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[Climate Curation #137]気候変動政策の岐路 - COP29後の日本の選択と世界の潮流

以下の内容は2024年11月30日に配信したニュースレターClimate Curation #137と同じ内容です。今後継続的にメールとして受信を希望をされる方はtheLetter 、或いは Linkedin経由で購読頂けたら幸いです🙂。毎週土曜日にメールボックスにお届けしています。

こんにちは。新しく登録してくださったみなさん、ありがとうございます。直近1週間の気候変動・脱炭素・Climate Tech関連の国内外のニュース・トピックをご紹介するニュースレターを配信している市川裕康と申します。継続して読んでくださっているみなさん、いつもありがとうございます。おかげさまで「Climate Curation」は現在theLetterにおいて740名を超える方に購読頂いてます。2023年秋にスタートしたLinkedinのニュースレターでは1,050名を超える方に登録いただき心より感謝いたします。*日本関連の英語記事をキュレーションしている英語版のJapan Climate Curation [購読者数約3,000人]もよろしければぜひ覗いてみてください。


【COP29振り返り】
前回配信のニュースレターでお伝えした通り、11月18日〜23日の間、気候変動報道やメディアを支援するNPO Media is Hopeのメンバーとして、アゼルバイジャンで開催されたCOP29に参加する機会をいただきました。

COPへの参加は今回が初めてでしたが、200カ国から65,000人が参加する史上2番目の規模となった本会議の壮大さに圧倒されました。実際に参加してみて、COPとは、ニュースの見出しを飾る政府間の合意だけではないことを実感しました。気候変動の影響に現在苦しむ発展途上国からの訴え、政府や企業、非政府組織による取り組みの展示、そしてサイドイベントでの議論など、多岐にわたる側面を持つことを知りました。

会期中、気候変動を取材するジャーナリストの方々と話をする機会があり、COP参加回数が10年や15年など、長年この分野を専門的に報道してきた経験豊富な方が多いことにも驚かされました。専門的で時に複雑な事象を体系的にレポートしている Carbon Brief 、COPなど気候変動関連のイベントのライブ配信やインタビュー動画を数多く配信している We Don't Have Time 、独立系市民メディアである Democracy Now! Productions 、経済メディアでありながら気候変動報道にビジネス視点で報道に取り組む Bloomberg GreenFinancial Times 、「気候危機」に対する危機感から積極的な報道に取り組んでいる The Guardian など、約3,500人ものメディア関係者、ジャーナリストが参加されていたとのことです。日本からも数多くのメディアの方が参加し、連日現地からの様子をレポートされてました。どうしても日本で話題になりがちなテーマとしては「延長を経た最終合意文書の内容」、或いは「化石賞受賞」などがありますが、COP29期間中には様々な特集記事、ドキュメンタリー番組なども掲載、放映されてました。国内でも気候変動に関して議論したり、学ぶ機会になっていることを願ってます。

また、COP期間中に注目を集めた新しいSNSプラットフォーム「BlueSky」が、多くの気候変動ジャーナリストに活用されていることを知りました。例えばこちらのGreenSkyと題したGoogleスプレッドシートには約1,200人もの気候変動関連のジャーナリストや研究者のアカウントがまとめられています。私も早速アカウント[socialcompany.bsky.social]を作成し、今後は英語での情報発信に力を入れていく予定です。フォローしていただければ幸いです。

12月2日にはCOP29報告会がMedia is Hope主催で開催されます。専門家、若い世代、企業、メディアなど、様々な側面から現地の雰囲気含め伺える機会とのことです。自分も少しだけお話させていただく予定ですが、とても楽しみにしています。オンライン視聴はどなたでもwelcomeとのこと。よろしければ是非ご参加ください🙂

