山陰の山里料理|記憶に残るひと皿
食の評価は、掛け算だと思う。
料理の味、接客の質、空間設計、価格設定...
数えきれないほどある変数をコントロールしながら
おいしさを土台に食体験としての価値をどれだけ高められるか。
逆に言えば
どんなにおいしい料理があったとしても
何かの評価が低くなると全体の評価も下がる世界。
そんな食の世界において
また行きたいと思わせてくれる店のひとつが
鳥取県の山奥にある山里料理の老舗「みたき園」だ。
今年も山菜が芽吹く季節にお邪魔してきた。
一歩足を踏み入れると自然豊かな庭園が広がり
小川のせせらぎに、のびのびと散歩する鶏の声など
まるで別世界に来たような空間。
食事は囲炉裏がある茅葺きの母屋と
少しずつ趣が異なる6つの離れで楽しめる。
料理の土台となる出汁は
さば節・いりこ・昆布・しいたけの4種類を毎朝用意。
自分たちで育てた大豆からつくる豆腐に
蒟蒻も毎朝手づくりしている。
蕗などの山菜は雪解けの春にみんなで収穫し
すぐに塩漬けにして1年を通して地元で採れたものを提供。
とちの実も地元の方々が採ったものを使い
代々伝わる山里の食材とその保存方法を継承している。
調味料も抜かりなく。
自然の手法で香りを調整した生しぼり醤油に
薪火で炊いた大豆に地元の米で手づくりした糀をあわせ
木樽で仕込んだ三年味噌。
赤砂糖に自然塩などを使用し
どのお料理も滋味深いのに洗練された仕上がり。
ガストロノミーツーリズムという言葉が流行る前から
ずっと変わらない精神と働く人の温かさ。
神戸から車で2時間。
次は紅葉の季節に、誰を誘ってお邪魔しようか。