行なっていくことになります。いわゆるリストラが業務提携をきっかけに進められていくことになるでしょう。
また、今回の日本郵政と楽天のように業務提携に一体感を持たせるためには資本提携も進んでいく場合が多いと言えるでしょう。

国際的な大型企業買収が続いています

3月31日、日立製作所が、米国のデジタルトランスフォーメーション支援を行うデジタルエンジニアリング企業グローバルロジックを約96億ドル(約1兆629億円)で買収する契約を締結したと発表しました。グローバルロジックは2000年に米国カルフォルニア州に設立されたデジタルエンジニアリング事業を展開する企業です。インターネットに接続された様々な機器で集めたデータをクラウドへと送る「チップ・トゥ・クラウド」を素早く開発する高度なソフトウェアエンジニアリング技術と、それに基づくデジタルトランスフォーメーション支援力が強みであるとしています。
グローバルロジック社はオフショア開発の人員を含めて世界中で2万人以上の従業員と、営業拠点となる9箇所のリージョナルオフィスを擁しています。この他に、エンジニアリングセンターを世界中で30箇所、顧客との協創を行うデザインスタジオを8箇所持ち、顧客数は400社以上で、通信、金融サービス、自動車、ヘルスケア、メディア、産業分野と幅広い領域に及ぶ、と報道されています。
日立製作所による買収は、日本の多くの企業や公的機関が自らのデジタルトランスフォーメーションに取り組みだし、その収益機会を狙うという短期的側面と、デジタル技術力を底上げするという長期的な戦略に基づいていると思われます。
これに対抗するかのように、パナソニックは、4月23日、製造・流通業向けソフトウエアを手がける米国のブルーヨンダーを約71億ドル(約7700億円)で買収することを決めたと発表しました。「ソフトウエアの知見を取り込み、企業のデジタルトランスフォーメーション支援を収益源の一つに育てる」としています。
日立製作所やパナソニックは、日本を代表する重電メーカーと家電メーカーですが、ともに90年代からモノの生産からソフトへの転換を目指してきました。しかしながら、自社のみでの研究開発力では国際競争力で劣る分野が出てきている状況になってきたと言えます。それが海外の先端技術企業買収の大きな動機です。
日立製作所の場合、今回の買収だけでなく、多くの分野で企業や企業部門の買収や業務提携を行う一方、4月28日には、子会社の日立金属を米国の投資ファンドに売却することを決めています。つまり、ただ大きくなるだけでなく、分野によっては縮小し、企業グループ全体の業務分野をより大きな利益を上げるために再編していく動きを示しているわけです。
こうした買収により、大手企業は戦略的に自社の業務分野を再編し、またこれまで蓄積してきた金融資産(貨幣資本)を活用して「資本の集中」を図っていると言えます。日本企業は310兆円(非金融民間法人企業、2020年末、「日銀資金循環統計」)もの現金・預金を保有しており、その資金力を企業買収などでの資本集中に活かそうとする動きが強まっているのです。
海外では、これまでも特にIT関連業界での企業買収・合併の動きが目まぐるしく続いており、例えばグーグルの企業グループであるアルファベットは20年間に242社もの企業買収を行なって成長してきました。有名で大型なものでは、アンドロイド(2005年)、ユーチューブ(2006年)、ダブルクリック(2007年)などがあります。日本企業の海外企業買収は、ここ数年に活発化し急増していますが、米国などのIT大手企業に比べるとかなり立ち遅れた感があります。

こうした資本の動きは、私たちの労働条件にどのように影響してくるでしょうか

業務提携にせよ、買収・合併にせよ、企業のリストラの動きを進めるものであることは、間違いありません。今後の中核ビジネスにはならないと判断された事業分野は、売却されたり、廃止されたりすることになります。特に現在利潤率が低くなってしまったり採算が取れなくなったりした事業分野の場合、いわゆる再生ファンドに売却され、企業再生の名目のもとに人員削減や労働条件の切り下げが行われる場合が多いのです。再生ファンドは長期的に経営するわけではなく、短期間に他の企業に売却して利益を上げることを目的にしています。買収した企業、部門をさらに切り分け、高く売れる部分を売却したり、採算の合わない分野を潰すといったケースもあります。他の企業に売却された場合も、さらに労働条件が切り下げられる可能性は高いといえます。最悪のケースでは企業を解散し、資産売却でファンドが利益を上げるという方法もあり、この場合には労働者全員解雇ということになります。
日本には外資(主に米国)系の企業再生ファンドであるリップルウッド、ローンスター、サーベラス、カーライルなどが進出してきており、企業や事業部門買収による収益機会を狙っています。また中小企業を対象に、ジェイウィルパートナーズやルネッサンスキャピタルグループなど日本の企業再生ファンドも生まれています。これらの再生ファンドは単に買収した企業の株主として圧力をかけるだけでなく、リストラのコンサルタントとして企業の経営に直接、具体的影響を及ぼし「再生」=利潤回復のためのコストカットを強力に行います。これをハンズ・オンと呼んでいますが、当然、労働者の賃金切り下げや人員削減が強行される場合が多いのです。
企業買収による企業の再編は利潤の拡大には寄与するものの、経済全体の成長にはあまり寄与しません。こうした企業買収に資金を使い設備投資は行わないわけですから、コスト抑制による生産性の上昇には効果がありますが、需要を増やすものにはならないからです。


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