メディア向けCOP29報告会
■ 日時:2024年12月2日(月) 16:00-18:00
■ 場所:ハイブリッド開催@City Lab TOKYO
■ 主催:一般社団法人Media is Hope ■ 共催:日本環境ジャーナリストの会
■ 定員:対面50名(メディア関係者のみ)、オンライン300名(どなたでも参加可能)

image credit: Media is Hope

【⭐📰👀今週気になったニュース・トピックス】

【1】『COP29: バクーでの国連気候変動会議で合意された主要成果』COP29: Key outcomes agreed at the UN climate talks in Baku [11/24 Carbon Brief]

COP報道で一番印象的なものとしては『COP29、途上国支援3000億ドル(約46兆円)で合意』、という見出しが思い出されるかもしれませんが、気候変動の科学と政策に特化した英国を拠点とするニュースサイトであるCarbon BriefはCOP29最終日に以下の全2万文字の成果のまとめを掲載しています。その数日後には動画で解説ウェビナーも実施され、アーカイブ化されています。最近の自動翻訳や要約機能は目を見張るものがあります。こうしたテクノロジーも活用しながら是非こうした最先端の知見に触れていきたいと思いました。

image credit: Carbon Brief

【2】NHK "脱炭素社会への動き"タブより

COP29開催を経て、エネルギー基本計画の素案が年内にとりまとめられるというタイミングにおいて、矢継ぎ早に様々な政策の方向性を示す報道が続いています。こうした見出しを目にする際、自分の生活や暮らし、ビジネス、そして途上国も含めた広い視点で、SNSや、時に海外の論調も踏まえながら立ち止まって考えることが求められるのでは、と感じます。

【3】温暖化関連の審議会で委員が「意見止められた」と訴え 環境相は釈明 [11/29 朝日新聞🔏 / 🎁 ギフト記事 12/1 15:56まで閲覧できます]

先日来、気候変動対策やエネルギー政策の今後に興味を持っている方々の間で話題になっている事案としてこちらの記事を紹介させていただきます。温暖化対策に関する政府の審議会において、意欲的な気候目標を提唱する委員の意見書提出が阻止される問題が発生し、議題との不一致を理由としたものの、政策議論の開放性について懸念が提起されたとのことです。

  • 環境省と経済産業省による温暖化関連の審議会で、委員が書面による意見提出を阻止されたと主張 [アーカイブ動画 49:30頃〜]

  • ハチドリ電力社長の池田将太氏は、温室効果ガス75%削減と再生可能エネルギー60%を求める意見書を欠席時に提出しようとした

  • 省庁側は議題との不一致を理由に延期を求めたが、欠席委員からの意見書提出は一般的な慣行

  • 浅尾慶一郎環境相は、妨害の意図はなく、議題との不一致による延期要請だったと説明 [アーカイブ動画:8:40頃〜]

  • 審議会は後に2013年度比60%削減を軸とする案を提示

【4】都合のいい解釈? 日本の気候変動政策につきまとう「疑問符」[11/22 毎日新聞🔏]

外交の舞台では自国中心の発言をすることが一般的、経済成長を維持しながら脱炭素を実現するためには...という考え方もあり、また今後の気候変動の影響、今議論されている政策の内容を理解するのがなかなか難しいことで目をそむけたくなる場面もあるかもしれません。こちらも有料課金記事ですが、知っておきたい大事な視点、と思いながら読みました。

  • 日本政府は2013年を基準年として温室効果ガス削減が「オントラック」だと主張しているが、この基準年は福島原発事故後の原発停止により排出量が異常に高かった時期である。

  • 欧州諸国が使用する1990年との比較では、日本の2022年時点での削減率11%はEUの37%と比べて見劣りし、真の進捗に疑問が投げかけられている。

  • 国際研究プロジェクト「クライメート・アクション・トラッカー」は、2030年目標達成には更なる野心的な政策が必要で、1.5度目標に整合するには2035年までに2013年比81%削減を提言している。

