月刊「まなぶ」連載 経済を知ろう!第17回 貿易と国際分業

月刊「まなぶ」2024年5月号所収

外国貿易の動向と役割

 私たちが手にする消費財の多くが輸入品になってきました。国内で最終製品になったものでも、輸入された原材料や部品がごく普通に含まれています。一方で、日本も外国への莫大な輸出を行っています。貿易統計(財務省)によると、2023年の輸出額は100兆8738億円、輸入額が110兆1956億円となり、9兆3218億円の輸入超過、つまり貿易赤字となっています(図)。日本の2023年の名目GDPは591兆円で、輸出はその17%、輸入はその19%を占めています。日本経済において貿易が大きな部分を占めていることがわかります。
 貿易統計にある形のある財だけでなく、サービスについても海外との取引があり、「サービス貿易」と位置づけられ国際収支統計で推計されています。日本は2000年ころまで、ずっと大幅な赤字がつづいていましたが、近年は外国からの観光客の流入や知的財産権の受け取りが増え、かなり縮小しています。サービス貿易には、輸送、旅行のほか、建設、金融サービス、知的財産権使用料、通信・コンピューター・情報サービス、個人・文化・娯楽サービスなどがあげられます。
 近年注目されているインバウンドは、国際収支上で旅行および旅行関連輸送(航空輸送など)の合計を「観光関連サービス」という分類で捉えており、2023年の収支は3兆5759億円の黒字になっています。2014年までは赤字がつづいていたので、大きな変化です。
 知的財産権も2023年は3兆1508億円の黒字ですが、2002年までは赤字が続いていました。知的財産権の収入をサービスと捉えるのは資本主義的な考え方です。特許権など知的所有権という人間労働によって生産されていないものの貸借によって得る収入ですから、本来は不動産の賃貸料と同じような財産所得(投資収益)と考えるべきでしょう。
 貿易は、基本的には外国と互いに必要なものを交換するという仕組みです。しかし、生産できるものであってもほぼ一方的な輸出・輸入関係になることがあります。これは各国のコストの違いによるものです。こうして貿易を通じた国際分業が進んできました。
 しかし、世界的に見ると、貿易は成熟過程に入っており、今後さらに大きな増加率で世界貿易が膨らんでいくことはなさそうです。

図 日本の財・サービス貿易の推移

 
(出所)日本銀行『国際収支統計』

貿易立国から資本輸出へ

 1970年代くらいまで、日本政府は貿易立国を目標にしていました。天然資源に恵まれない日本で工業を発展させるためには、原油などのエネルギー源や鉱物資源などを輸入に頼る他はなく、その資金が輸出によって稼がなければならないという意見が主流でした。じっさいに日本で産出できる原油の量はわずかですし、金属鉱物資源も少なく、外貨を稼ぐ必要が会ったことは事実です。
 輸出に力を入れた結果、日本は1970~90年代にかけて大きな貿易黒字を計上するようになりました。途中、オイルショックの影響で一時的に収支が悪化したことはありますが、貿易黒字による経常収支黒字の累積によって対外純資産 を増やすことになりました。
 対外資産(外国への資産)、対外負債(外国への負債)はどちらも増加してきましたが、対外資産の増加の方がはるかに大きく資産から対外負債を差し引いた対外純資産が増加してきたのです。
 これは経常収支が大幅な黒字で、国内貯蓄に過剰が生まれ、それを外国に投資することで吸収していった結果でした。外国との資本移動を自由化していったこともこの
当初、この対外資産は主に金融機関や機関投資家による米国債を中心とする証券投資の累増となりました。しかし、次第に国際化した企業が外国への直接投資(企業進出)に向かうようになりました。こうした企業進出も、単純な各々の国の生産物の貿易に替わる国際分業の一つの形です。
2022年末の日本の対外資産残高(財務省)は1338兆円で、そのうち証券投資が531兆円、直接投資が274兆円となっています。対外負債は919兆円なので、純資産として418兆円あります。

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