租税戦隊タックスレンジャー【第6回ワッティーってなに?】
2017年、国際協力機構(JICA)とカンボジア租税総局(GDT)と共に、アニメーションを製作した。
カンボジアでは納税意識の低さも相まって、近隣諸国と比較しても税収割合は低い。そこでJICAは、納税者がスムーズに申告納税できるための簡易帳簿の導入や納税者教育などを支援していた。
その中で納税者の税に対する理解を深めるための広報活動の一環として、ワッティーを使った『租税』についての啓発動画を作成することになった。しかし、租税総局にとってみれば『何故ワッティー?』である。
そこで、日本の財務省から出向していたJICA専門家と共にアイデアを練る。打ち合わせはいつも良い緊張に包まれていた。
そのJICA専門家は元税務調査官のキャリア。まさか人生で『マルサ』と呼ばれていた方といっしょに仕事をすることになるとは思わなかった。『半沢直樹』で言えば、黒崎検査官だ。
なかなか、ドキッとする。
そんなJICA専門家の方は、我々からいくつか出したアイデアの中でも『戦隊モノ』のアイデアを気に入ってくれた。何故なら、カンボジアの税金を正義ヒーローのようなイメージにしていきたいという思いからだ。
そこでできたキャラクターが、タックスレンジャーだ。
タックスレンジャーたちマスクが3人の合わせて「TAX」になっている。クメール語だと税金を訳すと一文字なので、カンボジアとは言えども英語であることには突っ込まないで欲しい。
されど、税金なので平和的さもアピールしたい。だから、タックスレンジャーのアニメには敵との戦闘シーンは基本的にない。
代わりに、ブルーは道路工事、レッドは教師となり学校で教え、紅一点のイエローは医療現場で看護師として戦うのだ!
基本はワッティー動画という大人の事情もあるので、ワッティーも登場する必要もある。ワッティーは髭を蓄え、税金の仕組みを教える講師役だ。
「税金をなぜ払わなければならないのか?」
「累進課税とは?」
などの、税金の仕組みをよりわかりやすく図解する。
そしてたいせつなのが、税金を払わないとどうなるのか?
カンボジアの国民から税金が払われなくなると、タックスレンジャーのマスクバロメーターが下がりだし、エネルギーがなって苦しみだす。。。タックスレンジャーは税金をパワーにして活動しているのだ。
カンボジア国民がそんな苦しむタックスレンジャーを見かねて、税金を払ってくれる。そこのところは、なんとなくカンボジア人らしい。
するとエネルギーは回復して、タックスレンジャーは復活!ボロボロになっていたプノンペンの街を綺麗にしてハッピーエンドだ。
なかなかシュールな展開であるのは否めない。
このアニメーションは、背景に実写の写真や動画を一切使っていない。他のワッティー動画は啓発動画という特性上、アニメーションと実写を混ぜることが多い。
しかし、カンボジアは他国からの支援が多く、税金だけで賄われている施設や道路、公共物はほとんどなかった。つまりそこのところはアンタッチャブル。その辺を実写ではっきりさせて、突っ込まれないよう、あえてイラストにしたのだ。
カンボジアの税金徴収は、私が来た9年前より、とても仕組みがしっかりしてきている。税率も決して低くなく、外資には厳しくなってきた。カンボジアで活動する経営者視点でみると、悩ましいことではある。
しかし、これがカンボジアの未来にとっては、とても当たり前で大切なことだ。次に税金のアニメーションを作り際には、実写も織り交ぜた動画を作ることができるかもしれない。
ちなみに、このタックスレンジャーのアニメーションは、プノンペンの街中にある大型サイネージモニタでも繰り返し放映された。
ある意味ツッコミどころは多いアニメーションだったかもしれないが、たくさんの人の目に止まった作品になったかもしれない。