  • 石炭火力発電所への「対策」について、国際基準では90%以上のCO2回収が期待されるのに対し、日本はアンモニア・水素混焼を十分な対策とみなしている。

  • 日本が推進する技術には、インフラ整備要件や高濃度アンモニア・水素混焼の経済性など、実現可能性に課題が残る。

【5】気候・エネルギー政策セミナー「再生可能エネルギー主力電源化を巡る論点」[11/20 Climate Integrate ]

独立系シンクタンクClimate Integrateが再生可能エネルギーの主力電源化に向けたセミナーを開催し、アーカイブ動画が公開されています。政府、研究機関、地方行政からの専門家が集い、技術分析と政策展望の両面から実装への課題と機会が議論されています。セミナーで紹介された『再エネ主力電源化を巡る論点』と題したレポートでは、再生可能エネルギーの強みとして経済性、ポテンシャル、柔軟性、産業技術が挙げられ、再エネ主力電源化のベネフィットとしては、エネルギー安全保障の強化、脱炭素社会の実現、経済成長・国際競争力強化、地域活性化などが指摘されています。様々な議論の論点が挙げられていて参考になりました。

【6】電力需要急増を受け、米国が2050年までに原子力発電を3倍増とする計画を発表 (US Unveils Plan to Triple Nuclear Power by 2050 as Demand Soars)[11/12 Bloomberg]

米国の動向を見るとクリーンエネルギーやclimate tech分野の投資もありながらも原発推進を加速しているようです。

バイデン政権は2050年までに原子力発電容量を3倍に増やす計画を発表し、新規原子炉の建設、再稼働、施設アップグレードにより200ギガワットを追加する目標を掲げています。トランプ次期大統領も支持するこの超党派的イニシアチブは、10年以内に35ギガワットの新規容量を目指します。この計画は、マイクロソフト、グーグル、アマゾンなどのAI運用における無炭素電力需要の増加に対応し、COP29での国際的な気候目標に沿うものです。

  • 2050年までに原子力発電容量200ギガワット追加、10年以内に35ギガワットを目標

  • 超党派の支持を得て、特にAI分野におけるテクノロジー部門のエネルギー需要に対応

  • ホワイトハウスは労働力不足、燃料供給、規制の枠組みなどの課題に取り組む

  • マイクロソフト、グーグル、アマゾンなど大手テック企業が原子力発電に関心

image credit: Bloomberg Green

【7】BYDなど中国勢が東南アなど世界市場で攻勢、日系メーカーは守勢に [11/27 ブルームバーグ]

世界の自動車市場において、中国メーカーの攻勢により日本メーカーの地位が急速に低下しているとブルームバーグの記事が数多くのグラフとともに指摘しています。特に中国市場では日本メーカー6社全てが苦戦し、かつての牙城だった東南アジアでも中国勢に市場シェアを奪われているとのこと。主な要因はEVシフトの遅れと、中国メーカーの低コスト電池技術や効率的なサプライチェーン構築能力。日本メーカーは反転攻勢に向けて、ソフトウェア開発や固体電池など新技術への投資を進めているものの、厳しい状況が続いていると指摘しています。

image credit: Bloomberg

*EVはもっと安くなる-BYDが快進撃、身構える日米欧の自動車業界 [10/18 ブルームバーグ]

BYDのグローバル展開を率いる李柯(ステラ・リ)執行副社長と現在と今後のグローバル戦略が紹介されています。

【8】Northvoltの失敗から学ぶ教訓 欧州バッテリー産業育成に巨額投資も失敗 - 外国投資家の受け入れが賢明な選択 [11/28 The Economist🔏]

