いつだってなんだってできるはず、とぼくが言える理由 —— 写真家 栗山泰輔 【地域と歩むまちづくりvol.5】
こんにちは。沖縄県名護市の「地域の公園」coconovaです。
このnoteでは、coconovaをキッカケにあたらしいことを始めてくれた人たちのインタビューをお届けしています。
今回は、coconovaのギャラリーで写真展を行った、写真家の栗山泰輔さんをご紹介したいと思います!
限られた視点から、世界の「当たり前」を問い直す
「ぼくは人間の視野よりずっと狭い画角の写真が好きなんです」
小さく切り取られたフレームの中に、大きな世界の広がりを感じさせる写真の数々。2021年2月、写真家の栗山泰輔さんによる写真展『感性』がcoconovaのギャラリーで開催されました。環境問題やコミュニティ、そして栗山さんが携わってきた薬学の世界などをテーマにしたと栗山さんは言います。
「これまで30年間生きてきて、考えたことや感じたことをすべて出してみようと思ったんです。別に『こうです』ってなにかを伝えたいわけじゃないけど、ぼくの写真を通じて好奇心が高まったり、ワクワクする気持ちになってほしい、と願いながら展示をしました」
写真を撮り始めるようになって、当たり前のことが当たり前ではないと感じるようになったという栗山さん。はじめて行う個展で不安もあったといいますが、予想を超える反響があり、感動して涙を流す人もいました。
またこの個展では「感性の交換」として、ポストカードの販売にペイフォワードの概念を導入しました。別のお客さんが支払ってくれたポストカードを受け取り、次のお客さんの代金を支払う、という仕組みです。
ペイフォワードに参加したひとの数は100名以上。ポストカードに記入した感想や想いをお客さん同士で贈り合う光景が生まれました。
「ペイフォワードの売り上げもまた、ぼくが受け取るのではなく、これからcoconovaのギャラリーで展示をする人達に贈ることにしました。今回は、展示してみたい学生さんたちにペイフォワードします。みんなの思いで集まったお金がcoconovaから地域に広がって、みんなが元気になっていったら面白いなと思うので」
沖縄でみつけたコミュニティGoMe
栗山さんは兵庫県に生まれ、京都の大学で薬剤師の資格を取得し、卒業後は大阪に就職しました。「もともと都会が好きじゃなかった」という栗山さんがパートナーと共に沖縄で住み始めたのは2019年のこと。大阪にいた頃は、薬剤師として順調にキャリアを重ねていましたが、一方で都会の生活や仕事の在り方に違和感も感じていたといいます。
「都会は自然が少ないから、落ち着く場所も少ないんですよ。それに、薬剤師として自分で販売している薬にどんどん疑問を感じるようになってました。当時はお店の責任者として利益のために薬を売ってたけど、薬で根本的に身体が良くなることはないと考えるようになったんです」
そうした都会での生活や仕事の仕方を変えるため沖縄にやってきた栗山さんは、現在の活動の原点となる場所に出会います。
「めっちゃかっこいい大人たちがオーナーをやってる、恩納村のGoMe(ゴーミー)っていうバーに行く機会があって、定期的に通うようになったんです。今の交友関係もGoMeが元になってるし、カメラをはじめたきっかけもGoMeです。1年前にGoMeでサウナつくるときにカメラマンをやる機会があって、それから写真を撮り始めました」
つながりの中で生まれた覚悟
GoMeの大人たちに励まされ、写真にのめり込むようになった栗山さんは、「ごゑん写真」という活動を開始。
Instagramで写真を撮ってほしい人を募集し、5円(=ご縁)だけをもらってさまざまな人の写真を撮影しました。これまでにバレエダンサーの方や、沖縄横断プロギング(ジョギング×ゴミ拾い)をした方、絵本カフェを開業する方などを撮影。栗山さんのInstagramで写真をみた着物専門店から、「専属カメラマンになってほしい」というオファーを受けたこともあるそうです。
「『ごゑん写真』は小さな活動でしたが、人とのつながりが広がっていく実感がありました。いろんな人を巻き込みながら写真も上手くなれたし、沖縄のご縁たくさんもらえたし、仕事にもつながった。想像もしてなかった面白いことがたくさん起きました」
2021年9月、仲間たちとともに、栗山さんは「この地球に生まれて」というイベントを主催。沖縄にきて関心を持ち始めた環境問題や自然について同世代で考える場として、ヨガや瞑想、泥かけ祭りなど、さまざまなプログラムが行われ、参加者同士で語り合う時間を過ごしました。
「仲間同士で夢や悩みを語り合うパートがあって、そのとき自分の写真についての意識も変わったんです。言葉で説明するのが難しいんですが、参加者が互いに影響し合って話をはじめたり、歌ったり、ダンスやパフォーマンスをはじめたりする時間の中で、『自分も覚悟を決めて写真をやっていこう』って思えたんです」
「ほんとうに大切なものはなんだろう?」
そんな折、coconovaの共同代表の北野に声をかけられ、個展の開催を決断しました。準備の過程で1年間に撮りためた3万枚以上の写真を吟味し、「ほんとうに大切なものはなんだろう?」という内省を行い続けたといいます。
「誰もお客さんが来なかったらどうしようとか、批判されてしまったらどうしようとか、めちゃめちゃ不安を感じました。でもやってみると、ぼくがみんなに感性を与えられるかというより、逆にみんなから感性をもらってるんだってことがわかった。そして、そういう感性における循環だけではなくて、ペイフォワードのような社会における良い循環も、ごゑん写真のような人との関係における良い循環も、すべてがつながってると感じたんです。『感性』のときは、僕自身もそうだし、展示会場の空間自体もどんどん更新されてゆく感覚がありました」
coconovaの写真展『感性』のあと、栗山さんは『センスオブワンダー』『あなたと、わたし』という2つの個展を開催。2022年10月にはcoconovaで2回目の個展を計画しています。
現在、実業家で著作家の高橋歩さんの本に写真を提供する仕事も行っており、活動の幅はどんどん広がっているそう。「ただの30歳がこんな個展できたし、いろんな人にも可能性を持ってほしい」と笑う栗山さんは、「いつだって、なんだってできるはず」と語ります。
「思考停止さえしなければ、いつかはいろんな可能性が現れると思う。ぼくは写真に出会うことができた。ぼくは問題を解決したいというより、ポジティブな方向へ向かう流れを少しでも広げていきたいと思ってるんですね。そうすれば、周りの環境も人も面白くなっていくじゃないですか。ぼくはまだまだやりたいことの途中ですけど、いつかはすべてを形にしていきたいと思ってます」