月刊「まなぶ」連載 経済を知ろう! 第21回 証券市場の役割

証券のはじまり

 資本主義経済の中での証券の役割を、まずは証券(株式、債券など)のはじまりから見ていきましょう。
 事業を行うにあたって多くの人から資金を集め、その成果を分配するという方法は、かなり古くから行われていました。しかし、継続的な会社組織として資本を多くの人から集め、利益を分配するという近代的な株式の発行は、オランダの東インド会社が最初とされています。
 1588年のスペイン無敵艦隊敗北以降、オランダとイギリスが海洋進出を果たします。オランダでは、大商業都市のアムステルダム、ゼーラント、ロッテルダムにインドとの貿易会社が設立されます。この合同会社は貿易船隊を編成するたびに新設され、積荷を売却して利益を手に入れると社員間で分配し、形式上解散する仕組みでした。各船隊が利益確定を行うため、同時期に東インドで香料・胡椒を買いつけ、同じようにアムステルダムで売却するため、激しい価格競争が起こります。その結果、香料・胡椒のインド買付価格の高騰、アムステルダム売却価格の下落が生じ、オランダの東インド貿易は収益を生まなくなります。
 これに危機感をもったオランダ連邦議会は1602年3月10日、アムステルダム、ゼーラント及びロッテルダムの貿易会社を合併させ、株主の権利を表章した株式を発行し、全株主の有限責任制を盛り込んだ合同東インド会社を設立するよう勅令で指示、同社にオランダ国内での貿易独占権を与え、ここに世界最初の「全社員の有限責任制」を盛り込んだ近代的株式会社が誕生しました。
 株式会社制度が生まれ、株式が発行され、多くの出資者から資本を集めることができるようになったことによって、継続的かつ大規模に事業を行う企業が増加しました。大規模であることの利点が発揮される分野では、個人経営の事業を凌駕し、また、大資本でなければできなかった重工業などの産業分野を発展させることになりました。
 株式会社制度によって、企業経営と企業の所有の分離が始まります。企業の経営者は、株主による出資高に応じた投票権によって選ばれます。そして彼らに多くの権限が委任されることになります。一方で、株主はそれぞれの出資高に応じて企業の純資産部分を所有していることになり、定款に定められた重要事項だけを株主総会で決定することになります。
 株式と並んで、国家が元本と利払いを保証する債券(国債)が発行されるようになりました。国債は当該通貨建てであれば元利払いが行われなくなるリスクはかなり小さいため、住宅ローンや設備投資のための銀行貸し出しなど長期資金の金利を決める基準になりました。

流通市場の発達

 企業や政府などが証券を発行して資金調達する市場を発行市場と呼びます。じっさいは取引所などでの売買ではなく、証券発行を引き受ける業者が顧客に発行条件を提示して購入の募集を行うということを指します。
株式や債券といった証券が譲渡可能であれば、当初の購入者もいつでも換金できるということで買いやすくなります。反対に発行もしやすくなる、ということになります。そのためには既存の証券を売買できる流通市場が必要になります。流通市場は証券取引所などが制度的に整えられうことで発達してきました。
 流通市場が発達すると企業の出資者である株主は、株式という証券の売買によってつねに変動し、不特定多数の株主が存在することになります。このため、株式会社として株式を公開する企業は、会社の財務情報などの経営情報を正確に公開することが必要になりました。情報の伝達の公平さも必要になりました。また、流通市場の発達は投機的な取引も増加させます。公正な取引のためには法的な規制が欠かせません。
 証券市場は金融機関や年金資金など機関投資家の資金運用の場でもあります。長期的な資金運用として企業の利潤の分配を受ける手段としての株式やリスクの比較的小さい資金運用などを対象としての債券への投資が中心になります。機関投資家の発達も流通市場を大きく発達させる要素となりました。

日本の証券市場

 日本の証券市場はかなり発達した存在になりました。現在の東京証券取引所の株式時価総額はおおよそ1,000兆円に達しています。売買代金も1日あたりおおよそ4兆円(2023年)まで増加しています。売買代金の大きさは証券の流通性が高いことに繋がり、資金運用がしやすい市場になっているといえます。
 一方、日本の大企業の多くは金融資産を過剰に保有するようになったため、株主資本としての資金調達の必要はなくなってきています。そのため、既存上場企業の株式や株式に関連した証券の新規発行は少なくなりました。一方で、買収資金などや上がりすぎた自己資本比率を下げるために社債を発行する例が増え、社債市場の規模が徐々に大きくなってきました。社債の残高は85.5兆円(2023年末)となっています。
 

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