欧州における「気候テック」の象徴的なスタートアップの破綻は大きな衝撃を持って受け止められ、様々なメディアにおいて失敗の分析がされています。

欧州の野心的なバッテリースタートアップNorthvoltは、総額150億ドル(政府支援50億ドル含む)の資金調達にも関わらず、2024年11月21日に破産申請。ゴールドマン・サックスやブラックロックなどの大手投資家の支援、主要自動車メーカーからの500億ドル相当の受注があったにもかかわらず、運営の非効率性と経営判断の誤りにより失敗。この事例は、政府支援による産業育成の限界を示し、より効果的な選択肢として外国直接投資の重要性を浮き彫りにした。TSMCやCATLなどアジア企業の欧米展開の成功は、保護主義的な産業政策よりも、外資による技術移転の有効性を示している。

  • 莫大な投資(総額150億ドル、政府支援50億ドル)にも関わらず失敗し、政府主導の産業政策の限界を露呈

  • 強力な市場支援があったにも関わらず、運営の失敗と経営判断の誤りにより大きな損失

  • 政府支援が事業の成功を保証するという想定への疑問を提起

  • 技術発展における外国直接投資の有効性

  • アジア企業の欧米市場進出の成功が示す技術移転モデルの実効性

【9】気候テック革命に打撃、トランプ2.0で支払う「米国ファースト」の代価 [11/29 MITテクノロジー・レビュー🔏]

トランプ次期大統領が提案する「米国ファースト」政策による高関税は、気候テック分野に大きな影響を及ぼす可能性がある。特に中国製品への最大100%関税、メキシコ製品への25-100%関税は、バッテリー、鉄鋼、EVなどのクリーンエネルギー関連製品の輸入コストを数十億ドル押し上げると予測される。これにより、クリーンエネルギーへの転換が遅れる懸念がある一方、米国内の製造業促進という効果も期待される。ただし、インフレ促進や他国の報復措置など、経済への悪影響も指摘されている。

  • トランプ次期大統領の関税政策により、中国製バッテリーのコストが最大で40億ドル増加する可能性がある

  • メキシコからの鉄鋼輸入に25-100%の関税が課された場合、11億から42億ドルの追加コストが発生する

  • 世界最大のEV輸入国である米国では、関税により44億から88億ドルのコスト増が予想される

【10】気候変動を食い止めろ![11/18 放映→NHKオンデマンドで視聴可能]

日本発の革新的な気候テック技術が続々と登場している様子を丁寧に取材したドキュメンタリー番組が2回シリーズでまとめられています。NHKオンデマンドは1作品220円から、或いは英語版は無料で視聴可能です。

日本の大企業、行政、スタートアップが様々な分野で技術を駆使して脱炭素化、気候変動対策に取り組む様子が窺えて、とても勇気をもらう内容でした。CO2を吸収するコンクリートや耐火性に優れた木造高層ビル、営農型太陽光発電などの緩和策、東京都による地下洪水対策トンネル、鶴見川の流域治水システムのインドネシアへの技術移転、感染症対策などの適応策など様々な分野の取り組みを学ぶことができます。

*今夜放映予定の番組調査報道 新世紀File7 気候変動対策の“死角” [11/30 午後10:00〜午後10:50]

【イベントご案内】

いずれのイベントも会場で登壇、運営支援などで現地に伺います。もしお近くでご興味ある方いらしたら是非お気軽にお立ち寄り(或いはオンライン視聴)いただけることをお待ちしています🙂


ここまでお読みいただきありがとうございました! 今回は以上となります。もしニュースレターが有益と感じられたらSNSなどで「いいね」や「シェア」をお願いします 🙇‍♂️🙂[ハッシュタグ: #ClimateCuration ]。みなさんのネットワークの中で、気候変動に関する情報を必要としている方に届くきっかけになれば幸いです🙂。


*気候変動、脱炭素、気候テック関連のリサーチ等にも力を入れています。海外の業界動向調査やコンサルティング等、お仕事のご相談・ご依頼がありましたら、どうぞお気軽にご連絡下さい。

では、よい週末をお過ごしください🙂🙋
市川裕康 株式会社ソーシャルカンパニー | www.socialcompany.org

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市川裕康 (メディアコンサルタント)
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